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異世界都市伝説大戦【改稿版】  作者: 知恵利一
第1部 死と生

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第29章 心を喰らう声

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⸻


 境内に響く化身の咆哮は、ただの音ではなかった。

 耳を塞いでも意味はなく、脳髄に直接染み込む。


《妬ましい……妬ましい……! なぜお前だけが選ばれる……!》


「……ッ……!」

 双雷は雷牙を握りしめたまま膝をついた。

 胸の奥から、得体の知れない熱がこみ上げる。


⸻


 視界が歪み、気づけばそこは闇の世界。

 黒い水面が果てなく広がり、頭上には無数の口と眼が漂っていた。


「ここは……!」

 双雷は叫ぶが、その声も闇に吸い込まれていく。


《お前は妬んでいる……本当は気づいているはずだ……》


 声が心を抉る。

 目の前に現れたのは――かつての仲間たち。

 笑い、嘲り、背を向けて去っていく。


「……クソッ……やめろ‼」


⸻


《お前は雷兆に選ばれた……水京に信じられている……

 だが本当は、それが妬ましいのだろう?》


「俺が……妬んでる……?」

 双雷は雷牙を握る手を見下ろす。

 その刃は黒く濁り、稲妻の代わりに瘴気を纏っていた。


《そうだ……妬みは力となる。

 受け入れろ……その心を……》


 闇の中で、無数の手が双雷の足を掴み、沈めようとする。

 冷たい水が膝を越え、胸まで迫ってきた。


⸻


「くっ……クソが……!」

 必死にもがくが、身体は沈んでいく。

 頭上の無数の眼が嘲笑した。


《妬め……! 妬め……!》


 双雷の意識が途切れかけたその時――。


「……双雷‼」


 かすかに水京の声が届いた。

 現実の境内から、必死に叫ぶ声。


「アンタは妬んでなんかない!

 ずっと、誰よりも前を見て走ってきた……!

 だから私は信じてるんだ‼」


⸻


 闇の中で双雷の瞳に光が宿る。


「……俺が……妬んでる? 違ぇよ」


 双雷は足を縛る手を振り払い、雷牙を高く掲げた。


「俺はただ――負けたくねぇだけだ!

 仲間にも、運命にも、化身なんざにも‼」


 刀身に再び稲妻が走り、闇を切り裂く。

 濁っていた刃は光を取り戻し、雷鳴が轟いた。


⸻


 視界が戻る。

 境内で膝をついていた双雷の周囲に、雷の光が弾けた。


「……ッ! 戻った!」

 水京が安堵の声をあげる。


 双雷は立ち上がり、雷牙を構えた。

 瞳には迷いの影はもうない。


「……妬みなんざに呑まれるかよ。

 俺の心は俺のもんだ……!

 さあ、次はこっちの番だ‼」

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