第18章 覚醒の兆し
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森を覆う瘴気は濃く、吐く息すら黒く染まるようだった。
地に倒れた双雷は、全身の力が抜け落ちていくのを感じていた。
「……体が……動かねぇ……」
震える腕を必死に持ち上げるが、化身の瘴気が絡みつき、重りのように押し潰す。
《抗っても無駄だ……妬ましい……お前の力も心も、全て奪ってやる……》
脳裏に直接響く囁き。
その言葉に、心臓が締め付けられるような痛みを覚えた。
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「双雷‼ 立て‼」
水京の叫びが届く。
彼女も血を流しながら必死に弓を構えていた。
だが、炎の矢はまたも瘴気に飲み込まれ、霧散する。
「くそっ……私じゃ……!」
膝をつく水京。
その姿を見て、双雷の胸に燃えるものがあった。
(……こんなところで……終わるわけにはいかねぇ……!)
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頭に浮かぶのは雷兆の顔だった。
『お前の器はもっと広がる。心が折れない限り、雷神は応える――』
あの師匠の声が、胸の奥で鳴り響く。
「……あぁ……そうだよな」
双雷は血を吐きながら、ゆっくりと立ち上がった。
全身にまとわりつく瘴気が、稲妻の音と共に弾け飛ぶ。
「俺は……もう逃げねぇ……! 誰も失わねぇ‼」
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その瞬間――。
背中から奔る雷光が夜空を裂いた。
髪は銀に染まり、瞳は蒼白く輝く。
稲妻を纏ったその姿は、まるで雷神そのものだった。
《なに……?》
化身の無数の口が驚愕に震える。
「聞けよ、化け物……! 俺の名前は鳴神双雷!
妬みも絶望も、全部まとめて叩き斬ってやる‼」
拳を握るだけで、大気がビリビリと震えた。
これまでとは次元の違う“力”が双雷の身体に宿り始めていた。
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水京は思わず呟いた。
「……これが……覚醒……」
稲妻の光が闇を切り裂き、瘴気すら押し返していく。
《ありえぬ……人の身で……その器は……》
化身が後退する。
「さぁ……ここからが本当の勝負だ‼」
双雷の咆哮が夜の森に轟いた。




