第17章 嫉妬の化身
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――森が震えた。
大地が軋み、空気が黒い粘液のように重くなる。
双雷と水京は前に出ていた足を止めざるを得なかった。
「……これが、本体……」
水京の手がわずかに震えている。
森の奥から現れたのは、人の形を模してはいるが、異様に歪んだ存在だった。
顔には無数の口が裂け、絶えず誰かの声を真似て囁いている。
身体は液体のように揺れ、周囲に漂う瘴気を吸い込み続けていた。
《……羨ましい……どうしてお前だけ……選ばれる……》
耳元で囁かれたかのような声が、双雷の頭をかき乱す。
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「来るぞ‼」
叫んだ瞬間、化身の腕が鞭のように伸びた。
双雷は反射的に電磁バリアを展開。
しかし、次の瞬間――
「――ッぐぅぅっ‼」
全身を叩きつけられ、地面にめり込む。
電磁バリアごと、押し潰されたのだ。
「双雷‼」
水京が炎の矢を放つが、化身は笑うように瘴気を吐き、炎ごと呑み込む。
《弱い……お前たちでは、妬みの闇は超えられぬ……》
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「チッ……まだだ‼ 【飛雷針・集轟】‼」
双雷が立ち上がり、三本の釘を放つ。
雷光が森を切り裂き、化身の胴を貫いた――が。
「なっ……」
雷光に焼かれたはずの身体が、黒い液体となって再生していく。
《羨ましい……その力……奪ってやる……》
声と共に、化身の瘴気が双雷の身体へと絡みつく。
頭の奥で、自分とは別の声が響いた。
《力なんていらないだろう? 楽になれ……妬まれるだけだ……》
「……っ、くそ、やめろ‼」
双雷は必死に意識を保つが、視界が揺らぎ始めた。
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「双雷‼ しっかりしろ‼」
水京が横から矢を連射する。
炎が黒い瘴気を一瞬だけ払うが、それでも化身は止まらない。
《仲間も裏切る……妬ましい……お前たちはいずれ壊れる……》
化身の全身から触手が放たれ、森を薙ぎ払った。
木々が爆ぜ、地面が崩れ、双雷と水京は吹き飛ばされる。
「ぐはっ‼」
「きゃあっ‼」
二人は地面に転がり、血を吐いた。
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立ち上がると、目の前に巨大な影が覆いかぶさっていた。
化身はゆっくりと、だが確実に迫ってくる。
圧倒的な力の差。
修行で鍛えられた力すら通じない現実。
「くそっ……! これが特級……!」
拳を震わせる双雷。
だがその瞳の奥には、まだ消えていない炎が宿っていた。
《お前たちの絶望……その妬みこそが、我の糧だ……》
囁く声が、夜の森に響き渡った。




