第16章 嫉妬の眷属
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夜の嫉妬区。
黒い雲が垂れ込め、月明かりさえ隠していた。
湿った空気の中、双雷と水京は森を進む。
「……妙だな」
双雷は立ち止まり、肌に走る感覚を確かめた。
瘴気が渦を巻いている。
「来る……!」
水京が弓を構えた瞬間、森の闇が蠢いた。
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現れたのは、人型とも獣ともつかない影。
無数の眼が爛々と光り、どろりとした声が辺りに響く。
《妬ましい……妬ましい……!》
「……くそっ、またあの声か!」
双雷は釘を構える。
「師匠が言ってたわ。化身の“眷属”よ」
水京の顔が引き締まる。
数は十を超える。
しかも動きは速く、獣のように四肢を地につけ、森を駆け抜けて迫ってきた。
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「まとめてぶっ飛ばす! ――【飛雷針・連弾】‼」
双雷が放った稲妻が三体を貫き、眷属は絶叫を上げながら黒煙となって消えた。
「いい威力じゃない!」
水京は息を合わせるように炎の矢を連射する。
「――【火焔矢・連射】‼」
炎の雨が降り注ぎ、眷属たちを次々と焼き払った。
だがその中で、一際大きな影が立ち上がった。
腕が四本、顔が歪んだ嫉妬の塊。
「デカい……! こいつがリーダーか!」
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四本腕が地を抉るように振り下ろされる。
双雷はバリアで防ぐが、衝撃で吹き飛ばされた。
「ぐっ……重てぇ……!」
「双雷!」
水京が炎の矢を放つが、四腕の眷属は咆哮し、炎を吹き飛ばすほどの瘴気を撒き散らす。
「効かない⁉」
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「なら……これだ‼」
双雷はポーチから特注の釘を取り出した。
鍛冶屋・鋼次が打った“強化済みの三寸釘”。
「――【飛雷針・集轟】‼」
三本同時に放たれた雷撃が直撃。
眷属の巨体が震え、頭部が爆ぜる。
「よっしゃ……決まった!」
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だが、霧散する寸前。
巨影は最後の力で呟いた。
《……主が……妬みの王が……待っている……》
その声に、双雷と水京は息を呑む。
「……やっぱり、本体は別格ってことか」
「ええ……でも今の連携なら、きっと通じる」
互いに目を合わせ、頷き合う。
前哨戦を超えた二人の心には、確かな自信が芽生えていた。
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――だが。
森のさらに奥から、圧倒的な瘴気が再び溢れ出す。
それは先ほどの眷属など比べ物にならない、桁違いの存在感だった。
「……来るな」
双雷の額に汗が伝う。
嫉妬区を蝕む本体――【嫉妬の化身】との決戦は、もうすぐそこまで迫っていた。




