第14章 嫉妬の影
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夜の嫉妬区。
水神宮司の神社に滞在していた双雷と水京は、境内の空気が急に張り詰めたことに気づいた。
「……なんだ、この寒気は」
双雷は肌に粟立つ感覚を覚え、即座に電磁バリアを展開する。
水京も弓を構えた。
境内に満ちる“瘴気”が、先ほどまでとは比べ物にならないほど濃くなっていた。
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「……来たか」
神社の奥から現れた水神宮司の声は低い。
「師匠、まさか――」
「間違いない。これは……“嫉妬の化身”の瘴気だ」
言葉と同時に、森の向こうから異様な影が現れる。
人の形をしているが、輪郭は常に揺らぎ、顔の部分は真っ黒に塗りつぶされている。
無数の声が重なり合ったような囁きが、空気を震わせた。
《どうして……どうしてアイツばかりが選ばれるんだ……》
《あの女ばかり……羨ましい……》
数えきれない嫉妬の念が、耳元で直接響いてくるようだ。
「……これが“嫉妬の化身”……」
双雷は喉を鳴らす。
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次の瞬間、影が一歩踏み出しただけで大地がひび割れた。
空気そのものがねじれるほどの圧。
「――くそっ‼ 飛雷針‼」
双雷は反射的に三寸釘を放つ。
稲妻が直撃する……はずだった。
だが影は“嫉妬の声”と共に黒い壁を生み出し、雷光をあっさり呑み込んだ。
《アイツばかり……力を持って……妬ましい……》
「なっ……効いてない⁉」
双雷の目が見開かれる。
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「下がれ、双雷‼」
水神宮司が叫ぶ。
次の瞬間、影の腕が長く伸び、まるで鞭のようにしなり境内を薙ぎ払った。
地面がえぐれ、石灯籠が粉々に砕け散る。
「やべっ――!」
双雷は転がってかわすが、間近に感じた衝撃は雷光よりも速かった。
「これが……特級……!」
息を呑む双雷の横で、水京が弓を引き絞る。
「くっ……【火焔矢】‼」
炎の矢が影を射抜く――が。
燃え盛る炎は、影の身体に触れた瞬間、まるで水に消されるかのように霧散した。
《妬ましい……妬ましい……》
無数の囁きが脳を蝕み、双雷と水京の視界が一瞬白くかすむ。
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「……くそっ、勝てねぇ……!」
双雷は奥歯を噛み砕くほどに力を込めるが、全身の震えは止まらない。
その時――。
宮司の声が境内を震わせた。
「今は退け! お前たちが力をつけぬ限り、この化身には敵わぬ‼」
次の瞬間、結界が展開され、神社全体を青白い光が包み込む。
影の腕が押し寄せるが、結界に阻まれてはじかれた。
《……いずれまた……妬みで喰らい尽くす……》
声を残し、影は瘴気と共に森の奥へと消えていった。
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静寂が戻る。
だが、双雷の胸は怒りで燃えていた。
「チッ……逃げていったんじゃねぇ。俺たちが何もできなかっただけだ」
「そうね……」水京も拳を握る。
震える声には、悔しさと同じだけの決意が宿っていた。
「双雷、水京」
水神宮司が二人を見据えた。
「次に相まみえる時、退路はない。……だからこそ――修行だ。命を削るほどのな」
その言葉に、二人は黙って頷いた。
瞳の奥には、怯えを超えた闘志が燃えていた。




