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異世界都市伝説大戦【改稿版】  作者: 知恵利一
第1部 死と生
14/33

第14章 嫉妬の影



 夜の嫉妬区。

 水神宮司の神社に滞在していた双雷と水京は、境内の空気が急に張り詰めたことに気づいた。


「……なんだ、この寒気は」

 双雷は肌に粟立つ感覚を覚え、即座に電磁バリアを展開する。


 水京も弓を構えた。

 境内に満ちる“瘴気”が、先ほどまでとは比べ物にならないほど濃くなっていた。



「……来たか」

 神社の奥から現れた水神宮司の声は低い。


「師匠、まさか――」

「間違いない。これは……“嫉妬の化身”の瘴気だ」


 言葉と同時に、森の向こうから異様な影が現れる。


 人の形をしているが、輪郭は常に揺らぎ、顔の部分は真っ黒に塗りつぶされている。

 無数の声が重なり合ったような囁きが、空気を震わせた。


《どうして……どうしてアイツばかりが選ばれるんだ……》

《あの女ばかり……羨ましい……》


 数えきれない嫉妬の念が、耳元で直接響いてくるようだ。


「……これが“嫉妬の化身”……」

 双雷は喉を鳴らす。



 次の瞬間、影が一歩踏み出しただけで大地がひび割れた。

 空気そのものがねじれるほどの圧。


「――くそっ‼ 飛雷針‼」

 双雷は反射的に三寸釘を放つ。

 稲妻が直撃する……はずだった。


 だが影は“嫉妬の声”と共に黒い壁を生み出し、雷光をあっさり呑み込んだ。


《アイツばかり……力を持って……妬ましい……》


「なっ……効いてない⁉」

 双雷の目が見開かれる。



「下がれ、双雷‼」

 水神宮司が叫ぶ。


 次の瞬間、影の腕が長く伸び、まるで鞭のようにしなり境内を薙ぎ払った。

 地面がえぐれ、石灯籠が粉々に砕け散る。


「やべっ――!」

 双雷は転がってかわすが、間近に感じた衝撃は雷光よりも速かった。


「これが……特級……!」

 息を呑む双雷の横で、水京が弓を引き絞る。


「くっ……【火焔矢】‼」

 炎の矢が影を射抜く――が。


 燃え盛る炎は、影の身体に触れた瞬間、まるで水に消されるかのように霧散した。


《妬ましい……妬ましい……》


 無数の囁きが脳を蝕み、双雷と水京の視界が一瞬白くかすむ。



「……くそっ、勝てねぇ……!」

 双雷は奥歯を噛み砕くほどに力を込めるが、全身の震えは止まらない。


 その時――。

 宮司の声が境内を震わせた。


「今は退け! お前たちが力をつけぬ限り、この化身には敵わぬ‼」


 次の瞬間、結界が展開され、神社全体を青白い光が包み込む。

 影の腕が押し寄せるが、結界に阻まれてはじかれた。


《……いずれまた……妬みで喰らい尽くす……》


 声を残し、影は瘴気と共に森の奥へと消えていった。



 静寂が戻る。

 だが、双雷の胸は怒りで燃えていた。


「チッ……逃げていったんじゃねぇ。俺たちが何もできなかっただけだ」


「そうね……」水京も拳を握る。

 震える声には、悔しさと同じだけの決意が宿っていた。


「双雷、水京」

 水神宮司が二人を見据えた。


「次に相まみえる時、退路はない。……だからこそ――修行だ。命を削るほどのな」


 その言葉に、二人は黙って頷いた。

 瞳の奥には、怯えを超えた闘志が燃えていた。

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