第13章 水神宮司の試練
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嫉妬区の街外れ、深い森の奥。
静けさの中にただ一つ、水のせせらぎと鈴の音が響いていた。
「ここよ」
水京が案内した先には、澄んだ泉を背にした古びた神社が建っていた。
その雰囲気はどこか神秘的で、雷神の社とはまた違う清浄さを纏っている。
鳥居をくぐると、既に一人の人物が境内に立っていた。
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白い狩衣に青い帯を締めた女性。
凛とした佇まいに加え、冷ややかさと優雅さを併せ持つ。
髪は水面のように青黒く、瞳は透き通る蒼。
「師匠……!」
水京が駆け寄り、頭を下げた。
「よく戻ったな、水京」
女性は柔らかく頷き、続けて双雷に視線を移す。
「そして……雷神の継承者か」
その眼差しは鋭く、心の奥を見透かすようだった。
双雷は思わず背筋を伸ばす。
「俺は鳴神双雷。雷兆師匠の……弟子みたいなもんだ」
「……そうか。神宮寺雷兆――あの男は、とうに覚悟を決めていた。最後まで役目を全うしたのだな」
女性の表情には、僅かな哀しみと誇りが同居していた。
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「私は【皆神 水京】――この嫉妬区を守護する水神の宮司だ」
「み、みずきょう……? えっ、同じ名前!?」
双雷は思わず隣の少女を振り返った。
「当たり前でしょ。私の師匠なんだから」
「……ややこしい……!」
場の空気がわずかに和らぐ。
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「さて、双雷」
宮司の水京は真剣な眼差しを向けた。
「この嫉妬区では、瘴気が日に日に濃くなっている。すでに“中級以上”の異形者が群れを成し、住民を脅かしている」
「……中級以上、か」
双雷は息を呑む。
「お前に課す使命は二つだ。
一つ、鍛冶屋・鋼次から武具を受け取り、己の武を磨くこと。
二つ、この嫉妬区を蝕む“嫉妬の化身”を討つことだ」
「嫉妬の……化身……?」
雷が胸を打つような言葉だった。
「この地に巣食う特級異形者だ。人々の嫉妬の念を喰らい、無数の怪物を生み出している。討たねば、この区は滅ぶ」
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境内に緊張が走る。
双雷は拳を握りしめた。
「上等だ……! そいつをぶっ倒せばいいんだな」
「軽々しく言うな」
水神宮司の声が鋭くなる。
「嫉妬の化身は“神格”に近い。雷神の力すら通じぬ可能性がある」
「……それでもやるしかねぇ。俺はもう退けない」
双雷の瞳には迷いがなかった。
その様子を見て、水京(師匠)はわずかに目を細め――
やがて口元に微笑を浮かべた。
「ならば試練を与えよう。お前の覚悟が本物かどうか、この地で証明してみせろ」
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雷と炎、水と嫉妬。
新たな舞台が、いよいよ幕を開ける――。




