第41話
撮影2日目。
今日は日輪国王宮剣術指南、ヤナギ車道流本部道場にて撮影です。
中央にドミニクス=ヤナギ宗家、左右にテルクニ君とカオルさん。
「では、カメラチェックします。適当に挨拶して下さい。はい、3、2、1、キュー。トミヤス流のカオル=サダマキです」
「トミヤス流のテルクニ=トミヤスです」
「あ、ああ俺? ヤナギです」
「はい。チェックしますので、少々お待ち下さい」
ぴー。再生。
『トミヤス流のカオル=サダマキです』
『トミヤス流のテルクニ=トミヤスです』
『あ、ああ俺? ヤナギです』
「OKです。ヤナギ先生、流派は名乗っていただけますか?」
「なーんか固いなあー」
「では、私の方でヤナギ車道流のドミニクス=ヤナギ先生です、とご紹介させて頂きますので、軽く頭など」
「うん。それで頼むよ」
「話題は私が適当に振りますので、そちらに答えて頂く感じで結構です。進行はお任せ下さい」
「助かるねえ」
「噛んだ、間違えた、などで言い直したいな、などがありましたら、挙手してからもう一度お願いします。そこでカットして、言い直した方につなげます」
「はーい」
「アドリブなども全然OKです。それでは、撮影を始めますが、宜しいですか?」
「いいよ」
「では撮影開始します。3、2、1。キュー。
いつもトミヤス道場チャンネルをご覧下さり、ありがとうございます。
トミヤス流、カオル=サダマキです」
「トミヤス流の、テルクニ=トミヤスです」
「本日は凄い道場にお邪魔させて頂きました。
日輪国の剣術と言えば、誰もが最初に頭に浮かぶ流派です。
なんと、王宮剣術指南、ヤナギ車道流本部道場です」
わー! ぱちぱちぱち!(効果音)
「そして、ヤナギ車道流宗家! ドミニクス=ヤナギ先生です!」
「どうも。ヤナギです」
ぺこり。
わー! ひゅーひゅー! ぱちぱちぱち!(効果音)
「本日はお時間頂きまして、本当にありがとうございます」
「気にしなくていいのよ。稽古時間外だし」
「流石、ヤナギ先生はお心が広いですね」
「あ、そう? 照れるね」
「では、本日のテーマは、ヤナギ車道流の剣とは何か!
マサヒデ公の記録にも残っておられますので、ご存知の方も多いでしょう。
22代宗家、ヨシヒラ=ヤナギ先生からマサヒデ公に授けられたお言葉。
剣とは何か。
マサヒデ公は答える事が出来ませんでした。
今回はそちらを深堀りしていきたいと思います。
ヤナギ先生、剣術家にとって、剣とは一体何なのでしょう」
「俺個人の考えでいいよね? ヨシヒラ先生は、答え残してないから」
「勿論です」
「ないよ。そんなの」
即答! ない!?
テルクニ君もカオルさんも、ぽかーん。
「……」「……」
終わり!? 撮影終了!?
ところがどっこい! 夢じゃありません!
「あのねえ、ない」
現実です!
撮影終了です!
「俺が個人的に考える所だけどね。ない」
いやいや! もうちょっと尺がないと!
「……おほん! ヤナギ先生、ないとは?」
「あれはねー、ヨシヒラ先生が、マサヒデ先生に発破かけただけ」
「発破? ど、どういう事でしょう!?」
「あのさあ。剣とは何かなんて、漠然としすぎて、分かんないでしょ。これかな? あれかな? って、いくら稽古しても、考えても、分かんないでしょ。分かんないから、もっと稽古しないとって頑張るでしょ。頑張っても頑張っても分からないでしょ。もっと頑張らなきゃ! ってね! ははははは!」
「……」「……」
「だからさあ。剣とは何か! なーんて、聞いたら格好良いじゃん。何かこう、とにかく凄いもの? 高尚なもの? みたいな感じがするじゃん。聞こえは格好良いけど答えのない問題出しといて、お前もっと稽古しろよって言っただけー」
「そ……そうなんですか?」
「そうだよ。言ったヨシヒラ先生だって、剣って何? て聞かれたら、知らんって答えてんだよ。何かさあ、武術の境地とかもそうだよ。ないよ。そんなの」
「ないんですか!?」
「そうだよ。考えてみなよ。境地に達した! やったあ! なーんて考えてたら、そこで修行終わりじゃん。その先、もう伸びないでしょ?」
「た、確かに……いや、理屈はそうですが」
「伸びなきゃ、どっかで誰か追いついてきちゃう。それ境地じゃないじゃん。だから、そんなのないわけー。ははは! 魔王様に小指で勝てるくらいになったら、俺境地に達した達人です、って名乗っていいかもね。サダマキさん、あと100年修行して、出来ると思う?」
「いえ。全く」
「じゃ1000年。どう? 魔王様に小指で勝てる? 凝縮魔力ミサイル直撃しても、平気な顔でタバコふかしてるレベルの人だけど」
「絶対無理だと思います」
「でしょ? 境地なんてないよ。剣とは何か? ないない。マサヒデ先生、格好良い言葉に騙されちゃったのよ。ははは!」
「……」「……」
テルクニ君もカオルさんも呆然です。
「でもさあ、剣とひとつになれ、とかも言ったよね」
「はい」
「あれはね、ある」
「あるんですか!?」
「あるよ。稽古とかしてりゃ、ほんの一瞬感じる事があるはず。今すげえ良い振りが出来たとか、何か反射的にすげえ動きが出来ちゃった、とかさ。そういう事あるでしょ」
「あります」
「まずそれが普通に出来る所に持ってくのよ。で、それが出来るようになった時よ。また、何かすげえ良い振りが出来た! ってなるのよ。また、それが普通に出来るようにする……そのすげえ振りが出来た! って一瞬に、剣とひとつになってるわけ」
「ど、ど、どういう事でしょう!?」
「ははは! 言葉でいくら説明しても、分からないと思うなあ。俺はこう感じるって所かなあ。トミヤス先生は、この辺の感覚、分かるんじゃない?」
「はい。なんとなく……ええと、ううん! 僕も言葉には出来ないんですが」
「んー、そうそう。なんとなく。個人の感覚で違うから、ちょっと俺程度じゃあ説明が出来ないなあ。それにさあ、トミヤス先生なんか、とっくに剣とひとつになってると思うなあ」
「僕がですか?」
「なってるよ。トミヤス流にある無願想流なんて、剣とひとつになってなきゃ使えない剣なんだから。で、使えるわけでしょ?」
「まあ、はい」
「というわけで、トミヤス先生は、とっくに剣とひとつになってました! ははは!」
「そ、そうなんでしょうか……」
「そうだよ。じゃ、まとめようか。
剣とは何か! 答えが出ちゃった時点で、そいつはもう成長しない。
境地にたどり着いた! そいつはそれ以上成長しない。
何故か。
そういうのが分かったって感じた時、裏では限界や満足を感じちゃってんのさ。
それを認めたくないから、ここが境地なんだって言い張ってるだけー。
違うだろ? 武術ってそうじゃないだろ?
限界超えなきゃ。今の自分超えなきゃ。これもちょっと格好つけた言葉かな。
少しでも成長し続けてろ。してなきゃ、もう武術家として終わってるって事さ。
良い言葉で言えば飽くなき探求。
悪い言葉で言えば飽くなき欲。
それがない奴は武術家じゃねえ。ただの趣味人さ。適当に満足しちまって終わる。
マサヒデ先生も言ってたろ? 自分の剣は欲の剣だ、ってよ。
だからマサヒデ先生は本物の武術家なのさ」
「ううむ!」
「なるほど……!」
「年食ってもう成長しません。んな事はねえ。
お前さん、心技体の心は何処に捨ててきたんだよ。
昔ほどに身体が動きません? 甘えた事言ってんじゃねえよ。
じゃあ動かない身体で使えるように、技工夫して、磨いてみろよ。
な? 身体が衰えてきたって、磨く所はいくらでもあんのさ。
たとえ寝たきりのジジイになっても、手足なくなっても、心はずっと磨けるぜ!
俺達ゃ死ぬまでずーっと成長しなきゃな! それが武術家ってもんだろ!」
これが王宮剣術指南! ヤナギ車道流です!
「お美事です」
「お言葉を頂き、感謝致します」
テルクニ君もカオルさんも、完全にやられました。
美しく手を付いて頭を下げています。
「分かるかい? これが、ヤナギ車道流の、昨日の自分に今日は勝っとけって言葉の意味なのさ。他の人が見てあいつ境地にいるわ、なんて言われても、満足すんな。明日はそこより更に進んどかないと。俺達武術家は、鼻先に人参ぶら下げて、死ぬまで走り続けるのさ。だろ?」
「は!」
「ははっ!」
「んー、てわけで、こんなもんで良いかい?」
撮影終了!
ヤナギ宗家、今回は本当にありがとうございました!




