第40話
ウキョウ2日目は観光――
ではありません。今日も撮影です。
トミヤス先生、本日はどちらに?
「今日はヤナギ車道流に行くぞ」
「宗家、どこなんですか?」
どこ、というのは、ヤナギ車道流道場は都内だけでも6ヶ所あるからです。
隣の領のミカサにも3ヶ所、魔の国にも1ヶ所、南のサンガという国に2ヶ所。
ちなみに、これは『ウキョウヤナギ』と言われるヤナギ車道流の、いわばウキョウ派のだけの数で、『キラヤナギ』と言われるキラ派の道場もたくさんあります。
(キラ領はテルクニ君達が住む領地の隣で、電車で1時間です)
勿論、キラ派道場もウキョウにあるので、一口に『ヤナギ車道流道場』といっても、都内にたくさんあるんです! 両方を合わせると、どれだけ道場があるのやら。
イマイ君も困惑気味ですが……
「本部に決まってんだろ」
「すみません……」
「中央区の駅から歩いて5分だから、電車でと言いたいけど。撮影機材もあるし。向こうに駐車場もあるみたいだし。車で行くぞ。えれー渋滞するから覚悟しろ」
「ね! お兄ちゃん!」
「ん?」
「今度のドッキリは何するの!?」
この発言にはカオルさんもイマイ君もびっくり!
「しねーよ! お前、王宮剣術指南の道場でドッキリするつもりか!? 頭イってんのかお前!?」
ユキちゃん、度胸ありすぎ問題。
本気と書いてマジで言ってるんですか?
「つまんなーい。熊とか出して良い?」
「駄目に決まってんだろ!? 冗談抜きにトミヤス流潰れちまうぞ! 日輪国で道場開けなくなっちまうよ! よし。お前、ホテルにいていいぞ。いや、別にホテルにいなくてもいいよ。今日1日、好きに観光してろよ。でも、車道流の道場の半径10km以内に近付くな」
「分かったー。何もしなーい」
「お前な、本当に何もすんなよ。マジでトミヤス流が消えてなくなるんだぞ。情報省に細々と残るだけだ。下手すると魔の国の夢想派まで全部消えちまうんだ。分かったな」
「はあーい」
テルクニ君、それはフリですか?
いや、本当にフリではありませんから。
ユキちゃん、駄目ですよ!
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1時間後――
いらいらいら……
田舎暮らしのユキちゃんはイラついてます。
あおり運転やクラクション連発はぎりぎり我慢してます。
「ちっ!」
本当に車が進みません! 都内の渋滞ナメてました!
めちゃ渋滞すると分かってたので、早過ぎじゃないですか? って時間に出てきたんですが、全然正解でした。
当然、同じく田舎暮らしのテルクニ君もイラついてます。
「ちっ! ウキョウにゃ地下鉄腐るほどあんだろーがッ! こいつらなんで車で走んだよ!」
「ねー! 何してんのコイツら! 何か荷物運んでんの!? フツーに出勤とかじゃないの!? 馬鹿じゃねーの!? なんで電車使わないの!? ゴミみてーなクルマで走ってんじゃねー! そんなダセー車で自己顕示欲満足してんの!?」
「全くだぜ……ユキ、タバコもらっていいか」
「んー!」
しぼ! ちりちりちり……
すぱーっ!
「はあ……早めに出てきて良かったぜ……ノンビリしてたら遅刻しちまってたよ」
「あーイライラする! 車の下から土の柱ズゴンって出してブッ飛ばしちゃおうか!」
「本当に遅刻しそうになったらやろうぜ。俺も手伝うわ。ついでに火も着けてやるか。汚え花火になりそうだけどよ、ねえよりゃマシだろ」
それは間違いなく死人が出ます! やめましょう!
ぱー!(クラクション)
テ:ぴくっ!(怒)
ユ:ぴくっ!(怒)
うぃーん……(両窓が開く音)
テ:「うるせーボケ! その車で月面旅行してーのか! 大魔術師ナメんじゃねー!」
ユ:「うるせー(※NGワード)野郎が! 灰にされてーのかッ! 燃やすぞッ!」
うぃーん……(両窓が閉じる音)
「ねー、お兄ちゃーん。熊出していい? それか象とか」
「んー、余計に渋滞しねえか? 流石に止まると遅刻確定だぜ」
「象なら前の車、潰せるよ」
「あ、それもそうか。じゃあ……あ、駄目だ。このクルマじゃ車高低すぎだろ。潰れた車の上、走れねえんじゃねえの?」
「そうだー。んー! イライラするね!」
大魔術師兄妹、危険過ぎます。
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さらに1時間後。やっと到着です。
ばたん。ばたん。
ユキちゃんのクルマから下りて、うーん! とテルクニ君がのび。
時間OK。
ユキちゃんも隣に来て、うーん! とのび。
「マジかよ……ユキ、俺のスマホの時計狂ってんのか? それとも、俺の頭が狂っちまったのか? おかしいな。2時間も前に出たんだぜ。約束の時間まであと15分?」
「信じられませーん。あれ。おかしーなー。私のスマホの時計もズレちゃったカナー」
「ちっ……ウキョウは一体どうなってやがんだ? まだ朝のキラの駅で迷っちまって大恥かく方がマシだぜ」
「ねー!」
ぶんぶん……
カオルさんとイマイ君の車も来ました。
ばたん。ばたん。
「宗家、一体ウキョウはどうなってるんです」
「だよなあ!? イマイ君も思うよなあ!?」
このままでは愚痴が続きます。
ウキョウ暮らしだったカオルさん、助けて。
「テルクニ様、先に挨拶に参りましょう。ヤナギ先生も、もう来ておられましょうし。お約束の時間が迫っております」
「む……うん。そうね。そうだね……すー、ふー……」
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がらり。
「はよざいまーす!」
「はいはーい」
タバコを咥えて出て来たのは……
いきなりドミニクス=ヤナギ宗家!?
テルクニ君達も顔と名前は知っています。
ヤナギ車道流は『教えて! フギ先生チャンネル』みたいに動画は上げていません。
ですが、演舞などをたまに上げていますから、しっかりチェックしています。
「あらら。本当にトミヤス先生じゃあないの。いや、本当に本物が来るとは思わなかったな……ニセモンだったらぶっ飛ばすつもりだったけど」
ぼりぼりぼり。
何かイメージと違う!
「え」
「てっきり、話題に乗っかったイタズラかと思ってたのさ。念の為に来てたけど……どうしようかな。本当に動画の撮影とかするの?」
「そのつもりですが、大丈夫ですか?」
「まあ、いいけど……あのさ、知ってると思うけど、うち、ほら。他流試合みたいなの、厳禁だし……対談みたいな? まあ、なんか型とか見せ合うくらいなら大丈夫かな。演舞とか出してるし。そんな感じになっちゃうけど、いい?」
「あー勿論す! 全然!」
「あそう? じゃあ、どうぞ」
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がらっ。
「おーい。冥頭さーん」
「むっ!?」
あ、鬼族の人だ。と、皆がそちらを見ました。
驚いているのはカオルさんだけです。
シズクさんが道場に遊びに来るので、カオルさん以外の人は結構見慣れています。
がば! どすどすどす……
「トミヤスはどいつじゃ!」
「あ、自分す」
「什麼生!(そもさん)」
「せっぱ?」
「剣とは何じゃ!」
「剣! うーん、そっすね。効率良く人を殺す道具ですね」
「わははははは!」
笑うはヤナギ宗家だけ。
「未熟者! かかかかかかかかかかか喝ーッ!」
出たーッ! 冥頭和尚の1秒間12喝です!
「500も近かろうに、その程度なのか!? 親父は16、7でもう少しマシな答えを返してきおったぞ!」
「あ、はい。すません。その500年、ほとんどタマゴに居たんで」
「フン……これがあのトミヤスの小僧の息子か……がっかりしたわ!」
ぷんぷん怒りながら、鬼族のお坊様は壁際に行って、坐禅を組んでしまいました。
あらあら。テルクニ君、不合格だったみたいですね。
「ヤナギ先生、もしかして、父さんが魔の国に行った時に会った、冥頭和尚?」
「そうだよ」
ざわっ!
そう! 冥頭和尚は超偉いお坊様です!
たまに読経ライブ? という超マニアックなライブを行ないますが、チケット発売即完売キャンセル待ちが基本です。
魔王様が寺を建てるからロ=マーン(魔の国の首都)に来て下さいってお願いしたのに、ごめん、俺病気だしー、ちっと今無理っす。あ、病気なんで、自分いくら坊主っても、先の事まで分かんないんで。いつ治るか不明っす。じゃ!
なーんて、軽く魔王様のお誘いを蹴るくらいのお坊様です。
なお、テルクニ君のお父さん、剣聖勇者マサヒデとも親交があり、その縁でヤナギ車道流道場に500年近く前から来て、ひたすら修行に励んでいます。歴代のヤナギ車道流宗家のお葬式は、全部この冥頭和尚が執り行っているというのは、意外と知られていません。
「ええー!? なんでここに居るんすか!?」
「さあ? トミヤス先生のお父さん、マサヒデ先生が日輪国に帰って来るちょっと前には、ここに来てたらしいよ。なんか、ずーっと悟りってなんだろねって考えてんの」
「はあ……」
ひらひら。
「ないない。悟りなんてないって……さ、さっさと撮影しちまおうや」
何か適当っぽい人ですけど……
ヤナギ宗家、大丈夫でしょうか?




