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第36話


 ここはウキョウの東。

 港湾区の東の外れにある、オフィス街の中に、ででん! と立つ和風建築。


「お、おお……っ! ここが……!」

「宗家、宗家! 私、今、身が震えております!」

「分かる! 俺も今震えてる! 何か震える!」


 テルクニ君とイマイ君が、腕をすりすりしています。

 寒いんじゃないですよ。感動のあまり、肌が粟立っているんです!


 ここは森戸三傅流本部道場! 41代宗家ヨシタカ=フギ(52歳)が居る道場!

 森戸三傅流はいわゆる介者剣術で、甲冑剣術の色が濃い泥臭い……と見えつつ、繊細で美しい技術も多い流派です。配信で高速の抜刀術が有名になりましたね。


 実は、フギ先生もお弟子さんと一緒に配信してるんです。

 『教えて! フギ先生チャンネル』!

 海外でも大人気です!


 トミヤス流にも三傅流の技術が一部併伝されているので、テルクニ君もイマイ君も全部見てます! 何回も見直します! チャンネル登録とグッドボタンは忘れていません!


 そう! 今日はコラボ撮影の日なんです!


「では私、先にご挨拶に……」


 感動する2人の横を、カオルさんがスルーして入って行きます。


「え!? そんな待って! 僕緊張しちゃう!」

「私もです! もう少し時間を!」


「いや……普通の道場ですよ?」


 カオルさんはこの道場にも通っていたので、普通にフギ先生と面識があります。


「カオルさん緊張しないの!?」


「いえ全く。良く知っておりますし」


「ね、ほんとにやんの? 大丈夫?」


「大丈夫です。後で笑って許してくれますから」


 きい……ぱたん。

 がらがらがら……

 行ってしまいました!


「どうするのイマイ君!?」

「どうする!? どうしましょう!?」


 慌てる2人の武術家を、後ろでユキちゃんが見ています。

 呆れー。



----------



 業務用のデカい扇風機が回る道場内。


 壁には幾つもの武器!

 刀! 脇差! 小刀! 槍! 杖! 棒! 刺股! 十手! 鎌! 鎖鎌! 鎖! ショートソード! スモールソード! レイピア! ロングソード! ハルバード!

 それぞれが色んな大きさ、種類で並んでいます! これは凄い!

 実はトミヤス流は、これ以上にたくさんの武器術がありますが。


 そして上座に座るこの男!

 でっかい! 180cmは超えてます。坊主頭が迫力増してます。

 太って見えますけど、これは丹田を鍛えまくって、腹圧で膨らますタイプの人です。


 カオルさんが隣に座っています。

 反対側の隣に、フギ先生が撮影する時いつも一緒の指導員、タノツカさんがいます。

 テルクニ君達は知ってます。

 この人、フギ先生と一緒だから、あれ? 指導員? 的に見られる事が多いですが、かなり使う人です。イマイ君よりは完全に上です。


「はじめまして。森戸三傅流宗家、ヨシタカ=フギと申します」


「ははーっ! トミヤス流宗家! テルクニ=トミヤスであります!」


 ( ´,_ゝ`)プッ!


「まあまあ、そう畏まらないで。ね。大体、トミヤスさんの方がぐーんと年上なんですし、武術歴なんかもずーんとね。遥かに上ですし。もっと偉そうにしてもらって。ね」


「は……」


「見ましたよお、動画。ももちゃんって知りませんでしたけど、サダマキさんに聞いてびっくりしました。うん、大変でしたねえ」


 実は、ももちゃん=カオルさんですけど、流石にフギ先生も気付いてません。

 カオルさんはスーパーニンジャスパイ諜報員エージェントですから。


「いやまあ、ももちゃんさんには大変な事になってしまって申し訳ない事をしました。最初から私が相手しないといけなかったんですが、ちょっと言い訳くさいですけど、いきなりあんな入り方してきたので、完全にぽかーんとしてしまって」


「ふふふ。虚を突かれたみたいな?」


「は。全くその通りです」


「トミヤス道場のチャンネルも見ましたよお。これ凄く疑問なんですけど、何でトミヤスさんが出てないんですか?」


 もじもじ。


「……カメラ、恥ずかしくて……」


 ( ´,_ゝ`)プッ! 2回目。


「あはははは! それでお弟子さんとサダマキさんにやらせてるの!?」


 ぶんぶん! 違います!


「いや、やろう! と言い出したのはカオルさんで、私は全然!」


 カオルさんが黒い笑みを浮かべています!


「フギ先生、タノツカさんも聞いて下さい。トミヤス先生は思春期にたまにある、写真が恥ずかしい病にかかっておられるのです。なので、中々出ないのです」


「はあー?」


「剣聖試験の通知も何度も届いておりますのに、写真を撮られるのが恥ずかしくて、受けていないのです。俺は剣聖などという称号に興味はない、というストイックな武術家のような感じではありません」


 ( ´,_ゝ`)プッ! カウント3。

 タノツカさんまで笑ってしまいました!


「あっはははー! 本当!?」

「ははは! そうだったんですか!?」


 テルクニ君! 顔が真っ赤ですよ!


「いやあ! トミヤスさんは面白いねえ! そうだったんだ!? うわあ、サダマキさん、それでコラボ撮影で引っ張り出そうって感じ?」


「実はそれも少しあります」


「君、相変わらずしれっとした顔で言うねえ! あはははは!」


 大笑い!

 テルクニ君は、もうノックダウン寸前です。


「何度声を掛けても出てくれませんので、コラボの機会にと……自分の道場のチャンネルなのに、恥ずかしいからと、頑なに出てくれないのです」


「なんで、ももちゃんの所は出たの?」


「女に負けたのです」


 ( ´,_ゝ`)プッ! カウント4!

 もう駄目です!


「あーはははははー!」

「ははは! ははははは!」


「カオルさん……勘弁して下さい……」


 これが剣聖候補の素顔です。



----------



 カメラセット完了。

 撮影開始です。


 まずはトミヤス道場チャンネルからです。


「2本撮りで行きます。最初はトミヤス道場チャンネルで対談。次に、教えてフギ先生チャンネル。トミヤス流に併伝された三傅流との技術の比較や検証の予定です。他にも面白そうな事がありましたら、アドリブでどんどん入れて下さい。編集はこちらで行います」


「はい。うーん、トミヤスさん、大丈夫?」


 まだダメージが抜けきれていません。


「いえ……あまり……」


「あはははは! 心技体と揃えて鍛えましょうよ! 心ですよ、心! ね!?」


「は……」


「対談では、私が適当に質問などを入れていきますので、適当にお話を進めて下さい。噛んでしまってやり直したい時は手を上げて下さい。うっかり話してはいけない所を話してしまったら、ここは秘密で、と。編集など入れますので」


「はい。分かりました。なんかサダマキさん、結構慣れた感じですね」


「2回も長尺を撮りましたから……トミヤス道場チャンネルで、かなり編集をしましたので」


 りっちー君との撮影は、そんなに長尺ではないですが、ここはそういう事にしておくのです。


「ではカメラのテストです。テストなので、挨拶だけお願いします。カメラ回します。3、2、1、キュー。トミヤス流のカオル=サダマキです」


「え!? トミヤス流のテルクニ=トミヤスです?」


「はい。三傅流宗家、フギです」


「ありがとうございました」


 ぴぴ。

 カオルさんのチェックが入ります。


『3、2、1、キュー。トミヤス流のカオル=サダマキです』

『え!? トミヤス流のテルクニ=トミヤスです?』

『はい。三傅流宗家、フギです』


「ん、OKですね。では本番いきます」


「えちょっと」


「はい。3、2、1」


 カオルさん待ったなし!


「キュー。トミヤス流のカオル=サダマキです。

 皆様、本日は凄い道場にお邪魔させて頂きました。

 当チャンネルをご覧の方は、この背景だけで、分かる方も多いでしょう。

 こちら、実はトミヤス流とは、非常に深い関係のある道場です。

 それでは宗家、お願いします」


「はい! え、ええ、トミヤス流宗家、テルクニ=トミヤスです」


「宗家は事情により、当チャンネルに出るのは初めてになってしまいましたが」


 ( ´,_ゝ`)プッ! カウント5!

 しかも撮影中!


「そして、今回のスペシャルゲスト。森戸三傅流宗家、ヨシタカ=フギ先生です」


 ぐぐぐ。

 貫禄ある礼! テルクニ君とは違う!


「トミヤス道場チャンネルをご覧の皆様、森戸三傅流のヨシタカ=フギと申します」


 ついにコラボ撮影開始です!


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