第33話
ルクレツィアさんのトミヤス流フィットネス体験。
正座と刀印を見せられているので、何をやっても凄く効果がありそう!
そんな気がしちゃいますね!
「さあ、立ち姿勢を直していきましょう。肩をゆっくりと前から後ろに落としていきましょう。肩甲骨を後ろに落とし、肩ではなく、背中で下に引っ張るようにー」
カオルさんの手が、ルクレツィアさんの背中に添えられます。
「肩甲骨を意識して下に……こう動かすのです」
「こう……」
「肩の力は抜いて下さい。一度がっくりしてから、やってみましょう」
がっくり。
前屈みになってしまいます。
頭を上げてー、肩ではなく、背中で引っ張る。
はい、よく出来ました。
「この姿勢だと、お腹が出てしまいますね。胃を上に引き上げて下さい。腹筋で締めてはいけませんよ」
「胃を、上に……」
「はい、そうです。腸腰筋を使う、と言った方が、サヴァレーゼさんには分かりやすいですか?」
「あ、なるほど……」
くくくー……
はい。お腹が引っ込みました。
「最後にお尻を引っ込めましょーう。膝を外に開いて、ガニ股にならないように、お尻の力だけで引っ込めましょーう。膝が固まっている人は、出来ていませんよ」
「こうかな……?」
はい。お尻も引っ込みました。
「皆さん、足の裏はどうですか? 土踏まずにぺったり体重がきていますか?」
「はっ!?」
きてます!
「出来ている人はそのまま。出来ていない人は、もう一度がっくりしてから作り直してみて下さい。さあ、出来ている人を見てみましょう。美しい姿勢ですねー。母指球や足刀、踵に体重が来ていないか、膝が固まっていないか、確認して下さーい」
皆、美しい姿勢!
私も今、美しい姿勢!?
ルクレツィアさん、どきどき。
このサダマキ指導員は、普段からこの姿勢? 綺麗なはずです。
「はい、全員出来ましたね。サヴァレーゼさん、これはアザイ流空手という、空手の基本姿勢の作り方です」
「はあー!」
「では、次はヤナギ車道流剣術の姿勢の作り方をやってみましょう。さあ皆さん、がっくりして、一度姿勢を崩してしまいましょう」
がっくり。
「はい。頭を上げて下さい。つま先はぴったり平行に。肩幅より指1本狭くをイメージして下さい」
今度は足先からなのか……
「はい。お尻を引っ込めて下さーい。膝で締めないように気を付けてー」
上下が全く逆なのか。
やっぱり、正しく出来ると、土踏まずがぺたっときます(筆者の場合はそうです)。
でも、実は微妙に効果が違ってきます。
「胃を引き上げ、最後に肩を背中から引っ張るー。はい。もう出来ますねー。皆さん、自分で整えてみて下さーい」
カオルさんが行ってしまいました。
あれ!? 竹刀を持ってきましたよ!
「サヴァレーゼさん、もう一度驚いてもらいましょう。初めての方には少し難しいですが、右足を外に開かないように、左足をそのまま真っ直ぐ出して下さい。ナンバ歩きをイメージすると簡単に出来ます」
「あ、こう。こうですね」
「はい。では適当で良いので、この竹刀を、右手を上、左手を下で握って下さい。そのままお腹の前で」
ほい。
左足を前に出したので、お腹は横向き。
その前に柄が出されたので、はい、と握ってみました。
右手が上、左手が下。
カオルさんが竹刀の先に指を当てて、すーっと顔の高さに持ってきます。
「はい、今度は右足を前に」
「ほっ」
「はい、左足」
「ほっ……ほー!?」
気付いてしまいました!
「流石お医者様! もう気付かれましたか! はい、右ー、左ー、右ー、左ー」
「あれえー!?」
そう、この構えで歩いてみると、頭が全然左右に動かないです。
頭だけ見ていると、まるで能役者が歩いてるみたい!
「不思議ですねえー。これが王宮剣術指南、ヤナギ車道流でーす」
「不思議です……」
「竹刀はお腹の前で。ナンバ歩きのように歩きます。歩くだけでー、右にー、左にー。ですが、切先は、私の顔の前。相手が構えていても……こう歩くだけで……刀を払いつつ、顔や喉に突き入るわけです」
「おおー……完全に人体の構造を理解した構えですね……」
「刀のない方に相手の剣が来ても、前に踏み込めば、自然にガードしつつ、攻撃出来てしまうんですねー。構えているだけで、攻防一体なんでーす」
「はあー!」
ルクレツィアさんもびっくり!
竹刀取り上げ。
「これが武術ですよー。さあ、皆さん。姿勢を維持したまま、4歩前に。左右。左右。足の裏はぺったりきてますか? はい、姿勢チェック! 出来ている人はそのまま! 出来ていないは作り直して!」
ルクレツィアさんもやり直し。
「左! 右! 左! 右!」
ぱん! ぱん! ぱん! ぱん!
これ何か見た事ある!
モデルのウォーキングのトレーニングみたいです!
「姿勢ーチェック! 姿勢ーチェック! 1! 2! 3! 4!
顎をー上げない! 項をー伸ばす! 1! 2! 3! 4!
ターンです!
姿勢ーチェック! 姿勢ーチェック! 1! 2! 3! 4!
顎をー上げない! 項をー伸ばす! 1! 2! 3! 4!」
でも、モデルウォーキングみたいにS字S字してないです!
皆、真っ直ぐに綺麗な姿勢! 歩き方も綺麗に真っ直ぐ!
これがトミヤス流フィットネス!
1、2、3、4……1、2、3、4……
「はい、よく出来ました! 休憩しましょう」
良い汗かいた!
門弟さん達もキラキラしてます!
「ふーう!」
「サヴァレーゼさん、どうでしたか?」
「びっくりしました……何か、知ってるフィットネスと全然違います……」
「では、今の姿勢トレーニングの効果はどうでしょう」
「肩のリラックスによる肩こり解消、腹の引き締め……インナーマッスルトレーニングですね。お尻の引き締めと、骨盤の矯正、自然と背骨の矯正になって……」
「その通り。ではこれを頭に乗せますと」
扇子がルクレツィアさんの頭に置かれました。
「バランスと体幹トレーニングが加わる……」
「歩くというのも、武術の基本というか、運動の基本でございます。基本が大事とは良く言ったもので」
ひょい、とカオルさんがルクレツィアさんの頭の扇子を取って、にっこり笑います。
「サダマキさんは、トミヤス流は何年やってるんですか?」
「10年程です。小学校……5年? 6年? くらいの……まあ、高学年の時ですか。ウキョウの方のトミヤス道場に入りました。最近、こちらに越してきまして」
勿論、嘘です。
そういう情報は、情報省を通じ、ウキョウ道場の方に作ってあります。
カオルさんのトミヤス流は、情報省スパイ訓練校仕込みです。
ルクレツィアさんはというと……
10年と言うと、同い年くらい。
じー……
「……」
「あの、何か?」
スタイルの違いに劣等感マシマシ!
きりきりきり……
「私! 頑張ります!」
「は、はあ……」
何だか燃えています。
悪い事ではないので、良しとしましょう。
「ところで……あれが、武術コースの……」
ルクレツィアさんが指差した方には、りっちー君、イマイ君、アダムさん、モブの門弟さん。
「はい」
りっちー君とイマイ君は、静かに睨み合っているだけですが……
「駄目です! もう一度!」
「は!」
また静かな睨み合い。
ぱっと見、ただ構えて立ってるだけです。
「あれは何をしているんですか?」
「あれは正中の取り合いです」
「せいちゅうの取り合い?」
「正中線を捉えたまま外さない。相手が捉えてくる正中線を外す、という稽古です。時代劇で、構えただけで参りましたというのは、あれです。相手がしっかり正中線を捉えてくるのに、こちらは捉えられない。これは腕が違う。構えただけで参りました、となるわけです」
「はあー!」
「宗家レベルになると、完璧に相手の正中線を捉えるので、ただ構えて真っ直ぐ歩くだけで、相手の刀が逸れていきます。宗家の刀は相手の喉元にぴたり。恐ろしい腕です」
「そんな事があるんですか!?」
「あります。これもきちんと物理で説明出来ます。ただ、それを体現出来るかはまた別の話。生半の修行で出来る事ではありません」
「じゃあ、あの人は……あれ、ももちゃんのインタビューの人ですよね?」
アダムさんです。
動画では顔は黒塗りで声も加工してありますが、流石にバレます。
ぶうん!
「пятьсот!(ぴっつぉーと!:500)」
「まだまだいける!」
「ещё раз!(ィエシチョラース!:もう1回!) むううううんっ!」
ぶうん!
「よおし! もう1回! さあ振り上げて!」
「ぬううああ!」
凄い顔で、どでかい木刀を振ってます!
ルクレツィアさん、引いてます!
「ふふふ。動画を見たのですね。びっくりするでしょう? あれも正しい身体の使い方の訓練です」
「えっ!? 本当だったんですか!?」
「あれだけ気合を入れないと振れないという事は、まだまだ正しい身体の使い方が出来ていないのです。宗家は片手でひゅんひゅんと振りますよ。ぶんぶん音は出ません」
「へえー……」
「このフィットネスコースの方達でも、やらせれば振れる人はいます」
「は!?」
「長く来てくれている方は、ちゃんと身体の使い方が分かってきていますから、何度か振ったら、あ、これか、とすぐ分かるはずです。あの稽古は、教えられずに自分で見つけられるか、という所が大事なのです。才能があるかの見極めとでも言いますか」
「な、なるほど……」
「アダムさんは間違いなく才がありますし、剣術の経験はありませんが、様々な武術の経験があります。1ヶ月もせずに2000など軽く振れます。ですので、インタビューでは2000回と言っていましたが、本当は2500回振れと言われています」
「2500回ですか!? へあー……」
「ウキョウ道場では、あのような試験はありませんでした。ですから、武術コースでも人は遥かに多いです。ですが、中身は上の方でイマイ様に届くか届かないかです。リチャード様に届く者は、ウキョウ道場の道場主だけです。武術コースの質は、この本部が遥かに上です。私はこちらに来て良かったと思っています」
「サダマキさんはどのくらいなんですか?」
「ふふ。イマイ様より上、リチャード様の下です」




