第31話
翌日の事。
ぷるるる……ぷるるる……
「はい」
『ハーイ! ソフィアお姉さんだよー!』
32歳はお姉さんにはちょっと厳しい年齢ですが、ツッコんではいけません。
頑張って若く見えるようにしてますし、まだまだ20半ばで通ります。
見た目だけは。
「はよざーす」
『バイト決まったよー』
「あ、まじすか」
『うん。腕は中々だと思うよ。でさ、今日は時間ある?』
「大丈夫す」
『じゃー今から行かせるからねー! ヨーロシクう!』
「あざーす」
ぷー、ぷー。
これでお医者さんも揃いますね。良かった良かった。
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ぴーんぽーん。
ぱたぱたぱた……
がらぱしーん!
「契約書を見せなさい!」
「……あ、あの……」
「早く契約書を出しなさい!」
クレールさん、ご機嫌超ナナメ!
でも、この人は違う人です。
「ご……ごめんなさい……」
「今更泣き落としなんて効きませんよ! 早く! 今すぐ! 契約書を出しなさい!」
ぱったん、ぱったん……
「クレール母さん……その人、多分、ホルニ病院から来た人だと思う」
「えっ」
「しくしく」
これはいけない! クレールさん、大ピンチ!
「あっちゃあー……クレール母さん……」
「あっ! ああっ!? ごめんなさい!」
やっちゃいました!
泣かせちゃいましたー!
「ごめんね。ちょっと昨日から、変な客がたくさん嫌がらせに来てたんだよ。クレール母さんの勘違いっていうか、あいつらの仲間だと思ってただけだからさ」
「ひゃい……」
「すみません! すみません!」
「しゅんしゅん」
「さ、上がって。クレール母さんも、こんなに怒ることなんてないんだ。普段は凄く優しい母さんだから。金にはちょっとアレだけどさ」
最後に落とす!
「ちょっとアレってなんですか!」
びくーん!
「ひっ!」
「あ、ああ! 違いますよ! 違います! あなたの事ではないですからね!?」
「クレール母さん……」
テルクニ君の渋い顔。
心の中では大爆笑。
「さあ、クレール母さんはもう良いから。ね? ほら、上がって」
「すん……はい……」
クレールさん、しょぼんです。
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「どうぞ」
ティッシュの箱。
「すんすん……ずびー! ふしゅふしゅ……」
「うちのクレール母さんがごめんね」
「だいじょぶでしゅ……んぶっ。びっくりしてしまって……」
(んー)
テルクニ君的には、ちょっと不安。
いくら腕が良くても、怪我人を前にビビってしまう医者はいりません。
度胸の方は大丈夫でしょうか。
背も小さいし、中学生の女の子みたいです。
痛みに暴れる怪我人を押さえられるでしょうか。
「名前聞いて良いかな?」
「……ルクレツィア=サヴァレーゼです」
モロ名前負け!
「すみません……名前だけ凄いって、よく言われて……」
本人も気にしてる!
「いや。僕の名前より良いよ……500年前の名前だもん……」
テルクニ君も気にしてた!
「キラキラネームよりゃ良いけどさ……」
ずっしり……
重い空気で、居間が静か。
「失礼致します」
すー……
「お茶を……」
ちらちら。
クレールさん、ビビってます。
この空気は一体!? 私のせいでしょうか!?
ことん。ことん。
ちろちろちろ……
「あの……先程は大変失礼致しました」
「いえ……」
「本当に、悪気は無かったんです。勘違いをお許し下さいませ」
「はい……もう大丈夫です」
ずずー……
この空気の重さは一体何なんでしょう!?
「おほん。じゃ、ルクレツィアさんさ。仕事の契約する前に、真面目な質問するよ。面接みたいなもんかな」
「あ、はい。履歴書は」
「いらない。はっきり言って、ルクレツィアさんが不法滞在者だろうが、海外のスパイだろうが、関係ない。大事なのは、医者になれるかって所」
「一応、一応、資格は、あります」
「んー……クレール母さん、ちょっと出ててよ。まだルクレツィアさん、緊張してるから……ね」
「うっ……すみません……出てますね」
すごすご。
でも、出てほしかったのは別の理由。
この先は、クレールさんには聞かせたくない話。
「資格も関係ない。大怪我して死にそうな人を目の前にして、動けるかって所。もうひとつ。助かる見込みなさそう、手が掛かりそうって人は放って置いて、無視して助かりそうだなって人にいけるかって所がもうひとつ。そういう覚悟、出来そう?」
「……」
「ダンジョンで真剣で斬り合いって、そういう場合あるよ。生死不問だからね。私は医者です。目の前の患者を助けるのに全力尽くします。リアルはアニメやドラマと違う。僕、ああいうドラマとか見ると、馬鹿言わないでよねって頭にくるんだ」
「はい。その辺りは、勿論、承知してるつもりです」
「僕ね。傭兵として海外で働いてた事あるんだ。人も何百人と斬ってる」
こおんっ!(鹿威しの音)
「クレール母さんは、僕が人を斬ってたって事を知らないから、出てってもらった。少年兵も、100人以上斬り殺してるからさ。僕」
少年兵100人以上……ヤバい話です。
「……」
「戦場だとね。助かりそうな人から助けてく。死にそうな人は放って置くかモルヒネとかヘロインみたいな抑制系の麻薬の注射ぶちこんで、痛み消して、黙らせておく。助かりそうな人を治療して戻ってきたら、まず死んでる。そういう仕事、出来る? オープンしたら、軍人さんも来るよ。訓練目的じゃなくて、ガチでやろって人も来るよ。複数人で来たら、こういう事ってあると思うよ」
「……」
「出来る? こういう医者になれる? 死にそうな人は麻薬お注射して、ほっぽっといて、じゃ、また後でねって出来る? あっちはまず助かりそうだから、先に治療してくる。あんたは黙って死んどけ。戻って運良く生きてたら治療しますよって。覚悟出来るかって事。そういうの駄目そうなら、ホルニさんに別の人を送ってもらうよ」
ガチです!
テルクニ君、覚悟完了した医者を求めてます!
「僕が求めてるのはブラック・ジャ◯クじゃない。Dr.キ◯コなんだ。分かるかな」
ごっくん。
ルクレツィアさん、顔が青いです。
日輪国のお医者さん像とはかけ離れています!
「わ、わ、私の、親は、軍医だったので」
「うん」
「そういう、仕事、医者、だったのでしょうか?」
「前線に出てたならね。死んでく人、何人も横目で見ながら、助かりそうな人を優先して治療してくんだ。モルヒネとか切れると、ぎゃーぎゃー騒ぐ。だんだん小さくなる叫び声を聞きながら、あいつは無視だ。でもこいつは助かるからって自分に言い聞かせながら治療してたはずだよ。毎日治癒魔術で魔力切れそうになって、ふらふらになりながら、地雷でミンチになった足をノコギリで切り落としたりしてたんじゃない」
「……」
「出来る? 痛みで暴れる鍛えまくった軍人、黙ってろって言ってぶん殴って、ヘロイン注射出来る? 目の前に死にそうな人いるけど、あ、あっちは助かりそうだね。ごめん。君はスルーで。こういう事、出来る? 君の親、そういう医者になって欲しいなんて、絶対に思ってないと思う。ブラ◯ク・ジャックになって欲しいと思ってるはずさ」
「や、やや、やります! 私、父を尊敬してます! だから、やります!」
凄い気迫の目です!
にやり。
「OK! じゃあ、ルクレツィアさんを雇おう。ところで、こんなのがあるんだ」
あれ? テルクニ君、これは……魔術の札ですね?
「ダンジョンの周り、魔術は使えないけどさあ。札なら、直に貼り付けちゃえば、使えるって事が分かっちゃったんだよねー」
「???」
「うん。どんな患者が来ても、この札貼り付けてけばOKなんだ! あははは!」
「……はっ……」
かくーん!
だーまーさーれーたー!
「ふふん。この札、ソフィアさんのご先祖様が作った魔術が入ってるんだ。手足切り落とされても、ぴったりくっついちゃう! 知ってるよね? ソフィアさんのご先祖様。有名だもんね。ラディスラヴァ=ホルニコヴァ。その人に母さんが教わって、僕が母さんから教わっちゃった! で、ここにその札がー!」
ぽー! ルクレツィアさんの顔が真っ赤!
君が怒ると、ホッペタがバラ色になって綺麗だよ!
「だ、騙したんですか!?」
「いいや! 僕が欲しかったのは、腕より覚悟って所。本当に死にそうな人だったら、いくらこの札でも間に合わない。分かるよね。さっき言ったこと、やらなきゃいけないんだ」
「う……うん……はい」
「それと。僕が人斬りまくってた事は、絶対に秘密。何処で誰に漏れたか、1時間で簡単に探せるくらいのコネは、傭兵時代に出来ちゃったから。嘘だと思うなら、試しに誰かに話してみて。ルクレツィアさん以外の全員が、救急車じゃなくて、霊柩車じゃないと間に合わない状態で見つかる事になるから。ルクレツィアさんには、懺悔とお祈りの時間をあげるからね。僕は死刑囚には優しくするタイプだから」
テルクニ君の目がガチの目です!
これは話したら頭に風穴が開くか、首が落ちるか……
ルクレツィアさん! 絶対に興味本位で試してはいけませんよ!
「この後、時間あるなら道場でも見てきなよ。ももちゃんの新しい動画、見た?」
ほ……話が平和な方向に変わりました。
「あ、見てないです。最近、動画見る暇もなかったので……」
ソフィアさん! 労働環境の見直しを要求します!
「海外ドラマにハマっちゃってて……帰ったらまず再生、ご飯食べながら見てて、お風呂入りながら見てて、見ながら寝るみたいな……」
そっちでしたか!
トゥ◯ンティフォーを3日でシーズン3まで見てないですよね?
「面白いのが上がったんですか?」
「うん。動画見てから行くと、きっと楽しいと思うよ。ももちゃん、こないだウチの道場に来たんだ」
「えーっ!?」
「ついでに僕に惚れても良いよ」




