第19話
翌深夜。
テルクニ君が、トミヤス道場チャンネルを見ています。
『先生は、どのような国へ』
『ううむ、数えたらきりがないですが』
りっちー君が指折り数えていきます。
『『ピー!』『ピー!』『ピー!』とか、『ピー!』『ピー!』『ピー!』『ピー!』なんかはきつかったですね……あ、任務内容はお答え出来ませんが』
「……」
そう。りっちー君も、戦場で人を何人も斬ってきているのです。
最初はこの野郎! という感じで見ていたテルクニ君も、神妙な顔になっています。
やっぱり、戦場を駆け抜けていた者同士、相通ずるものがあるんでしょうね。
『で、実際に剣を使う場面というと、どういう所になるのでしょう』
『銃弾が無くなってしまった、という時がひとつ。まあ、その辺りは管理していますので、まずないのですが』
『となると、どういう時に』
『驚かれるでしょうが、屋内が多いです』
イマイ君がびっくりして、剣を見たり、りっちー君を見たり。
『お、屋内ですか? こんな長い物で?』
『ええ』
『先生、その、天井とかにぶつかったりは』
『私はしないです。勿論、部隊の誰もしないです』
『どのように扱うのでしょう?』
『そうですね……イマイさん、ちょっと』
りっちー君が立ち上がって、剣を背中に背負いました。
イマイ君の左手を取って、
『右後ろから、肩に乗せておいて下さい』
挙手。はい、カオルさん。
『先生、それはどういう意味が』
『ああ。後ろから危ない! と分かったら、バディが、あ、バディというのは相棒というか。2人で動く時の相方の事ですね。それが肩を引きます。実際はこれが3人、4人と後ろに続いたり、2組に分かれていたりします』
『なるほど』
『後ろや周囲はバディが見ていて、突入先は私が見ている。それを肩で合図している、みたいな。映画とかドラマみたいに、叩いてGO! のような事はしないです。音がしますので』
『音ですか? ぽん、と肩を叩いた時の音?』
『はい。別に獣人族とかでなくても、軍人なら普通にそれで気付かれます』
『何か、凄いですね……』
『軍人というのは、そういうものです。さて、これから部屋に突入するとします。イマイ君、絶対に動かないように』
『はい』
すばん! と剣が抜かれてしまいました!
『ええ!?』
『うおっ!?』
イマイ君、びっくり! 手を引いてしまいました。
『で、扉のですね』
『先生! すいません、今どうやって抜いたのですか!?』
『どう……こうですよ』
よいしょ、と肩から滑るように剣が鞘に収まります。
さすが、使い慣れた得物は違いますね。
りっちー君は、こちらに来てから、刀の扱いを練習してますから。
でも、この剣で立ち会っても、テルクニ君に勝てないのは悲しい所。
『もう一度』
すばん!
『は!?』
『……』
ここでスロー再生が挟まります。
『もーうーいーちーどー』
ぼしゅうん。
カメラが捉えきれていません。
『はあー!?』
スロー終了。
『こんな感じに抜くだけです。で、こんな感じに、突くように構えるんですね。あ、そうそう。左手をご覧下さい。このように先の方を摘んで持っておいて。こうすると、長いのでも。こう。こう。細かい動きが出来るわけで、室内でも問題なしです』
『ああっ! なるほど! あ、そういう事ですか! これは添え手の使い方ですね!? トミヤス流にもあります!』
『そういう事です。私は元々、トミヤス流の分派、トミヤス流夢想派からでした。あちらは剣の扱いにかなり特化しているというか。こういう、いわゆるロングソードも、狭い所でも細かく扱えるよう、色々ありまして』
『いや、驚きました!』
『で、ブリーチング。あれです。ドアをぶち破って突入するやつですが……』
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ぴ、と停止。
何だか暗い顔のテルクニ君。
最後まで見なくて良いんですか?
コメント欄のチェックはしないんですか?
「ふう……」
PCをスリープモードにして、テルクニ君が部屋を出ていきます。
あれ? ネトゲしなくて良いんですか?
「りっちー」
「はい」
さらー、と襖を開けると、正座して読書をしているりっちー君。
読んでいるのはトミヤス流の覚書。遅くまで頑張っています。
りっちー君も指導員。少しでも腕を上げないといけません。
「あのさ。奢るから、呑み行かない?」
「若」
何か、テルクニ君の顔が暗いですね。
やっぱり、戦場を思い出してしまったようです。
「どうかなさいましたか」
「いや。久し振りにさ。外で呑みたくなっただけ」
「……」
「行かない?」
「お誘いはありがたいのですが」
「ん」
「奢りはいけません。若、今ある金は、ダンジョン経営の為の金でしょう」
「うっ!?」
「折角のお誘い。今日は、私が奢ります。参りましょう」
りっちー君の最高の笑顔。
これはテルクニ君が落とされてもおかしくなさそう。
「す、すまん……」
「構いませぬ」
今日は良い酒になりそうですね。
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ここはオリネオ市の、三浦酒天本店。
創業は500年を超える、老舗のお店。今や全国チェーンの居酒屋さんです。
安い! 早い! 美味い!
実際にこれを満たせるお店は中々ありません。
人の国だけでなく、魔の国の料理もたくさんあります。
なんとクレールさんのご家族も来たことがあって、味にびっくりしたんです。
レイシクラン家はワインと料理が売りで有名。
そこからお墨付きを頂くというのは、ミシ◯ランのお墨付き以上なんです。
「マッリーと、黒生レイシクラン」
「獣人肉盛りとヤセキ吟醸をボトルで」
「はーい! マッリー黒生! 獣人肉盛りとヤセキ吟醸ボトル! 冷で良いですね!」
「頼みます」
「少々お待ちくださーい!」
店員さんが下がって行ってから、りっちー君が頬杖のテルクニ君に、困ったような笑顔を向けました。この笑顔も堪りませんね。
「若。今日はどうなさったのです」
「配信見てた」
「何か嫌なコメントでもありましたか」
「いや……いや、あったかもしんないけど、コメは見てない」
「何か夢想派の使い方に疑問でも」
「違うよ。傭兵、思い出してさ……」
やっぱりそうだったんですね。
「……」
「銃で撃ち殺すのとさ。刃物で直にやるってさ……違うでしょ」
「はい」
「俺、武術家失格かな」
「はい」
いつもなら、そこはフォローしろよ! と声を上げそうですが、今日のテルクニ君は大人しいですね。
「若。大体、傭兵というのは、殺しに何も思わない者や、ゲーム感覚で殺せる者が多くおります」
と、そこに現れたのは酒です。
「お待たせしましたー! 黒生レイシクランとヤセキ吟醸でーす!」
「ども」「ありがとうございます」
「お食事もう少しお待ちくださーい!」
ビールは瓶で出してくれるのが、三浦酒天のこだわりポイント。
味は変わらないのに、瓶の方が美味しく感じますね。
「……」
テルクニ君は、瓶についた水滴が落ちていくのを見ています。
りっちー君はお猪口に酒を入れ、軽く呑みました。まるで水です。
実際、狼族のりっちー君には、酒なんか水と変わらないです。
「ま、そういう者が多いので、傭兵は嫌われるわけです」
「まあね」
「若はそれがないので、良い傭兵です。小石を拾うように人を殺せる者や、殺しを楽しみたい者が多い中、若は今でも心を悩ませております」
「まあ、ね」
「ですので、若は伝説と呼ばれるのです。武術家失格と仰られましたが」
「うん」
「お父上のマサヒデ様も、若き頃は同じく御心を悩ませておられたそうで」
「……本当かな。あれ」
「お疑いでしたら、マツ様、クレール様にお聞きになってみては。シズク様、マスダ先生。皆様、若き日のマサヒデ様をご存知です。ヒラマツ家には、マサヒデ様のお手紙も保存されておりますし」
りっちー君がビールの瓶を取って、テルクニ君のジョッキに向けます。
「若」
「ん。ありがと」




