第18話
今日はトミヤス道場チャンネルの撮影日。
『#2 武術は現代戦闘で使えるのか!』の、撮影です。
稽古時間が終わった後、道場で撮影をします。
今回はアシスタントとして、イマイ君もいます。
「では、リチャード様、イマイ様。本日のテーマなのですが」
「はい」「はっ!」
「今回のテーマは、武術は実戦で使えるのか。リチャード様には既にお分かりでしょうが」
「ええ……まあ、はい」
実はりっちー君も実戦経験豊富なんです。
魔の国で特戦隊に居た頃は、海外には何度も派兵されていますし、対テロ作戦も、ちょっと教えられない任務なんかも、何度も遂行しています。
「これは喋ってはまずい、という所にはP音を入れるか、編集の際にカットしますので、ご安心下さい。編集後、私のみでなく、レイシクラン忍衆の皆様にもご確認頂きますので」
「あ、そうでしたか。いや、うっかりが出たらまずいなと心配でしたが」
「がんがん喋っても結構です。編集前データも、完全に破棄します。これはマツ様かクレール様に、ディスクごと超高温で焼却して頂きますので、灰も残りません」
金属も使っているのに、灰も残らない程に……
こくん、とりっちー君が喉を鳴らしました。
イマイ君の脇の下を、嫌な汗が垂れていきます。
「確認致しますが、リチャード様、特戦隊では今も剣を使う方が」
「はい。勿論、持たない者も居ますが」
「リチャード様は」
「あれを使っていました」
む、とカオルさんが頷きます。完璧です。
道場の隅には、ブルーガンと訓練用のナイフ以外、本物のフル装備一式。
りっちー君の汗と血(殺した相手の)が染み込んだ装備です。
横に置かれている長い剣は、何人の血を舐めてきた事やら……
「ではイマイ様」
「はっ!」
イマイ君、良い気合です!
「今回は主に受け手を引き受けて頂きますので、最初の挨拶以外は、特に喋らなくても結構です。気楽に、我々の話を聞きつつ、例えばこのような、と例を出す時、リチャード様の手伝い役のような感じです。感想を求められた際は、決して大袈裟に言ったりはしないで下さい。それは幇間稽古と同じです」
何っ!? イマイ君が眉を寄せてます。
幇間稽古! これはガチで武術武道やるなら、一番いけない事です。
褒めて伸ばすとは違います。やたら良いですねえ、と褒める稽古です。
要は、格好つけのガワだけ武術家が増えていくだけという稽古の事です。
もういいよお、武術とかあ。商売だけでー、と割り切ってるなら、別に良いです。
武芸は芸。商売です。というのとは、少し違いますよ。
「決してそのような事は言いません」
カオルさんが懐から札を出しました。
「念の為、治癒魔術の札は用意してございますが、あくまで保険とご承知下さい。その、札も結構高く、入手経路も限られますので……申し訳もございません」
カオルさん。高いって、それ、あなたがガチ課金勢だからですよね。
「分かりました」「はい!」
「では、リチャード様、真ん中。私が左と。イマイ様、右で。正座から……」
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カメラチェックも終わって、撮影開始です。
「では、噛んだとか、間違えた、という時は、手を挙げてからもう一度で。いくら間違えても構いません。それではいきます。3。2。1。キュー」
3人揃って礼。
「トミヤス流、リチャード2世=エッセン=ファッテンベルクです」
「同じくトミヤス流ウキョウ道場、カオル=サダマキです。リチャード先生、本日は門弟のお方をアシスタントに」
「はい」
りっちー君が頷くと、イマイ君がぺこり。
「トミヤス流、サダカツ=イマイです」
よしよし。いい感じです。
カオルさんが心の中でグッド! してますよ!
「本日のテーマは、武術は現代の戦闘に通用するのか。それを、実際に戦場にもおられましたリチャード先生と、門弟のイマイさんと共にお話ししていきたいと思います。是非、最後までご視聴願います。では皆様、まずこちらをご覧頂きましょう」
イマイ君が立ち上がり、りっちー君の装備を……
これは重い!
「う、う」
ずり……
「先生、イマイさんでは重いようで」
「あ、これは失礼しました」
軽く頭を下げて、立ち上がるりっちー君。
ひょいと装備を持ち上げて、とすん、と置きます。
イマイ君は、りっちー君の長ーい剣を持って来て、カメラ側に。
「先生、先程、イマイさんが驚いておられましたが」
「やあ、ははは。最初は驚くと思います。全部で……ううむ、60kg少しでしょうか。そのくらいあるので」
それを片手で軽く! さすが狼族は違います。
「60kg以上もですか!」
「いや、驚く事ではないです。これは私が魔族だからではなく、人族の国全般でも、フル装備となると、大体このくらいか、まあ少し軽いかになります。勿論、任務内容にもよって変わりますが」
「そうだったのですか! では、このような重さを担いで、軍人の皆様は歩いたりとか……その、走ったりも」
「そうです。当然、車やヘリなどが侵入出来ない場所は、徒歩で行くしかないので。山は登らないといけませんし、ジャングルなどはもう大変です。ぐちゃぐちゃと固く絡みついた根っこや、ツタなんかがあったり……」
「ううむ!」
「あ、ツタと言われると、皆さん、あの金網などに絡んでいるような物が頭に浮かんだと思いますが、直径が何cmという太いツタです。それが前を遮るわけで。そのまま進んで行けば、ぷちぷち切れるような代物ではありません。それを払ったり、くぐったりとか」
「想像を絶する世界ですね……この青い銃は?」
「この青い銃は訓練用の物で、弾は出ませんが、重さは本物と同じです。見た目の通りで、ブルーガンと言います」
「なるほど。ところで、気になっているのがその剣」
うむ! とりっちー君が頷きます。
カオルさんの進行もありますが、カメラにも慣れてきたようですね。
「はい。私は、この装備に加え、これも持って行っていました。まあ、信じてもらえなくとも結構です。特戦隊は名前は知られていますが、映像などは一切残しませんし。それに、部隊でも、これほど長い物を持っているのは、私だけでした」
「これほど長いのは私だけ、という所が気になるのですが、他にも持っていると」
「はい。勿論、持っていない者もいますが、まあ8割は持っています。今でもまともに剣を使う正規軍は、世界でも特戦隊だけではないでしょうか。儀礼用、式典とかで使う所は多くあるでしょうが、戦場に持って行く事はそうはないでしょう」
「何故、このように長い物を? 素人目に見ても、軍人の活動には邪魔だと思うのですが」
りっちー君、少しシンキングタイム。
「……まず……そうですね。これを選んだ理由から。これは、大叔母様の……つまり、イザベル=エッセン=ファッテンベルクの愛剣だったのです」
「あのイザベルですか!? いや、失礼しました! イザベル様! マサヒデ様の、ご家臣となられた!」
カオルさん、実はとっくに知っていましたが、ナイス演技です。
「ええー!? これがあのイザベル様の! 本物!? 真剣ですか!?」
イマイ君も驚いて、りっちー君の剣を覗き込みます。
こっちは素です。
「はい。元々は開祖カゲミツ公の持ち物だったのですが、大叔母様がカゲミツ公よりお譲り頂いたのです。2代目の、勇者のマサヒデ様の家臣となり、現在のオリネオ市を旅立つ際に頂いたと。その場面がドラマやアニメなどに出てきますが、これです」
「これが……あの剣ですか……」
「お……おお……」
ふ、とりっちー君が鼻で笑います。
「これは裏話なのですが」
「何かあるのですか」
「実は、あの譲って頂いた場面、少し違うのです。最初は譲って頂いたのではないのです」
「と、言いますと……どういう?」
「貸してもらっていたのです。貸賃は、なんと1日に金貨1枚」
「ええっ!?」
「まじっすか!?」
「ふふふ。大叔母様は、無一文、かつ仕送り禁止という条件で、マサヒデ様の家臣になられました。当然、まともな装備を買う金などありませんから、トミヤス家の蔵から1本貸してやる、とカゲミツ公が仰ってくれたのです。選んだ物がこれでした」
「なんと……」
「法外な額と思われるでしょうが、それ程の物です。目のある方が見れば、一目で分かるかと。カゲミツ公は、これを選んだ大叔母様を見て、一言、抜けるか、と問うたそうです。大叔母様は抜きました。元々、このくらいの差料を持っていたのです。カゲミツ公は、だろうな、という感じで笑って、日に金貨1枚だ、と言ったのです」
「それはイザベル様も驚いたでしょう」
「いえ。むしろ、これほどの物を、1日にたったの金貨1枚で貸してくれるのか、と、感謝の念に耐えきれなかったそうで。そして、マサヒデ様とこちらに戻ってきた時、カゲミツ公が、その剣は役に立ったかと。はいと答えましたら、そうか。じゃあ、お前さんにやるよ。と」
「おお……」
「か、開祖、格好いいですね……」
「大叔母様は驚いてしまって、必ず借金は、と頭を下げたのですが、カゲミツ公は大笑いして、もう借金を数えるのも忘れちまった。借金を数えるのが面倒だから、お前さんにやるのさ、と答えられたそうで、大叔母様は涙を流してしまったそうです」
「それは……たまりませんね……」
この話はカオルさんも知らなかったので、これは素の驚きです。
「いやあ、それは痺れますよ……」
イマイ君も驚きが止まりません。
「ははは! ここの所がドラマやアニメに出てこないのが、私は不満なのですが。いや、幼い頃に大叔母様から聞いたカゲミツ公のお話は、それは魅力溢れるお方であったのであろう、という話ばかり。もう剣術抜きにしても、お会いしたかったですね」
「ううむ! ……あ、失礼しました。話が脱線してしまいましたが……」
そうですよ。カオルさん、こんなバカみたいに長い剣を戦場でどう使うんですか?
はっきり言って、邪魔です。




