第15話
テルクニ君はがっくり来て、ネトゲは落として外に出て来ました。
向かう所は……ここは雀荘ですか?
「ばんわー」
受付の人がちらちら周りを見ましたよ。
この雀荘って、もしかして……
「おす。お疲れ様です」
「空いてる席、ある?」
「奥の4番にどうぞ」
「ん……」
奥の席も一杯ですけど……あれ? そこって従業員用って書いてありますよ。
入っても良いんですか?
がちゃり。
4番目のドア。
うわ! この部屋はタバコの煙がすごいですね!
おっと、この人達は……
横の2人が立ち上がりましたよ!?
「誰かと思えばトミヤスさんですかい」
良かった。2人が座ってくれました。
3人共、いかつい顔ですねー。本職の方々です。
日輪国2大暴力団組織のひとつ、興龍会。その直系の白竜会の皆さん。
武闘派でありながら、今の時代、珍しく仁義とか任侠も大事にしている組です。
「久し振り」
「ですねえ。何年も顔も見ねえんで、心配してましたよ」
この顔にがっつり傷跡がついてる人は、白竜会若頭代行のシライさんです。
組長さんの息子さんですが、甘やかされてはいませんよ。
「いやー、ネトゲにハマっちゃってさ。ま、所謂、廃人ってやつ」
「ははは! トミヤスさんがネトゲ廃人ですか!」
テルクニ君が渋い顔で対面に座りました。
自分で言ってても、誰かに言われると何故かキツい事ってありますよね。人間って不思議です。
「よいしょ、と……あのさ、事務所なくなったんでしょ? 捕まってはないって聞いてはいたけど、こっちも心配してたんだよ」
「暴対法で締め付けが厳しくなりましてねえ。俺らヤクザ者は、昔みてえに看板掲げて商売出来るって世の中じゃねえんですよ。事務所も転々と変えるって感じです」
「大変じゃないの」
「ええ。そのくせ、海外マフィアにゃ大した締め付けはねえ。この辺も、随分と海外マフィアが幅きかせるようになっちまいました」
「やっぱりそうなるよねえ。暴対法の内容見た時、ヤバいなあと思ったよ。あ、タバコもらっていい?」
「どうぞ」
テルクニ君がタバコを取ると、しぼ! と火を着けてくれました。親切ですね。
「ふー! あー、最高! まともなタバコって久し振りだよ。ところでさ、こないだネットで記事見たよ。闇バイトで80人も捕まったってやつ。闇バイト、この辺にもちょいちょい来てるんでしょ? 大丈夫なの、あれ?」
「オヤジが見つけ次第って頑張っちゃいますがね。俺らも走り回っちゃいますが」
「難しいよね」
「ええ。なんせ発信元が海外ってのがほとんどですし。知ってますかい? 今じゃ北コーリャンの奴ら、こっち来て拉致なんてしねえんです」
「え? そうなの?」
「ええ。闇バイト使うんです。こっちに来てくれたらご家族に、とか言って呼ぶんですよ。相場は日輪国人、米衆人で金貨150枚、他の国は120枚って所です」
「へえー……そんな事するんだ」
「米衆や白露のマフィアは、もう少しマシですが、どっちもこの国じゃ小せえ所しかありゃしませんし。魔の国のマフィアみてえに、地域密着できっちり仁義掲げてるまともなマフィアは、そもそもこっちにゃ来ませんし」
「ふーん。この辺で海外の大きな組ってどこ?」
「パイロンとアンリャンって所です」
「ふーん……パイロンとアンリャン、ね。名前からして、大中心とコーリャンか」
ちょっと待った!
テルクニ君、何を考えてるんですか?
「トミヤスさん、やめて下さいよ。カタギが手え出して良い所じゃありません」
「カタギが手え出したら、ね。わきまえてるよ」
「そうして下さい。トミヤスさんなら、1日2日で潰せるでしょうが、あいつらあ潰しても潰しても湧いてきやがって、きりがねえ。本国に大組織があるもんだから、どうしようもねえんです」
「本国ねえ……本国、か」
「トミヤスさん。飛行機盗んで本部にカチコミなんてやめて下さいよ」
「ははは! それは僕でも難しいなあ! でもさ、僕って世間的にはカタギだけど、中身はもうカタギじゃないんだよね。知ってるでしょ」
「そりゃあ……まあ、知ってますがね」
「ん。じゃ、今日、僕はここに来なかったって事で」
「ちょいと、トミヤスさん」
「タバコ、ごちそうさま。そっちからお願いに来たわけじゃあないから、気にしないでよ。僕もさ、ネトゲ廃人なりに、この国に憂慮ってあるんだよね。ネトゲでも大中心とコーリャンのクズが横行してるもんだから……全く……ぶつぶつ」
ぱたん……
「若頭。まずい感じですよ。追いかけてますか」
「やめとけ。斬られるぞ」
「斬られるって」
「いいから。ま、座れ」
「へい」
しゅぼ! すー……ふー……
「おめえらは口が固えから話すがな……」
「何でしょう」
「トミヤスさんな、紛争地域でガチの傭兵やってたんだ。相手はライフルに手榴弾に防弾アーマーにとフル装備。爆弾、ミサイル、地雷原。そこで刀1本で飛び込んで、何百人と斬り殺して、傷一つなく帰ってきたんだ。今じゃ軍や傭兵の世界じゃ、伝説って呼ばれてるお方だ」
「まじすか!?」
「ホラ話じゃねえ。知る人ぞ知るってやつだ。お前、迂闊にこの話するんじゃねえぞ。トミヤスさんはそれ隠してるからな。うちの組にも、この事は外に出すなって、口止めきたんだ。おふくろさんも知らねえ事だ。それと、何があっても、トミヤスさん助けて下さい、なんて事は絶対にやめろよ」
「なんでっすか?」
「この事がおふくろさんにバレたら。どこから漏れたか、なんてバレたら。白竜会どころか、興龍会自体がどうなるか、分かったもんじゃねえぞ。おふくろさん、魔王様の娘だって知ってるだろ。絶対に伝説の傭兵と魔王様の姫に迷惑かけるんじゃねえ」
「……うす」
「ところで……な。穴、用意してあったな」
「へい」
『穴』とは、死体を埋める穴の事です。
田舎の個人の山なんかで、1つ何百万って売ってたりします。闇ですね。
海外だと、某黒い炭酸ジュースで漬け物にして、ふやふやどろどろにしてから埋めたりします。そうしておくと、ガスが溜まって死体が膨れる心配がないので、土が盛り上がったりしてバレる事がないんです。動物も穴を掘り返したりしません。
あの黒い炭酸ジュース、凄いですよね。そういう世界の家庭の知恵袋です。
「処理、くれえはウチがしねえとな……まあ、灰にして飛ばしちまうと思うから、使わねえかな」
「……」
「そうだ。アジトに居ねえで助かった奴らだ。分かってる奴は逃げねえうちに始末するか。おい、緊急招集かけろ。集まったら即出発だ。ワゴン用意させろ」
「うす!」
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からからから……
「ただいまー」
マツさんがひょいと顔を出しました。
「テルクニ、またコンビニ?」
「うん。ジュースいる?」
「もらいます……う! タバコ臭い! またあの傾奇者の方々!?」
傾奇者って、マツさん、それは古いですよ。
「母さん、せめてヤンキーって呼んであげて。いちごでいい?」
「はい。テルクニ、あなたもあのヤンキーの人達と仲良くするなら、少しは社会更生させなさい」
「こないだ1人したよ。学校サボるくらいなら、ちゃんと働くって、仕事探してる」
彼女を妊娠させちゃった人ですね。
「宜しい。その調子でね」
「うーい。ちょっとまた出かける。帰り遅くなるけど、心配しないで。夜のダンジョンの魔力とか計測しときたいんだ。色んな札とか使えるかも調べたいしね。カオルさん、連れてくから」
「あ、良いですね。やるとなったら徹底的にです」
「ん」
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(やるとなったら徹底的ね……)
てくてくてく……さらり。
「はっ!?」
Alt+TAB!
今のはカオルさんも気付かなかったようです。
「カオルさん」
テルクニ君が珍しく真面目な顔で、ヘッドホンを外せ、と手で合図。
「ちょっとサムキン落として。仕事しに行くから、手伝ってほしいな」
Alt+F4。
終了。デスクトップに戻りますか? はい。
「仕事ですか? 何の?」
「これから海外マフィア潰しに行くから」
「は!?」
「しー、しー。ちょっと手伝ってくれると嬉しいな。情報省でも使える情報、あるかもしれないでしょ。適当に探してもらって良いよ。後始末は僕がするから」
「……」
「あのさ、スマホとかの電波妨害するようなアプリとかってない?」
「あ、アプリ、は、ございませんが……」
「じゃ、道具とか」
「まあ、まあ……ございますが」
「おっけ。準備、15分でいいかな? 今日、ふたつ行きたいんだよね」
「ふたっ!? ふたつですか!?」
「うん。パイロンとアンリャン。じゃ、15分後」
テルクニ君、あなた、仕事人ではないんですよ!?
まさか、八つ当たりって事はないですよね!? 本当に行くんですか!?
せめて、理由作って、カオルさんといちゃつく程度にして下さい。




