第13話
テルクニ君達がスポンサー契約のお話をしている頃――
ここはオリネオ市の近くの山。
山の上には『剣聖神社』というネーミングまんまかよ! という神社が建てられていて、年始には国中の武術家がお参りに来たりします。
祀られているのは、初代トミヤス流開祖、カゲミツ=トミヤスさん。
テルクニ君、ユキちゃんの、父方のおじいちゃんです。
他にも、カゲミツおじいちゃんのお師匠様の、コヒョウエ=シュウサン先生。
ご友人の、ジンゴロウ=サカバヤシ先生。
3人の伝説的な武人が祀られています。
ユキちゃんもしょっちゅうここに来ますが――
実はお参りにではなく、走り屋になりに来てるんです。
駐車場にクルマを停めて、ドアにもたれてオレンジジュースを飲んでます。
ただジュースを飲んでいるってだけなのに、絵になりますね。
おや? またクルマが来ましたよ。
これは海外車ですね。魔の国のクルマで、ノーマルで580馬力の高級車です。
0-100が2.7秒、最高速300kmオーバーの化け物です。
勿論、限定生産車です。
「や」
爽やか笑顔の金髪イケメンが、ユキちゃんに声を掛けてきました。
ユキちゃん、ちらっと見ましたが、ぷいっと顔を背けてしまいました。
ブラコンなので、イケメンでも興味ナッシングです。
「ちわー」
ユキちゃん、ブラコンにしても、何か機嫌が悪そうですね。
「冴えない顔じゃない」
「まあね」
「どうしたの」
「色々」
「ふーん」
「ハワード君には関係ないよ」
「ふーん」
このイケメンはハワード公爵家の次男、ジョン=ハワード君です。現在大学院生。
大学に入るまではトミヤス道場に通っていたので、ユキちゃんとも知り合いです。
現在は道場は辞めましたが、クルマ仲間です。
「ごめん。キツい言い方しちゃったね」
ちょっとだけ、つっけんどんでしたね。
「いいよ。別に」
「ね。ちょっと走らない?」
「悪いけどサ。今日は気分じゃないんだ。ドライブに来ただけ」
「そう」
ふ、と笑って、さらっと前髪を流すハワード君。
これだけで女の子達が嬉しい悲鳴を上げそうです。
「走るの、やめといた方がいいよ。そういう感じの時って。危ないから」
「うん」
「じゃ、また」
「バイバイ」
ブォン!
凄い音を立てて、黒いクルマが去って行きました。
はあー、とユキちゃんが溜め息をつくと、またクルマが入って来ました。
「……はあ」
違う感じの溜め息です。
ぼぼぼん……ぼん。
ばたん。
おや。今度は女の子ですね。
絵に描いたようなお嬢様です。縦ロールのドリルヘアは中々見ませんよ。
「ああらトミヤスさ」
「うるせえメスガキが。帰って父ちゃんの◯◯◯でもしゃぶってな」
ユキちゃん、黒い顔が出てますよ。
ぴく、とドリルの女の子の頬が引きつります。当然ですね。
「トミヤスさんはお兄様の◯◯◯は」
「今すぐ消えねえとその綺麗なお顔がミンチになるよ」
「あら怖い。暴力に出るの」
「暴力は嫌? 財力に出ても良いんだけどね。政治力が良い? 情報力が良い? アンタの家族親戚全員の秘密、報道に垂れ流しても良いのよ」
「……」
「碌な政治もしねえオヤジのタマの絞りカスが。何で外国人が給付金受けて、日輪国人は給付金がねえんだ。ふざけんじゃねえ。ここは日輪国じゃねえのか? 日輪国人は優遇されねえのか? ああ? 何で外国人のレイプ犯が執行猶予で、日輪国人は即ムショ行きなんだ?」
「それは」
「うるせえ。カネと圧力の流れはばっちり掴んでんだってオヤジに言っとけ」
「脅迫なさるの」
「悪党を脅して何が悪いのよ」
「お父様が悪党!?」
とんとん。しぼっ!
ユキちゃん、たばこは喫煙所で吸いましょう。
喫煙者には肩身の狭い世の中になったものです。
「ふー……何もなけりゃ、脅迫にならないでしょ」
「なんですって! お父様が!」
「ビッチ娘は血税と賄賂で良いクルマ乗り回してやがる。寄付? 応援金? 税務署ナメんじゃないよ。アンタのオヤジに次の市長選はないからね。クソオヤジの任期が終わる前に、海外に逃げる準備しときな」
「逃げる!? 何の罪で!」
「うるせースベタ。日輪国にアンタの家族の居場所、無くなるよ。今からでもマジメに政治家やらせて、匿名のメールがうっかり報道に届かないようにさせな。そしたら任期終了までメールは届かないよ。多分ね。とっとと帰ってパパにまともな政治してっておねだりしてきな」
「訴えてやるわ!」
「ご自由にー。知ってる? 裁判記録って、申請出せば誰でも見れるんだー。私、何を知ってるのかなー? ぜーんぶ喋って、しっかり記録に残しちゃおう。その裁判記録、誰が見るかなー。わー楽しみー」
「く、くく……」
「すぱー(タバコの煙を吐く音)」
すごすご……
頭にコロネロールをぶら下げた女の子は、顔を赤くしたり青くしたりしながら、肩を落として帰ってしまいました。
「はー……私も帰ろっかな」
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しばらく後、トミヤス道場。
動画撮影の為、カオルさんがいくつもカメラを置いてます。
りっちー君が、カメラに囲まれて緊張していますね。
「では、ファッテンベルク様」
「んんっ! おほん。や、サダマキさん。リチャードで結構です」
「はい。ではリチャード様、そろそろ開始します」
「はい」
「では、最初の挨拶の練習。いつもここから始まりますので、これが大事です」
「はい」
す、とカオルさんがさり気なくりっちー君と並んで座ります。
「正面のカメラを向いて頂いて」
「はい」
「まず、合わせて一礼。トミヤス流のファッテンベルクです。続いて私、トミヤス流のサダマキです。まず練習ですので」
カオルさんが懐からスマホを出して、ぴ、と指。
「はい、録画テスト開始です。ではリチャード様」
「え、もう!? ん、んんっ! トミヤス流、リチャード2世=エッセン=ファッテンベルクです」
「同じくトミヤス流、カオル=サダマキです」
ぴ。撮影OFF。
「チェックしますので、少々……」
カオルさんが厳しい目で録画した挨拶を何度も見返します。
「ふむ……ふむ……画角は良いですね。固いですが、まあ宜しいでしょう。あまり慣れておられると、もしや他で配信しているかと思われますし……結構です」
ほ、とりっちー君が胸を撫で下ろしました。
カオルさんの顔は、完全に怖いディレクターです。
「リチャード様、多少噛んだり、言い直したりは、後で編集で何とでもなりますので、言葉を間違えた、などがございましたら、手を軽く上げてからやり直して下さい。そこで編集点を作りますので」
「あ、はい」
筆者も少し配信をしておりましたので、編集点の大事さは良く分かります。
自分で編集もしておりましたので……
あるとないとでは、編集のしやすさが段違いです。
動画投稿で編集が大変、という皆様、編集点は分かりやすく入れましょう。
「リチャード様は、私の質問にお答え頂くだけで結構ですので、気楽に。生放送ではないので、ミスは何度でも許されます」
「分かりました」
もじもじ、とりっちー君が姿勢を直し、襟を正します。緊張しますよね。
「大事なのは、大声を張ることより、通りやすい喋り方です。門弟の皆様に指導する時のようにお喋り下さい」
「あ、なるほど。分かりました」
「では撮影を開始します。3、2、1、キュー」
ささ、と2人が一礼。
流石に綺麗ですね。
「トミヤス流、リチャード2世=エッセン=ファッテンベルクです」
「同じくトミヤス流ウキョウ道場、カオル=サダマキです。本日はトミヤス流本道場に来ております。この動画をご覧の皆様は、宗家テルクニ=トミヤス先生のダンジョンのお話は、既にお聞きの方も多いと思います。これからは、トミヤス流とは、トミヤス流の考える武術とは何たるか、という動画を、数回に分けて上げていきたいと思います。リチャード先生、本日は宜しくお願い致します」
「あ、宜しくお願い致します」
「今回はお話だけで終わってしまうと思いますが、皆様、是非最後までご覧下さい。世間の剣術、武術と、実戦を謳うトミヤス流との違いをお比べ頂きたく存じます。さて、リチャード先生」
「はい」
「まず……これは批判も多く出ると思いますが、トミヤス流の言う『実戦』とは、如何なるものでしょうか」
「ええと……そうですね。例えば……口では説明しづらいので」
りっちー君、カオルさんの頭に手刀を下ろします。
「カオルさんもこちらに」
「はい」
カオルさんも手刀を下ろします。
りっちー君が、ぽん、とカオルさんの頭に手刀をつけました。
「こんな状況。大体の道場なら、私の一本です」
「はい」
「トミヤス流では、これは勝ちとなりません」
「何故でしょう」
「この手刀を鉄パイプなり、木刀なり、何らかの凶器だと考えて下さい。先にこちらが相手の頭を割ったとしても、既に相手の凶器も振り下ろされています。一瞬遅れて、私もタヒにます。これは、実戦というか、武術的には全く意味のない一本です」
「全く意味のない一本ですか! これはまた批判が来そうな」
「ああいや! 当流ではそう、と考えているだけというだけですから……その、相手を倒しても、自分もタヒんでしまっては、武術の意味が全くない、というですね」
「なるほど! 確かに道理ですが、武術の意味が全くないとは、また手厳しい」
「あくまで私はですが、こちらの被害は無、それが敵わなければ、出来うる限り最小限にして、相手を無力化する事。これが武術のあるべき姿と考えております」
「無力化ですか」
「まあ、2、3世紀も前の話でしたら……その、斬り合いで、刃物なり何なりを向けられているわけですから」
「◯すと」
「言ってしまえば、そういう事です。そういうのが実戦、という事ですね。一本、それまで、では終わらないのです。道場での一本は、稽古の……何と言いましょうか、約束事と割り切っています」
「約束事とは?」
「はい。実際、犯罪者が刃物を持ってきて、こちらが先に一撃入れたとしてもです。興奮して、痛みなど感じず、まだ襲いかかってくるかもしれません。武器を捨てたと見えて、こちらが油断した隙に、拾ってまた襲いかかってきたり、飛び掛かって組みついてきたりするかもしれません」
「ううん、確かに」
「縛り上げるなり、気絶させるなり……えー、時と、まあその、場合によってはーですね……まあ、ですね、そういう事です。それは、あくまで最終手段ですが。とにかく、何らかの方法で完全に無力化して初めて、勝ち、一本、となるわけです。相手が殺意を持ってくる以上、これは当然だと思います」
こう聞くと怖い感じがしますけど、至極当然の事ですよね。
護身術を学んでいる方は、どう相手を無力化するか、どう逃げる隙を作るか、という事をよくよく考えましょう。
「まあ、実際の所、当道場で、そういう本格的な武術としてトミヤス流をやっているのは、ほんの数人です。自分とテルクニ先生を入れても、片手で数えられる程度です。他の皆さんは、フィットネスや趣味に近い感じです。ここは軍の訓練所ではありませんので」
「軍と言えば、リチャード先生は母国の方では」
「あ、ええ、はい。魔の国で、とある特殊部隊を……まあ、隠す事ではありませんね。ネットで私の名前で検索したら出てきますから。特殊作戦隊の出です。恥ずかしながら、私もそこに在籍しておりました。所属までは秘密で」
「ふふふ。流石にそこは秘密ですか。リチャード先生は、警察の特殊部隊や、日輪国軍にも、教官として出向されておられるとか」
「恥ずかしながら」
照れてます、照れてます。りっちー君、カメラ回ってますよ。
「そういう場ですと、やはり先程言っておられたような、実戦的な感じに……」
「実際、相手は殺意を持って銃や魔術、凶器を向けてくるわけですので……」
こんな感じで、初回から随分と賛否の別れそうな動画になりました。
この動画は続くのでしょうか?




