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第12話


 翌朝の事。


 ぼぼぼぼぼ……

 テルクニ君のダンジョンの前に、赤いスポルツカーが停まりました。

 ぷしゅー……


 ばたん。

 ばたん。


 ドアが開いて出て来たのは、テルクニ君とカオルさんです。


「くそう、悔しいが俺のムハンマド号も、ユキのクルマには負けるぜ」


「……」


 これはユキちゃんのクルマですね。

 車ではなく『クルマ』と書く方のクルマです。

 重くなるのに、敢えてガルウィングを選んだ所が、ユキちゃんのこだわりです。


 ブレーキもサスもマフラーも全改造済み。

 ターボは小さめに押さえ、インタークーラーも交換しました。

 エアロもボンネットもルーフも、と言うか、ボディはほぼ全部カーボンです。


 軽量化した分にタワーバーを入れて剛性を高めましたが、反応が過敏になり過ぎないように、絶妙な入れ方をしています。

 街乗りにも使えるように、尖った所が無いようには仕上げていますが、このままジムカーナに出ても良い成績が取れるでしょう。チューナーの腕が見て取るように分かります。


 テルクニ君、いくら愛があっても、このクルマに原付では勝てないです。


「冗談だよ。原付で勝てるわけないじゃない」


「は」


 カオルさんがスマホを出しました。

 ぱぱぱぱ!

 恐ろしい速さで写真を撮っていきます。


「そんなに撮るなら動画でいいんじゃないかな」


「動画ですと後で良い所を切り抜くのが面倒で……良い角度でボヤけたり……」


 次のスマホを出して、ぱぱぱぱ!


「よしと。外の様子は良いでしょう。中も宜しいですか?」


「良いけど、工事の人が来る前にね」


「は」


 さー! とカオルさんが走って行きます。

 工事中のトイレ、シャワー、医務室、待合室。


(これだけ?)


 本当に何もありません。

 受付はどうするのでしょう。

 テントでも建てて、机を置いて終わりでしょうか。


 廊下を歩いて行き、突き当り。

 ぽっかりと広い空間。


(何も無い)


 ただ広いだけの部屋です。

 むき出しの梁が、ぽつん、ぽつん、と建てられているだけです。


 カオルさんが天井にスマホのライトを当てます。

 この梁が壊されたら……

 何だかどきどきしてきました。期待ではなく、不安で、です。


 補強工事もした方が良いでしょう。

 皆が皆、テルクニ君みたいにスマートに動けるわけではないのですし。



----------



 撮影も終わって、クルマの中に戻りました。

 ツーシーターの低いシートには、乗りづらいです。

 乗ってしまえば楽な感じですけどね。


「テルクニ様。こちらを」


「んー?」


 カオルさんが取り出したのは、札。


「札?」


 魔術が籠められた札です。

 しかし、この魔力異常の洞窟の周りでは、魔術は霧散してしまいますが……


「何に使うの」


「貼り付けてしまえば関係ありません」


 ぴたり。

 ばちっ!


「うわ痛っ!?」


 びくん、とテルクニ君が手を引きました。


「今のは弱い雷ですが」


「……うーん」


「直に触ってしまえばとお考えですか?」


「そりゃあね」


 テルクニ君、自分も痛いですよ。相手に触られた状態でスタンガンを食らわせると、自分も食らってしまいます。


「それではテルクニ様も痺れてしまいます」


 電気なんですから、感電して当然ですよね。


 皆さん、自分も感電してしまいますから、掴まれてからスタンガンで反撃では遅いです。そうなったら、逆に自分を窮地に追い込む事にもなりかねません。

 暴漢が襲いかかって来ても、これを当てれば大丈夫とは考えないで下さい。

 スタンガンの取り扱いには、そこに注意しましょう。


 尚、ドラマや映画のように、気絶したりはしませんが、とっても痛いです。当たり所が良ければ腰が抜けるくらいで、腕や足では当てられた付近が痛くて、上手く動かせなくなるくらいです。


 覚悟完了した人や、痛みに絶えられる人、イってる人は、普通に襲いかかってきますので、わざわざ当てに行こうとしないで下さい。威嚇に使うのが一番です。


「札は飛ばせます」


「なら、テーザーガン使うよ」


「テーザーガンは銃刀法に違反しますので、当国では輸入、販売が禁止されております。テルクニ様が入手するのは難しいかと」


「そうだったの? いや、傭兵時代の知り合いに頼めばそうでもなくもないような」


 テルクニ君! それはいけない!


「おやめ下さい。一応、当国では、軍や警察の一部に支給されるのみなのです」


「カオルさんも?」


「私は札を使いますから無いです。紙ですから、小さく折り畳めばどこにでも隠せますし」


「そっかあ。じゃあ、もらっちゃおうかな」


「お使い下さい」


「ありがと。でも1枚で良いよ。後は写しちゃうから」


「写せるのですか?」


 昔と違って、こういう武器になりうる札は、ただ書き写せば良し、とならないよう、仕掛けが施されるように法律が定められました。陰陽師も大変です。


「僕ね、こう見えて、陰陽もやってるんだ。やらされたって言うかさ……」


 パドルシフトを入れて、発進です。

 やりやすく見えて、慣れないと意外と難しいですよね。


「陰陽もやっていたのですか? 陰検(陰陽検定)の何級を?」


「試験はうけてないから、資格は無いけどね。母さん達に叩き込まれた。1級は取れると思うよ」


 さらっと言いましたが、陰陽検定は1級が一番上です。

 流石テルクニ君ですね。ただの魔術師ではありません。


「そっかそっか……貼り付けちゃえば良いか。じゃあ、医務室にも治癒魔術の札を置いとけば良いのか……うんうん」


 カオルさんのお陰で、医務室も助かりそうですね。



----------



 ついでに買い物をして、帰って来たのは丁度お昼時。


「ただーいまー」

「只今戻りました」


 テルクニ君とカオルさんが帰って来ると、ぱたぱたとクレールさんが出て来ました。


「おかえりなさい。丁度ご飯ですから」


「良かった。あ、そいや午後にタナカさんが来るって言ったっけ?」


「忘れてませんよ。ちゃんとサン落雁も用意してあります」


「ありがと。昨日、良い事思い付いたからさ、ご飯食べながら話すよ」


「ええっ! ちゃんと商売の事を考えるなんて!」


「……まあね……」


 目を逸らしたテルクニ君を見て、くす、とクレールさんが笑いました。


「うふふ。マサヒデ様も、武術は商売です、なんて言いながら、商売の事なんて考えてなかったんですよ。武術は趣味でしたから。やっているうちに、人が増えてしまっただけです。今、お父様を超えましたね」


「なんか嬉しくないなあ」


「褒めてるのに。ささ、お上がりなさい」



----------



 タナカさんが来る前に、客間でカオルさんと軽く打ち合わせです。


「今の所、テルクニ様の案はこちら」


 さ、とカオルさんが紙を取り出しました。


「1、斬り合いコース。

 2、訓練コース。

 3、お宝鑑賞コース。

 大まかに言うとこのような感じでしょうか」


「斬り合いコースって言い方、やだね」


「では……本番コースとでもしておきますか。もうひとつ、トミヤス流体験コースを作りましょう。竹刀。宗家と立ち会いなど、そう出来るものではありません」


「ううん……まあ、うん」


 めんどくさそう! という顔がもろに出てますね。


「最初のお宝はサダスケ、脇差。こちら、銘は?」


「あるよ。ちゃんと刀剣年鑑にも載ってる。鑑定書付き。特別保存刀剣」


「おや、特保でしたか。鑑定書付きとなると、値が更に上がりそうですね。なるほどなるほど。公開はいつ頃の予定に」


「どうかなあ? 工事が終わって、あと、向こうに機材運んだりして……2週間は掛からないくらいじゃないかな」


「工事ですか……」


 カオルさん、むき出しの梁を思い出しましたね。

 ちょっと不安そうな顔です。


「その件ですが、梁の補強も致しましょう」


「いるかな?」


「梁が壊されると、崩落の危険がございます。頑丈に致しませんと。テルクニ様は梁を壊すような真似はしませんでしょうが」


「ああ、お客さんがね」


「はい」


「じゃあ、それも頼むかあ……あー、もう給料払ってカツカツだなあ。そうそう、確か、ホルニさん、医療器具とか医者が、1週間はかかるって言ってたかな?」


「ホルニ? 総合病院の?」


「うん。あそこの家と、母さん達、父さんの代からの付き合いなんだよね。で、医者頼んだんだ」


「なるほど」


「冒険者さんでも良かったけど、ここはちゃんとした免許持った医者ですよ、ってのが大事だと思うんだ」


「確かに。良い着眼点です。給料はスポンサーに」


 ぴんぽーん。


「ん」「む」


 さらー、とテルクニ君が襖を開けると、マツさんが、とてとてと早足で玄関に歩いて行きます。


「はーい」


 がらがら……


「失礼します。タナカです」


「あ、冒険者ギルドの」


「はい。いつもユキ様にはお世話になっております」


 もそもそ。

 きっちり名刺を出す辺り、きちんとした社会人ですよね。

 マツさんも綺麗に受け取って、頭を下げます。優雅ですね。


「ご丁寧にありがとうございます。テルクニを宜しくお願い致します」


「こちらこそ。して、テルクニ様はおられますか」


 年上に見えますけど、タナカさんは人族ですから、マツさんやテルクニ君よりも、遥かに年下です。マツさんなんかは4桁歳も後半なんです。秘密ですよ。

 テルクニ君のお祖父様、魔王様は10万年を軽く超えていますので、もう年齢は覚えていません。


「うふふ。もう客間で待っております。タナカさんが来るのが楽しみで。ささ、どうぞ」


「は。では、失礼致します」


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