第11話
ここはテルクニ君の部屋です。
さらり。
がば! とテルクニ君がヘッドホンを外します。
「おおいユキ! 部屋開ける時は声掛けろって言ってるだろ!」
てへぺろ! ユキちゃん、カオルさんと髄分と態度が違うような。
「ごめーん! えちぃゲームでもやってたの?」
「んなのやってる暇はねえ。サムキンだよ」
「ちょっと話があるんだけど」
「ダメだ」
「ちょっーとだけー!」
テルクニ君がヘッドホンを着けて、ディスプレイに向き直ります。
「……終わるまで待ってろ。あと5分くらい」
「んー!」
ユキちゃんが、ぼすん! とベッドに飛び込み、漫画を取ります。
これは何度も読んだ『大都市の狩人』です。
古い漫画ですが、名作です。
幼い頃から傭兵として育てられた主人公が、日輪国の首都ウキョウで探偵とは名ばかりの暴れっぷりをする、ギャグとシリアスが混じった漫画です。
普段はだらしないのに、キメる時はバシっ! とキメる主人公が格好良い!
とても綺麗に描かれていますが、女の人の顔が大体同じで、髪を変えるとほとんど同じキャラになってしまうという事に、最近気付いてしまいました。
「……」
かちかちかち……
テルクニ君のマウスクリック音。
かん! かん! かん!
これはスキルぶっぱ3コンボです。
スキルコンボを入れる時は、思わず強く叩いてしまうんですよね。
ですから、テルクニ君は薄いキーボードではなく、深めのキーボードを使います。
最近は良いキーボードは薄いキーボードばかりなので、ちょっと不満です。
「……っしゃあー……」
報酬はどうでしょうか。今回はカオルさんのキャラの装備を揃えに来ているので、良いのが出たら譲らないといけません。ゴミは分解して素材です。
「んー! くっそ、ゴミしかねえな」
かたかたかたかた……
カオルさん以外の人も参加してるので、チャットでメッセージ入れませんと。
今回はボーナスチケはテルクニ君のを使っているので、文句は言えませんよね。
『Mr.TK :リアルで用事出来たから、少し離席。すぐ戻る予定』
『テキヤのジョー:お花摘みって言って』
『ももちゃん :おk』
ヘッドホンを首に掛け、くるりと椅子を回して、ベッドで漫画を読むユキちゃんに向いて、
「何の用?」
「あのさー、カオルさんって、知り合い?」
「そうだよ。前から。お前は知らんかったのか?」
カオルさんの存在をユキちゃんに知られると面倒なので、マツさんもクレールさんも、今まで秘密にしていたのです。
顎でこき使われて、定年までユキちゃんの下で働かされるに決まっています。
それでは、情報省の仕事が出来なくなりますから……
1エージェントを育てるのに、どれだけの金と時間が必要か。
そんなのは関係ねえ。
ですよね、ユキちゃん。
「知らんかったあー」
「俺はさ、サムキンのギルドのオフ会で会ったのよ。キャラ名、ももちゃんなんだけど、リアルももちゃんでビビったよ」
ももちゃん!
それはZ(SNS)でフォロワー1000万超のスーパーアイドルです!
「更に情報省のカオル=サダマキで、またびっくり」
「それさー、ゲーム仲間に化けて監視してたんじゃないの?」
「んー? 別に良いよ。監視されて困ることないし」
「ネトゲ廃人てバレても良いんだ!」
「良いよ別にー。リアルでもレベルマックスばりに強いしー。勝てないのおじいちゃん(魔王)くらいなんだぜ。魔術なしでも結構いけるし」
「むーん」
「な、それよりさ。お前に聞きたい事あるんだけど。さっき、神が降臨したかも」
「何?」
「お宝見学コースみたいの作った方が良いかな? 蔵の刀とか剣とか、毎月変えて出すの。これ結構良いだろ? 別に戦わなくても、お宝見れるとか」
がば! ユキちゃんが驚いて身を起こしました。
「ナイスアイディアーッ! それ良いかも!」
「っし! それもやるか! 見学料、いくらくらいにするかな? 銀貨1枚くらいで良いと思うか?」
「んー、そのくらいが妥当じゃない? 美術館よりは安くしないとね」
「お宝と別に何本か一緒に出す時はさ、イベント告知とか良くない? 刀剣マニアとか、刀屋とか、骨董屋とか。武術マニア系も来そうじゃない?」
勿論、その間は休みにして、サムキンでネトゲ祭にしようという思惑があります。
「頭良いね! ナイスだと思うよ! 客層、広く掴んでおかないとね!」
「だろ!? そうそう! それと、スポンサーついたのよ」
「は!? もう!?」
さすがにユキちゃんもびっくり。
……という顔を作ってます。実は忍に聞いて知ってます。
「ふふーん」
テルクニ君、ドヤ顔で椅子にもたれます。勿論、ゲーミングチェアです。
「これもカオルさんのお陰かなー」
ぴく。
ユキちゃん、どうもカオルさんの活躍に嫉妬気味なようです。
ないかと思いましたが、やっぱりブラコン気味な所があるんですね。
「ももちゃんのZ見て、オオタケさんが電話してきた。細かい所は、明日、タナカさんが来て相談って感じ。まー、俺は受けるつもり」
「むむむ……」
もう発電所の闇バイトの件は、すっかり忘れられたようです。
せっかく紹介してあげたのに。
「じゃ、俺ゲームに戻る。漫画、読みたきゃ読んでけ。ここでタバコ吸うなよ」
「ちっ」
「外でこっそり吸え」
「そうじゃなくてさ」
「そうじゃないって、何が」
「んー! もう良い!」
すぱーん! 襖を閉めて、ユキちゃんが出て行きました。
どすどす……
乱暴に廊下を歩いて行きます。
「……」
まあ良いか。
くるりと椅子を回して、ゲーム画面に戻ります。
個チャです。
『ももちゃん:何かお怒りですか?』
『Mr.TK:さっぱり分からん。ももちゃんの事、知らなかったからみたい』
『ももちゃん:知らなかったのですか?』
『Mr.TK:母さん達が口止めしてたっしょ。ももちゃん、奴隷上等になるよ』
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そして晩ごはんタイム。
いつも通り、テルクニ君の家族と、りっちー君が座ります。
りっちー君も居候です。
「りっちー。カオルさんね。今日から居候仲間。カオルさんもトミヤス流。言っておくけど、お前より強いぞ。カオルさんは、もう大目録はもらった?」
「いえ。まだ中目録です」
「ちゅーわけ。トミヤス流以外にも色々やってるから、道場に顔出したら、勉強させてもらえよ」
「ははっ! カオル殿、宜しくお願いします!」
ぺこー!
りっちー君、礼儀正しいですね。
師範代のピンチ! とは全く考えません。この中では、まともな武術家です。
尚、カオルさんはニンジャですから、武術家カウントはしません。
「じゃ、母さん」
「はい。いただきます」
「「「いただきまーす」」」
もくもく……
「そいや、カオルさん、他って何やってる? その辺、あんま聞いてないけど」
「そうですね……オガサワラ流鉄砲術、武神練成館合気柔術。古流では、三傅流、オノダ一剣流。七星流もかじっております。軍でも少し」
七星流は、あまり知られてはいませんが、元は国に厳重な監視と保護の付いていた、特殊な武術の流派です。一部だけを公開していますが、カオルさんは公開されていない部分も学んでいるでしょう。
「へえ! 七星流に、軍も! うちにも三傅流と一剣流は少し併伝されてるけど」
「中々、違いを比べるのも面白いですよ。トミヤス流に無いものも多くて」
忍術は秘密です。
おや、りっちー君、箸の進みが遅いですよ。
聞けばガチの武術家にしか聞こえませんよね。ヤバい臭いがぷんぷんします。
りっちー君、あなたも元軍人なんですから、そこはもう少し頑張って!
いや……これは興味津々な顔です。
「だって。りっちー、良い人が来て良かったなー」
「は……若は」
「あはは! 俺は魔術なしでもカオルさんより強いし。なーんちゃって! ま、向こうで暇な時、色々教えてもらうつもりだよ」
「……」
テルクニ君、ユキちゃんがむっすりしてますよ。
「ユキ」
「んん」
「お前、魔術使えるから強いもーん、とか考えてるだろ」
「考えてない」
「ふふふ。お前より強いと思うぞ」
「かーもねー。私は戦って強い弱いとか、興味ないもーん。女の子はモテる方が勝ちだもん! お母さん、そうだよね!」
「うふふ。そうですね」
ユキちゃん、世の中はモテる方が勝ちというのは真実ですが、クソビ◯チにならないように気を付けて下さいね。モテさえすれば寄生虫でも許されちゃいますが、貴族が寄生虫はやめて下さい。
「カオルさん、Zで1000万フォロワーいるぞ。モテるなあ。ところでお前、何人フォロワーいるんだ」
「……」
「俺でも4000人いるぞ。お前、1000人以下じゃねえか」
「お兄ちゃん!」
「クレール母さん、ユキ、レイシクラン一族のくせにZのフォロワー1000人以下だよ。クレール母さんは10万以上いるもんね。そのクレール母さんのリンクから流れてるはずなのに、1000人以下って可哀想だよ」
ぴちぴちなのに、お母さんに負けちゃってるんです。痛いですね。
「くうーっ! もう知らーん!」
「ははははは!」
「おほほほ!」
「あはははは! 毎日投稿するんですよ!」
今日もトミヤス家の晩ごはんは賑やかですね。
カオルさんは縮こまっていますけど。




