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第10話


 一旦、サムライキングダム(ネトゲ)を中断して、カオルさんの部屋に。

 いや、カオルさん、ノートPCを持ってきてるんですから、同じ家にいるのに、別の部屋でやらなくても良いかと思うのですが。


「カオルさーん」


「はい」


 さらり。

 襖を開けると、さ! とカオルさんがAlt+TABで画面を変えます。

 何やら報告書らしい物ですが、それっぽく見えるだけのダミーです。

 テルクニ君にはネトゲをやってるとバレていますが、癖です。


「あのさ、今、オリネオの冒険者ギルドから電話あったんだけど」


「流石に早いですね」


「雑用に何人か送ってくれるって。掃除とかさ。なんならスポンサーも考えて良いみたい」


「ふむ。スポンサーに冒険者ギルドですか」


 カオルさんが顎に手を当てます。

 スポンサーに冒険者ギルド。

 これは悪くない話ではないでしょうか。


 カオルさんの見立てでは、興味本位で来る客はすぐに減ります。

 最初はどかっと収入が入るでしょうが、全く敵わないと人は減ります。

 武術家や格闘家系の配信者が、ちょこちょこ来るくらいに変わるでしょうか。


 その後、主に各国の軍や警察の特殊部隊や、PMC(民間傭兵会社)、あまり口に出してはいけない機関などの訓練に使われるようになるかと思いましたが……


「冒険者ギルドがスポンサーにつけば、冒険者達の訓練場としても、と、こちらから話を出しても良いでしょう。安定した収入が見込めます」


 尚、情報省のスポンサーは、半分以上決定済みです。

 テルクニ君の腕は傭兵時代に証明されていますし、特殊な環境という場所も良く、日輪国情報省のトミヤス流・ブデン流忍術の稽古にはもってこいです。


「あー!」


「冒険者相手でしたら、軍やPMCのようなギスギスした訓練にはならないでしょうし、考えても良いかと思います」


「あ、良いじゃん」


「ただ、仕事になりますので、道場の稽古のように寝てはおられませんが」


「うーん……サムキン(ネトゲ)の時間が減るのか」


 ネトゲの時間が一番大事です。


「冒険者ギルドからの安定収入に+して、各国軍やPMC、警察、各種機関の訓練も入ります。かなり儲けられると思います」


 軍。傭兵。

 もうテルクニ君はその辺りとは関わりたくはないのですが、必ず来ます。

 どちらもテルクニ君の腕は知っているのです。

 金を払えば、プライベートレッスン受け放題なようなものですから。


「んー……」


「冒険者の方は毎日でなくとも良いのです。何曜日だけとか。その日はダンジョンを休みにしても良いです。他の客はスポンサー(冒険者ギルド)の意向でと断ってしまう事が出来ます」


「あー! それいいねー。じゃあ……スポンサー、頼んじゃおうか」


「ホームページは明日で良いですか? 今日は掘り周回がしたいです」


「ホームページ作るんだ」


「予約を取るのに必要です。メールや電話でやり取りは手間がかかりますし……そうそう、あともうひとつ」


「何々?」


「お宝は逐次変えていきましょう。トミヤス家の蔵には、名刀、名剣が大量に眠っていると聞きますが」


「まあね。手入れが面倒だけど」


 これは中々良い案です。

 お宝の見学にも金を取れば良いのです。

 美術館の入場料と同じですから、問題なしです。


「明日はホームページ用の写真を取りに行きましょう。スポンサーのお話は受けては如何でしょうか」


「ん、分かった」


 テルクニ君は着信履歴から、オリネオ冒険者ギルドの電話番号を出して……

 ぷる。

 ぴ。

 ワンコール終わる前に即出ました!


『ハロー!』


「早!」


『オリネオ冒険者ギルド、オオタケ、スピーキン!』


「……トミヤスです。オオタケさん、スポンサーお願いしても良いですか?」


『イエース! ミーから言い出した事ですから!』


「助かります」


『トゥモロー、条件を書類にまとめてセンドします!』


「午後にしてもらって良いですか? 午前中、ダンジョンの方に行かないと」


『オウケーイ! タナカ君を送ります!』


「え、タナカさん!? 副社ですか!?」


『イエース! この話はビッグなビジネスになりそうですから! スポンサー1号はオリネオ冒険者ギルドがゲッツ! それではグッバイ!』


 がちゃ。ぷー。ぷー。


「んー」


 いつ聞いても、オオタケさんの勢いのある方言には、押されてしまいますね。

 でも、テルクニ君は、嫌いではないです。

 お母さん達にも話しておきましょう。



----------



 さらり。


 居間の襖を開けると、マツさんとクレールさんがテルクニ君を見ました。


「まだ喋ってたの」


 女の人のトークって、ずっと続いてる事がありますよね。

 なんであんなに喋れるんでしょうか? 作者は男なので、分からない世界です。


「テルクニ」


「母さん、スポンサーの話がきたよ」


「は!?」「ええーっ!?」


 これにはマツさんもクレールさんもびっくり。

 まだ宣伝を始めてもいないのに!?


「どこ!? どこがスポンサーに!?」


 クレールさん、金が絡んでくると目がぎらぎらしてきますね。


「オリネオの冒険者ギルド」


「むむっ! 中々良いですね! 私の予想では、最初のスポンサーは警察の特殊部隊か情報省かと考えていましたが!」


「でさ。明日、昼過ぎにタナカさんが来るの。ギルドの副社ね。俺とカオルさん、朝からダンジョンの方に行ってるけど、遅れるかもしれないからさ。そしたら、対応頼めるかな」


「はい」

「任せて下さい! サン落雁はありましたか……なかったら今日のうちに注文しておかないと!」


「そうそう、ホルニさんにお医者さん頼んどいたから、こっちも来るかも。俺が居ない時に来たら頼むね。本格的なお医者さんじゃなくて、一応免許持ってるけど、みたいな、研修医的な感じの人だから。でも免許持ってるんだから、あんまビビらせないようにしてね。1週間はかかるって言ってたから、明日はないと思うけど」


「はい」

「順調ですね! マツ様、やっぱり始めてみれば思いの外に上手くいくんですよ」

「そうですね」

「やれば出来るんですよ……」


 わちゃわちゃ……

 またトークが始まりそうです。

 早いうちに退散しましょう。一緒に座って、などと来たら、生返事をしながらただ座っている、という無為な時間を過ごす事になります。


「じゃ」


 テルクニ君は、さー、と襖を閉めてしまいましたが、マツさんもクレールさんも、ちらっと見ただけで、延々と続くトークを始めました。

 これは晩ごはんの準備まで続きそうです。



----------



 そして夕方。


 とっくに仕事は終わっていましたが、オリネオでふらふら遊んでいたユキちゃんが帰ってきました。


(む)


 土間にあるのは女物の靴。

 お客様でしょうか。


 ぱちん!

 指を鳴らすと、門弟姿の忍が、するりと家の裏から出てきました。


「お客様?」


「情報省のカオル=サダマキ殿です」


 ぴく。

 カオル=サダマキ……


「情報省の特級の忍ね」


「はい。テルクニ様のお仕事の手伝いに派遣されてきました」


「派遣?」


「カオル=サダマキの名を襲名した者は、トミヤス家に呼ばれたら、行かねばならないという決まりがございます」


「むむ! お兄ちゃん、考えたね」


 ふ、とレイシクランの忍が笑います。


「社員として使うのではなく、ただ休暇を取らせるのが目的だそうで」


「休暇?」


「カオル殿に休暇はございませんから。有給もあってなきようなものです」


「ふーん……休暇……」


 ユキちゃん、何か不満そうな顔です。

 あ! 意外にブラコンなんですか?


「タダで使える者に休暇なんて……」


 やっぱりそこなんですね。


「まあまあ。それと、スポンサーが決まりました」


「え!? もう!?」


「テルクニ様よりお聞き下さい」


「早いねー……ちょっとびっくりしちゃった。お母さんが宣伝でもしたの?」


「いえ。カオル殿です」


「なるほど。使える者のようね」



----------



 さらり。


 カオルさんの部屋の襖が開きました。

 すたん! とカオルさんがAlt+TABで画面を変えます。

 ヘッドホンは着けていますが、ゲームはバックグラウンドではサウンドが出ないように設定しています。


 す、とヘッドホンを取り、カオルさんが頭を下げました。


「ユキ様でございますね。私、情報省のカオル=サダマキと申します」


「初めまして。ユキです。お兄ちゃんの手伝いしてくれるの?」


「は!」


「ふーん……」


 じろじろ……


「その顔も、所謂、仮の姿?」


「は」


「ふーん……」


 じろじろ……

 じろじろ……


 ユキちゃん、どうしたんですか?


「生の顔、見たいなー」


「それは、いかにトミヤス家のお方とはいえ、ご勘弁を」


「……」


「申し訳もございませぬ」


 ユキちゃん、何か威圧感が凄いですけど、どうしたんですか?


「まあ良いか。使える人みたいだし」


「畏れ入ります」


「ここに住むんだ」


「は。奥方様方のご温情に甘えまして」


「ふーん……ところで、ダンジョンの宣伝したの?」


「は」


「何で?」


「いえ。特に他意はなく。Z(SNS)に上げただけです」


「それだけ?」


「テルクニ様のダンジョンと聞き、皆が驚いてしまっただけかと」


「ふーん……」


 何かユキちゃんが怖いですね。

 どうかしたんですか?


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