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153 過疎の村 前編

「陳情?」

「はい、サウスタウンから20キロほど南に行ったところにある、カソノ村から食料の支援をしてほしいと」

「…最初に確認したい。その名前からしてヤバそうな村と、うちとの関連は?」

「ほぼ、ありませんな」

「おい」


俺は書類片手平然と言ってのけたクシミールに、ついツッコミを入れてしまったが、実際無関係な村が何でうちに陳情して来るんだ? 意味が分からん。


ここで少々補足すると、これまでは店を中心として広がった地域という意味を込めて『街』と呼んでいたナラ公国の首都だけど、町も街も音は同じなので『南町との区別がつけるために、名前を付けて欲しい』と、多数の要望が上がり、首都に名前を付ける事になった。俺は公募を考えていたが、国王が考えるべきと言われてしまい、安直だけど、森という事でフォレストシティーと名付け、ついでに南町をサウスタウンと改めた。


「まあまあ、これには事情がありまして。ケント様からすれば全く、関係ありませんが、あちらからするとそうでもないようなのです」

「どういうことだ?」


相手方が一方的に知っているからと言って、この世界に俺の遠縁の親せきみたいなのは居ない。それとも、毎日テレビでみた芸能人が、相手も自分を知っていると思い込む系か? お人好しの俺(自認)だって、見知らぬ他人に『俺とお前のなかじゃないか、ちょっと助けてくれよ』とか言われたら怒るぞ。


「ご存じの通り、この辺り一帯は、500年前まで魔法王国が納めていました。カソノ村は当時、王国に属していた者が開拓した村のようです」

「それでも俺、魔法王国と関係ないし、国を興してからだって、そいつら挨拶のひとつも無かっただろ」


当然、税は取っていない。

前世の日本にも、払う物も払わず、生活支援を受けようなん輩がいたが、俺の国では認めん。


「挨拶も納税もされていませんが、向こうが言うには『開拓村が挨拶に行くなど恐れ多く、税も取りに来られなかったからだ』と」

「なんだそれ、どう聞いても開き直りにしか聞こえないぞ。…まあ、ここまで聞いたついでだから、詳しい事情も聞かせてくれ」

「はい、経緯としては『サウスタウンへ村の産物を売りに行った若い者が、冒険者に俺はなる!といって、次々に村を離れてしまった。働き手が減り畑仕事も手が足らず、冬越しの薪集めにも影響が出ている。サウスタウン側で移住の禁止か、許可制にして若者を帰るように仕向けて欲しい。ついでに食糧支援もお願いしたい』というのが、大まかな内容です」


「それは、うちが悪いのか? 若者が都会に憧れるとか、上京して一旗揚げてやろうって思うのは、何処の世界でも共通だろ。人口の流出はあちらの責任で、それをうちがどうこうする話じゃないと思うぞ」


山村や農村の過疎化は日本でもあったけど、結局はその村が努力する他なかったはずだ。


「そうですね、そのように伝えておきましょう」


後日


「ケント様、先日のカソノ村ですが、近隣の村を巻き込んで、サウスタウンでデモを行っているようです」

「…この世界では、外国人による政治的な活動はアリなのか?」

「外国人でなくともデモは無しです。デモは高確率で反逆罪や騒乱罪で処罰を受けるのが普通です。外国人ともなれば、背後関係を調べるために、拷問を行うことも普通です」

「マジかあ、俺はやりたくないが、放置も悪手だよなあ。仕方がないからうちに組み込むか」



デモをしていた村の一つへとやってきた。

村の近くには細い川と、小さな森があったが、畑の土地はやせていた。

この川は森から流れてくる川の支流にあたるようで、川の水が涸れる事こそないが、川が氾濫する程の流れでもない。近くにある林が過去に氾濫した土地なのかもしれないが、村で使う木材がどうにか手に入る程度の小さなものだ。



話を裏付けるように畑は荒れ、村人はやせていた。

そしておよそ十代半ばから、二十代前半の若者が少ないようで、ここまでは聞いていた話と同じだな。


「この村の産業は何がある?」

「さ、産業でございますか?それはその…」


おや?


「ケント様、私が代わりましょう」

「あ、うん頼む」


クシミールが村人と話すというので代わってもらった。俺の聞き方に問題があったらしい。


「この村の畑では何を育ておるんかな?」

「畑でございますか、畑では豆と根菜を育てています」


なるほど、ただの村人に産業と言っても通じないのか。

その後クシミールが聞き出した話によれば、村でとれる食料は芋や豆、大根やカブなどの根菜が中心で、その他と言えば森から木の実を採ってくるぐらいで、生きていくにギリギリらしい。

そして、金に換えられるような生産物は無かった。極端な例えをすれば笠地蔵の笠とか、鶴が織っていない反物とか、そんなレベルの産物もなかった。


「食糧支援といっても、返せるのか?」

「難しいでしょうな。それに森は小さく枝打ちした枝や枯れた草などを燃料にしているそうですから、冬を越せるのかどうか」

「もう面倒だから、村丸ごとどこかに移住してもらうか」

「その方向で話してみますか」


「移住ですか、できましたら先祖が開墾したこの地を、捨てずにどうにか」


と言ってもなあ。

むしろ冒険者になると言って、村を出た連中から仕送りしてもらった方が、良いんじゃないか。


他の村も、まあ大体似たようなものだった。

それぞれに最低限の食料を与えて、村を後にした。

どうすっかなあ。



「公王、今年の冬用に、炬燵を20セットとホットカーペットを10個発注するにゃ」

「毎度あり。フラットヒーターで良いですか」

「それでいいにゃ」

「今年は炬燵に引きこもって、国が終わるような事にならないように、気を付けてくださいよ」

「周知徹底の努力はしているにゃけど、今だ炬燵に潜って寝る者がいるにゃ。いっそ、炬燵で炭をつかうことはできにゃいかにゃ」


現在、我がフォレストシティーでは、ソーラーパネルと蓄電システムの導入によって、普通の家庭でも、家電が使用できるまでに、生活水準が向上し、店の家電もよく売れていた。

売れ筋は、LED照明や洗濯機、電子レンジなどで、例外は冷蔵庫だろうな。今年の夏の雪山とつないでからは、販売数が一気に減った。エアコンも同様に大きく売り上げが落ちているが、これは雪山の影響だけではなく、エアコンを多用すると電力的に厳しいことと、立地的に薪や炭に困らないので、冬にエアコンを使う必要がないのだ。自然、エアコンは売れなくなった。そんな中、例外的に売れている暖房家電が、炬燵だったりする。

炬燵は布団や断熱シートを使うことで、エネルギー効率を上げることができるし、俺が好んで使ったせいか、炬燵は好意的に受け入れられていた。


「炭ですか、火が出たりすると、ちょっと危ないですからねえ」

「それもそうにゃ。どんにゃに良い炭でも、絶対に火が上がらにゃい訳がにゃいか」

「火が上がらない炭ですか…。あ、ありますね」

「あるにゃか?」

「ええ、今は無いですが、作れますよ。


原料はうちで用意できる。あとは加工する人員だけど…あ、あの村で作らせるか、作業的には老人でも問題ないから、農閑期に作らせて賃金か、食料を支払えばいいかな。

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