149 これが人の思いの力だ!
戦記物じゃないので(;^_^A
パンパン。
水際に立ち龍雄が手を打ち鳴らす。
すると。
チャポン
小さな波紋と伴い、水面から緑色の物体が姿を現す。
緑のそれはスーッと移動し、龍雄の前まで来ると水中からその全身を現した。
「主様、お呼びですか」
意外にも流暢に話すその生き物は、有体に言って二足で起立する亀だった。
爬虫類独特の皮膚を持ち、甲羅から手足を出した姿は意外にもスラっとしており、腰には短い刃物らしきものが結びつけられている。
目元を隠す覆面は無い。
彼らは水生生物であって、Ninjaではないのだ。
「亀吉か?見ての通り敵の船が動き出した。十分に引き付けてから小さい船の船底に穴をあけてくれ。あのでかいやつは浅瀬に押し上げて座礁させて欲しい、出来るか」
「お安い御用です。フフ主様から頂いたハンドドリルと、ナイフがあれは、容易い事ですよ」
「ドリルは錆びるから後で油…つっても、今回限りで後はもう使わないか」
ナイフはドワーフ製のミスリルナイフだが、ドリルはホームセンターで売っている量産品なので、濡れると普通に錆びる。
「それから、自分は亀吉ではなく亀治です」
「あ、ごめん。まだちょっと君らの見分けがつかなくて」
「やはり、目印として色付きの帯を顔に…」
「それは色々とまずい気がするからやめて」
龍雄はなぜか必至で亀治の言葉を止めた。地球ではないので著作権的には問題ないと思いながらも、やはりどこかで避けてしまうあたり、生真面目な日本人の性なのだろうか。
「それと、船が沈み始めたら、他の奴らにも攻撃許可を出してくれ」
「サメの奴らにもですか?」
「もちろん。ただ味方を攻撃されるとまずいから、こっちの岸には近寄らないように言い聞かせてといてくれ」
「わかりました」
一通りの話が終わると、亀治は川の中に消えていった。
「サメかあ。あれをサメと呼ぶって逆じゃないかなあ」
「大将(足軽大将の意)駄目だ、浸水が止まらねえ」
「なんでもいいから穴に詰めてふさげ!」
「ギャー」
「うわー 何だ、この魔物は!」
主にオーガ族が乗るガレー船が次々と浸水して沈んでいくと、水中から巨大な生物が大口を開けて襲い掛かる。
獲物に食らいついたその生物は、即座に体を回転させて、肉を食いちぎる。
その姿は地球のワニに酷似していた。
ただし、現代の地球に生息するワニの最大サイズをはるかに超える巨体である。
小さなものでも8メートル。大きなものでは10メートルを優に超えるだろうか。
現代に生きるワニなど比較にはならない存在感である。
文字にするならワニではなく、和邇が相応しいだろう。
この和邇や亀は、龍雄が己の爬虫類愛を満たすためにダンジョン機能で生み出した新生物であり、龍雄の眷属ともいうべき種族だった。
当然、ナラ公国の鬼族集落近くに生息していた普通のワニとは全く別の種である。
「く、岸に急げ、水生生物であれば水から上がってしま、ひっ」
「うわあああ」
バギンボリボリ
船のリーダーが慌てて指示を出すが、時すでに遅く巨大な顎が船体ごとリーダーを噛み砕き、船は沈む。
「ぎゃあー」
「がぼっおぼっ」
「く、くるなあああああぎゃあああああ」
そして大量の和邇が群がり、襲われた者たちの血によって、川が赤く染まっていく。
「急げええええ」
それでも一部の者は陸地へと上がることができた。
本来なら和邇は陸地へも上がれるが、龍雄の指示もあり、この戦いでの和邇の役目は水中限定なので、和邇達は川のなかへと戻っていく。
「敵の魔法が来る前に城門へ急げ。一刻も早く突破するぞ」
城門さえ抜ければ、敵も安易に魔法を撃つことはできないだろう。
そう考えて上陸部隊は城門へと殺到する。
だが、彼らを狙う魔法も弓矢も、ただの一発もなかった。
だが。
ドッゴーーーーーン
「なに!!」
上陸部隊のはるか後方で、大きな爆発音が鳴り響く。
そして、その音に紛れるように。
グゴゴゴゴゴ
彼らが目指す城門が、開いていった。
「ゴブウアアアア」
「かめええええええ」
所変わって、ゴブリンの乗る筏である。
オーガの乗るガレーが襲われているように、ゴブリンの筏もまた襲撃を受けていた。
「ゴブゴブウウウウウ」
「かめ~かめ~ はああああああああ」
筏の上で声をあげて威嚇しあう二人だったが、気合と共に亀の繰り出した変形もろ手突きが、見事ゴブリンの胸を打って吹き飛ばした。
断っておくが光線など出ていない。
単なる体術である。
一つの戦いに決着がついたその横では、倒れたゴブリンへと、ひたすら拳を振り下ろす亀の姿があった。ゴブリンはすでに戦意を失っているのだが、でもそんなの関係ねえと。
遅ればせながら言うと、亀たちが身に着ける衣服は、ブーメランパンツでだけである。
水生生物なので当然と言えよう。
まあそんな戦いは例外であり、多くの亀たちは手にしたナイフで筏をばらし、川に落ちたゴブリンへと、次々ナイフを突き立て確実に屠っていた。
「サカキ!いったいどうなっている」
「と、殿、魔物の襲撃です。オーガやゴブリンの船が次々襲われています」
「なに!? 援護…と言っても同士討ちになるだけか。やむを得ん。我らだけでも敵の城を落とすぞ」
「!? しかし」
「この大安宅、日ノ本には200の漕ぎ手と、250の武者がいる。漕ぎ手とて多くはオーガの血を引く者だ、敵の懐に入れば決して勝てぬことはない」
「…わかりました。殿の仰せだ、全速で敵の城へ向かえ」
「よし、砲撃距離に入りしだい全力で撃ち込むのも忘れるな」
「は!」
「……?全速とは言ったが、この船はこれほど早かったか?」
「………………確かに少々早すぎるような?」
………………ズガガガガガガ
突然の衝撃と轟音が船を襲い、サイカは舵輪へと強かに打ち付けられる。
「な! ぐっ」
「殿!」
サカキが慌ててサイカを抱き起すが、折れた舵輪の破片がサイカの肩を貫いている。
「誰か、殿が負傷された、誰か動ける者はおらぬか」
「大変です。船が浅瀬に乗り上げ、完全に座礁しました」
「なに!? いや、それも大事ではあるが今は殿の治療が先だ。急ぎ治療の準備を」
「サカキ!上だ!!
「??……何」
それは、倒れ空を見ていたサイカが最初に気が付いた。
空を進む船、そして眩いばかりの光。
昼の日の光りの中にあってさえ眩いそれは、見る間にも迫りサイカとサカキそして安宅船をも飲み込む。
一瞬の爆音。
そして、静寂。
安宅船とは別の船に居て、直撃を免れた者は周囲を見回すが、耳から感じるのは激痛だけで、音を拾うことはない。
だが、代わりに見えた光景が状況を伝えていた。
安宅船は炎上していた。
上空の一点から数え切れぬほどの魔法が降り注ぎ、安宅船を穿ち破壊し燃やしていく。
音のない世界で、ただ光がきらめき、炎が天を焦がし、川面を赤く染める。
「あぐっ」
不意に感じた痛みに目を向ければ、己の胸に一本の矢が刺さっていた。
いったいどこから?
不思議には思ったのは一瞬の事。
矢羽根から上がる炎を見て理解する。
この矢はあの魔法と共に天から降り注いだのだろう。
さながら天の裁きの様に。
まもなく彼の意識は闇へと溶け消えた。
イルス王国王都中央広場。
王都の目抜き通りに面したその場所には、今、国中の民が集まっていた。
「撃て撃て撃てえええええ」
「おらおらおらおらあああああ」
「魔力の尽きた者は、速やかに移動してください」
「無理はしないで、貴方の思いは確実に敵を穿ちます」
「そこのあなた、掛け声は必要ありません。攻撃が終わったら移動して」
「父さんの仇!」
「息子を返せーーー」
「ドンドン かっ飛ばせー」
「だから、そこのあんた! どけっつってんだろうが。何度も言わせんな!!」
交通整理とは明らかに違う声が上がる中、人々は黒い空間に向かって、自身の放てる魔法や弓矢、果ては石ころなど、とにかく自分にできる精いっぱいの攻撃をしていた。
そしてその攻撃は空間を跳躍し、アドベンチャーギャレ号の下方に開いたゲートから直下に浮かぶ敵旗艦へと降り注ぐ。
敵の首魁を討ち取ったのは、龍雄の配下でもイルス王国の兵でもなく、平凡な民達の怒りだった。




