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148 開戦

お待たせしました

お待ちいただいている方いるかなあ。


とりあえず東大陸の戦争を終結させようと思います。

「お~あいつら頑張ったな、短期間にあれだけ作るとは戦国時代も侮れないね」


堅牢な城壁の上に立ち、 川面に浮か大小様々な船の群れを見て、黒髪の青年が感嘆の声を上げた。


「いや龍雄殿、のんきに感心されておる場合ではありませんぞ」


後ろからかけられた声に龍雄が振り返れば、そこにはイルス王国の軍務大臣が立っており、彼の後方には国王や他の重鎮の姿もあった。


「おや、皆様お揃いでどうされました?先にお話しした通り、この戦は俺たちの勝ちです。ま、若干敵戦力の上方修正が必要ですが、あの船…なんだったっけな?お宅じゃないよな…ま、まあ、あの船一つで戦況が変わることはありませんから、心配無用です」


そう言って、龍雄が指し示すのは全長50m程の軍船。

それはガレオン船の様な洋風船ではなく、かつて日本で製造された安宅船あたけぶねだ。

安宅船とは現代でいえば戦艦に相当する和船で、船の上に天守閣を乗せたような外見をしている。通常推進力は折り畳み式マストによる1枚帆だが、戦闘時はこれを格納し舷側に並んだのみ使用する。

蛇足ではあるが、かいは別の物であることに触れておこう。

舷側に多数の艪を備えた安宅船は、一見するとガレー船のようにも見えるが、使用するのは艪であって櫂ではない。

艪は常に水中にあって、左右に振ることで推進力を得る。

例えるなら艪は魚の動きであり、櫂はバタフライで泳ぐ人の動きだ。

体格に恵まれた西洋人は櫂を最適とし、非力な東洋人は効率の良い艪を好んだのだ。


「いや、あの船だけでは無い。周囲の小型船とて十分な脅威ではないかね?それに、われらにはあのような戦船が無いのだぞ、これでは籠城以外に手がないではないか」


安宅船の周囲には、小型のガレー船が並んでいる。それらの乗り手は皆大柄であるため、オーガ種が乗り込んでいるのだろう。


「いや、それでも万の軍勢を数千に絞れましたし、大半はあの粗末な筏の上ですからね。渡河するのが精いっぱいで戦うどころじゃないはず。川が無ければ万の軍勢が相手だったんですよ、野戦なんてしたら一瞬で壊滅しちゃいますよ、あちらは飛び道具も使いたい放題で、籠城すらいつまでできたやら…って思いません?」

「む、まあそれは確かにそうかもしれんが」

「この城の周りには多少土地がありますから、上陸して来る者もいるでしょう。当然強力な個体が多いと思いますよ?出番はあるんじゃないですかね」


「龍雄殿の言う通りだ。軍務大臣はちと混乱しておるようだが、もう良いだろ?龍雄殿、部下の非礼を許してくれまいか」


二人の会話に割って入ったのは、イルス王国の国王だったが、その肩には何故かキッドが仁王立ちしている。


「あ、陛下…すみません俺も言葉が過ぎました」


「構わぬ。本来、わが国の周囲は広大な平原であった。同程度の戦力で野戦をするには問題ないが、聞けば敵はわれらの魔法が届く遥か先から攻撃可能という。ならばわれらの不利は否めなかっただろう」


イルス王国に何故、龍雄がいるのか?

その原因は、王の肩でどや顔をしていた人物。

つまりキッドが原因であった。

敵軍との戦闘やスパイ活動によって情報を得たキッドは、それをイルス王に伝えた後、独自に味方戦力を集める事にした。

とはいうものの、ナラ公国に参戦を依頼すると、色々と面倒なことが起きそうな予感がしたため、自分の装備の作成や仮の住居にとどめることにし、次に選んだのが龍雄だった。

『龍雄は王じゃないから平気だろうし、いざとなればドラゴンだし』という軽い判断で協力を要請。

すると龍雄は「大群が動けなくて、遠距離武器が使いにくくて、強い個体を封じれば良いんじゃね?」といって、城の周囲を大河に変える策を提案してきたのだ。


キッドにはその提案の意図がよくわからなかったが、陸を川にすると聞いて話に乗った。

キッドの本能が『面白そうだからやれ』と言っていたのだ。

まあ龍雄の本音とすれば、自分が大量虐殺者になりたくなかっただけなのだが。


そして龍雄は地龍の力で都の周囲に窪みを作り、その両端に自身の管理するダンジョンの川につながるゲートを設置した。

こうして川幅10キロ、長さは100キロにも及び大きな川ができ、イルス王国の王都は大河の中州にある孤島となった。


「そう言ってもらえると、大河を作ったかいがありましたよ」

「その製造過程は二度と見たくな、ゴホンゴホンいや、それは置いておくとして、敵がいよいよ動き出したようだが、これからどう対応すればよい?」

「敵の艦隊は俺の部下が『ドンドンドカーン バシャーンバシャーン』おわっ」

突然の轟音に龍雄の声が止まる。


(びっくりしたな~もう。でも予想通りカルバリン砲じゃなかったな)


カルバリン砲が日本で初めて使用されたのは大坂冬の陣の事だが、その最大射程距離は6キロ強、有効射程でも1.8キロとされている。龍雄は敵との交戦内容を聞き出し、敵の使用する火器の射程距離は1キロ未満、そこから推測されるのは豊臣軍が使用していたフランキ砲程度と考えていた。


「龍雄殿」


国王が恐る恐るといった感じで龍雄に声をかける。


「大丈夫です。あの攻撃ならもっと近寄らないと届きません。それに敵は船の扱いにも馴れていない様子。あれでこちらに攻撃を当てようとするなら、こちらの射程内に入ってこなければ難しい。こちらには丈夫な城壁があっても向こうには無い。そして身動きの遅い船です、ただの的と同じですよ」

「おお確かに。ならば敵を引き付け殲滅するのが上策か」

「それについては、俺の部下に一仕事させます。あいつらはもう逃げる事もできませんよ」



一方その頃サイカ軍旗艦、戦艦日ノ本の様子は……


蜂の巣を突いたような騒ぎになっていた。


「先程の暴発で、砲手が一名重傷を負いました。また甲板に居たものが2名、川に落ちました!」

「なんだと!?負傷者の治療を急げ、転落した者は…無事なら周囲の船に救助させよ。今は火災対策の方が急ぎだ」


フランキ砲は弾丸と火薬の詰まったカートリッジを使用するのだが、その装弾部には構造的脆弱さがあり、先の砲撃でフランキ砲の一門が暴発し、辺りに火の粉が飛び散ってしまったのだ。

結果は先の有様だった。


「くそう、われらにはもう余裕がないというのに、どうしてこう次から次へと問題が起こる!」


サカキは吐き捨てるように言った。

イルス王国の都市を陥落させたものの、捕虜には逃げられ、食料にするはずの敵兵の遺体さえも、朝には消えていた。周囲の村を探すが、そこに住民の姿はなく、穀物蔵には一粒の麦もなかった。せめて豆の一粒でもと、畑を確認するが、豆どころか雑草ひとつ生えていなかった。

進軍の道中で食料調達の部隊をだせば、件の空賊が現れ邪魔をされて食料調達に失敗する有様だった。

そうしてサイカ軍は、深刻な食糧不足に陥った。

人族に近しいものは自制ができたが、低級のゴブリンは空腹に耐えかねて、目の前の餌に飛びつくものが現れた。


ゴブリン種の共食いである。


流石に上位存在に手を出す者は無かったが、ゴブリン同士の共食いは際限なく広がっていき、その半数以上を失うことになった。

死亡したゴブリンは中位の者たちが食べ、まともな食糧を上位存在で分け合いながら、どうにか進軍してくれば、大河の中州に都市があるというあり得ない状況だった。


実のところ、共食いは思考力を奪う。

このまま共食いが続けば、中位のオーガ種も思考力を失い凶暴なだけの上位魔物となるだろう。そうなればもはや軍を維持する事などできはしない。

すぐさま軍総出で船を作り、渡河の準備を始めたが、どれほど魔法を駆使して急いでも、全軍を運ぶ船を作るには時間と食料が足りない。

半分魔物という軍の統制を保つには、食料と程よい戦と何よりも強者であることを、全軍に示し続けなければならない。

負けはもちろん失策を続ければ、あっさり反乱がおき下剋上へとつながるだろう。

外敵との戦いが無ければ、群れの強者と戦い、己の力を誇示しようとする者もあらわれる。

もはや猶予は無かった。

どうにか主力部隊を乗せられる数の船ができた時、サイカ軍は統制の取れなくなったゴブリンから逃れるように大河へと船を出したのだ。


(いざとなれば、旗艦の乗員と一部の高位オーガだけで、軍を再編する手もあるが、それも殿の判断しだいか)


風呂敷はたたんで使えるから便利。


あ、川作りは地龍さんによる、ストンピングというか謎のダンス的な転圧作業が初めに行われました。

当然イルス王国の人はそれを目にしたわけで、害がないと知りつつも恐怖は感じていたようです。

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