147 名前繋がり
時は流れて…
「できたぞ」
「朝早くからいったい何だ」
ある日の早朝、ドルトンが俺の家を尋ねてきて、唐突に『できた』という。
一体何ができたというのか……あれ?以前にもこんな流れがあったような?
「できたといえば、あの小人族用の魔導甲冑に決まっておろうが。わしらに依頼したまま、3月以上も放置しおって。全くもうおぬしは……」
あれ?3か月も経っていたか?
「なにか時の流れが、おかしい気がしないか」
「何を言うか、わしらに依頼してきたのは昨年の事で、今はもう春なのだぞ」
「あ~言われてみれば。いや、正月あけてからドタバタしていたから忘れていたな。すまなかった」
それもこれも、キッドの奴が急に『ダンジョンの町を貸せ』と、言い出したからだ。
確かに利用頻度は少ないが、ダンジョン内にある複製都市は緊急時の避難場所だし、基本的に地上の家と同じものだから、暗黙の了解で持ち主も決まっている。
だが、キッドの奴はまるで駄々っ子の様に、貸して貸してと騒ぎ目的を尋ねても、今は言えないという。その後、キッドの要望に対する落としどころとして、大量のコンテナハウスを都合することで落ち着いたのだが、あいつがコンテナハウスを何に使ったかは、今も謎のままだ。
「で、完成したゴーレムというか、人サイズ機動甲冑は、もう動かしてみたのか?」
「これから起動テストを行うつもりじゃから、こうして呼びに来たのじゃ」
「わかった、見学させてもらう」
「それで、テストはキッドがするのか?
「いや、テストパイロットはシデンに人選を頼んだ。キッドにやらせたら何をしでかすかわからんからな」
「もっともな意見だな。ところで、なぜこんな場所で試験をするんだ」
今俺たちがいるのは店の地下ダンジョンの地下4階。
広大な自然……といってもダンジョン内なので、自然と言って良いものかわからないが、俗に言うフィールド型ダンジョンというやつで、草原やら森やらがあって、ダンジョン魔物が勝手気ままに暮らしている場所だ。
「戦闘を含めた動作試験をしようと思って、奴に試作甲冑の相手を頼んである」
そう言ってドルトンが、すっと腕をあげて指をさした先には、見慣れぬリザードマンが一人。
「誰だ?」
「おぬしと同郷のドラゴンじゃ」
「あれ、龍雄なのか?」
距離が離れているので顔まではわからないが、ごつい鱗に覆われた体の人物は龍雄らしい。
俗にいうドラゴニュート……というよりは、羽の無いタンバリンのような感じだな。
本人には言えないが、いまいち格好良くない気がする。
そうして俺が龍雄を見つめていると。
ドン、ドンドンドン
突然、砲撃の様な轟音が鳴り響き、龍雄が炎に包まれた。
「お、おいドルトン」
「心配はいらん唯の火弾じゃ。口惜しいがドラゴンの皮膚にはやけど一つ負わせられん。それより、本題は炎弾を撃ち出しているあの甲冑じゃ」
唯の炎弾て、普通は十分大ごとなのだけど、まあ龍雄だし心配は要らないか。そうして納得した俺はドルトンが顎をしゃくって示した方向に目を向ける。
「……赤い鎧の奴が、両肩に乗せた砲身から、炎弾を撃っているな」
遠目なので細部はよくわからないが、割と重層甲で太めというか骨太な感じの、デザインをした赤い甲冑に見える。
「うむ、中距離支援用に開発した量産型魔導甲冑で、シデンが乗っておる。現在は小人族用だが砲撃パーツは他にも転用できるから、いずれは人族用の鎧にも装備して強力な砲撃部隊を作れるじゃろう」
「えーと、俺の認識だとキッド用の甲冑を作る話だったはずだが?」
「おぬしが捕まらんから、ドラゴン殿に相談させてもらった。おぬしと同郷だけあって、実に良い話を聞けたぞ」
あの野郎、ドルトンに余計な知識を入れやがったな。
あの赤い甲冑、絶対に某宇宙世紀のパクリだろ、名前か?シデンの名前から思いついたのか?だとすれば…。
「まさか、本命の甲冑は白いのか?白い悪魔なのか?」
「白い悪魔?ああ、それは二号機じゃな。これから出てくる一号機も赤いぞ」
「やっぱり白いのもあるんだ。しかしそれと別に、あれと同じような色のが他にか?そうすると、もしかして三倍の速度で動いて頭に角があるとかか?」
俺は、シデンが乗るというガンキャ…いや、中距離支援甲冑を指さし問うた。
「うむ、色はよく似ているし角もあるな。それに、あれは機動性最優先に設計したから、三倍かどうかは知らんが、確かにかなり早い」
「へ、へえ」
となるとそれは、シ〇ア専用がモチーフ……。
「噂をすれば何とやら、来たぞ」
目を向ければ、龍雄に向かって真っ赤な鎧が、猛スピードで走って行くのが見えた。
そして武装だが、こちらは斧の様な物を振るって切りかかっている。
また、今は使っていないが、大口径の銃というかバズーカーの様な物も、装備している。
やっぱりシ〇ア専用だな。
「ところで、さっきの炎弾を撃ちだす大砲や、あの甲冑が持っているバズーカーとか、いつの間に重火器を開発したんだ?」
「重火器がなにかは知らんが、あれは魔法を自動で撃ちだす魔道具じゃぞ。多少手を加えはしたが、基本的には鬼族の村の地下遺跡から回収した物と、大きく変わりはせんぞ」
あ~そういえば、火の玉を撃ちだすワンドとかあったな。
「あれ、ドルトンが管理していたのか」
「そうじゃが、まさか知らなかったのか?それは国防意識が、ちーと欠けとりゃせんか」
言われてみれば、危険な武器の所在どころか、その存在すら忘れていたのは、問題があったかもしれない。
だが。
「その危険な武器を友好的とは言え、厳密にはうちの国民でもないキッド一味に与えようというのはどうなんだ?」
「それは、問題ない。何かあったらこの世界最強の生物が、本気でつぶすと言っていたからな」
「やらかした後に絞めても後の祭りだぞ」
「皆殺し覚悟でやらかす気概があれば、そうなるな」
う~ん微妙なところだが、流石に自分たちの命がかかっていれば、自制はできるか。
「わかった。その辺は龍雄の抑止力に期待しよう。ところで、あんなスピードで走っていたら、振動で中の人がどうにかなってしまわないか?」
俺たちが話している間も、赤い高機動魔導甲冑と龍雄の激戦は続いている。
龍雄は手加減しているようだけど、搭乗者は恐らく全力で倒しにかかっているのだろう。そうでなければ、一見して激戦と思えるほどにはならないはずだ。しかし、以前地球で聞いた話では、巨大なロボに人が乗った場合、歩く振動だけでも体が持たないというし、近未来の警察を描いた漫画でも、8m程度のパト…人型メカを、乗り心地最悪と評していた。
「乗っておるのは、かつて“森の赤き雷光”と恐れられた、ランデン長老じゃから、問題ないじゃろ。それにあれは走っているのではなく、低空を飛んでいるのじゃし」
「は?なにその二つ名。俺は初耳だけど。あと飛んでいるってなにさ」
サイズこそ小さいけど、飛び回る戦闘用魔導甲冑って、もう完全にアニメの世界じゃねえか。
「おっと、余計なことを言ってしまったようじゃな。口にしておいて何じゃが、これ以上は長老のプライベートな話じゃから、わしが勝手に言いふらすわけにはいかん。今言ったことは忘れてくれ」
長老はキッドに向かって飛び蹴りかますし、バトル漫画みたいな殴り合いもしていたから、実は武闘派だったと言われても納得できる。
むしろ俺が気になったのは、鎧の方。
知らないうちに随分と格好いいものを作っているじゃないか。
「わかった、聞かなかったことにする。で、飛んでいるというのは?それと、あの二つの甲冑は龍雄の入れ知恵だろうけど、俺たちサイズは作れるのか?それに、あの作品の主役級の奴は、白いのと別の赤い奴だろ」
「質問ばかりじゃな。まあいいじゃろ、順に説明するとあの甲冑には浮遊石が仕込んであって、乗り込んだ者が手足を動かすかの如く、浮力とエア・スラスターを操り自在に空中を移動できるのじゃ。その制御装置の魔法陣までは、わしは知らん。作ったのはステラ姫じゃから、詳しくはステラ姫に聞いてくれ。それと、人族サイズについてだが、墜落や戦闘時の衝撃に、人族では耐えられんぞ。機体は無事でも搭乗員は挽肉という事もあり得る。デザインの選考は、名前繋がりじゃったので、白いのと赤っぽい奴は予定しとらん。それにあれは赤なのか?わしにはピンクに見えたのじゃが」
「『赤い』だから赤だろ。ちなみに今戦っている奴は『真紅』だな。その辺は俺たちが突っ込むべき話ではないから忘れろ。衝撃については、デザインと大きさ次第でどうにかできそうだから、後で相談させてくれ。それとステラの姿が見えないが今日はどうした?」
「ステラ姫は自分の専用機を作るといって、それにかかりっきりじゃ」
「……名前繋がりか?」
「うむ。でかい黒猫の様なデザインじゃった」
なるほど。
「それで、キッドに頼まれたのはどうなったんだ?あれは皆それぞれの専用機みたいなもんだろ?
「当初、キッドにも名前繋がりのデザインを見せたんじゃが、他のと比べて格好悪すぎるといって、却下された。仕方なしに長老が乗っている魔導甲冑の外装だけ、別のデザインに変えたものを納品する予定じゃ。キッド用のデザインがこれで、初期デザインはこれじゃよ」
うん。この名前繋がりは絶対受け入れないね。
そして、もう一方もどこかで見たような、重戦…いや白い奴だった。
キッドと言えば、ほーらあのキャラですよ。
あのシリーズにはメカニックや政治家はいたけど、パイロットのキッドやウイリアムは居なかった。




