142 搭乗型甲冑
「それで、あちきににゃんのようにゃ」
ステラがふてくされたように言った。
「何の用って、モフりに来たとでも、言うと思ったか」
「モフ!?ひ昼間からにゃにを、言っているにゃ」
ステラは何やら狼狽している。
あ、いかん。一見でかい猫だが、ケット・シーは人と同等の妖精種族、しかもステラは女性なので、モフりに来たと言えば、問答無用でセクハラ発言だった。
「いや、単なる言葉のアヤで、モフる気は全くないから安心して良いぞ」
「そこまではっきり否定されると複雑にゃ」
健人は猫好きだが、それは愛玩動物としてであり、人と同等の生物を撫で回すつもりはなかったし、ケモナーでも無いのでケット・シーを、そうした対象としていないのは当然なのだ。
「ゴーレムの研究はどうなっている」
「ゴーレムにゃ?体の仕組みや、手足を動かす仕組みまでは、わかったにゃけど、自立行動させる仕組みが、分からにゃいのにゃ」
「自立行動?具体的には?」
「ゴーレムが独自の判断で、行動するための仕組みにゃ。マスター登録さえすれば、ある程度の命令は聞くにゃけど、例えば歩けや走れの命令を出したにゃら、停止命令を出すまで、命令に従うにゃ。にゃけど、途中に壁や崖、あるいは海やマグマの川があっても、それを理解する機能がにゃいから、無理でも歩き続けようとするのにゃ」
なるほど。つまり指示がなければただ歩くだけの、犬のぬいぐるみと似たようなものか。
「それは、そのつど命令すれば、その通りに動くということか?」
「ある程度は可能にゃ。でも前に向かって進んでいる時に、急にバックできにゃいように、指示を出しても無理にゃ事は、あるにゃよ」
なるほど、だがそれは問題ない。
「よし、ならばそのゴーレム技術を、ちょっと貸してもらおうか」
「にゃ?」
キッドが俺に制作依頼した物は、キッドが着込む金属製の、鎧のようなものだった。
キッドの考えとしては、自重が増せばその分、剣を大きくできるだろうという事らしい。
だが、重量を増すための鎧と言っても、キッドの体格で着られる鎧の重量は、数キロが限度だ。まあ、純金であればそれなりの重さになるかも知れないが、金は金属の中でも特に柔らかいので、聖○士以外が鎧にしても、防具としての意味を成さないだろう。
つまり、十分な重さにするならば、大きさも変える必要があるのだが、それはもはや鎧ではなく、パワードスーツではなかろうか。
俺は、ロボット的な構造の、パワードスーツの作り方など知らないが、幸いにもこの世界には、ゴーレムという未知の技術があるので、それを利用するために、ステラを訪ねてきたのだ。
「基本的には、外骨格で人の動きに合わせて動く、このような機構を使って人に近いサイズまで、小人種の体を拡大する」
俺が見せたのは、スケ○ト○クスという有名な人力ロボットの動画だ。
「ほう、これは動力に何を使っておるんじゃ?」
ドルトンが動画を見ながら、質問してくる。
何だ、今ひとつ食いつきが悪いな。もしかしてSF映画の作り物とでも思っているのかな?
「いや、これは人力で動く物だぞ。指を動作させる部分にだけ、モータや電力を使っているけど、歩行や腕の動きなど人の動きに合わせて、機械的に処理されているんだ。だからほら、乗った人が腕を動かせば同じように機械が動く。これはそう見える映像ではなくて、本当に人が乗って動かしている機械だからな」
「なんじゃと!?」
ドルトンは叫ぶと同時に、画面に張り付いてその構造を、見極めようとする。
いや、その動画じゃわからないと思うよ。
「先に言っておくが、今回はこれのように人体とロボットが完全にリンクした物を、目指すわけじゃないぞ」
「何故じゃ?」
「今回作るのは、キッドの求める戦闘用だ。戦闘用なのに完全リンクしたら、キッドの体がもたないだろ」
人が剣を振る場合、持ち上げて振り下ろす力と、それを止める力が必要だ。剣を装備した金属の腕を操るのは、キッドへの負担が大きすぎるし、もしロボットの四肢にキッドの体の可動域を超える力が加わったら大変なことになってしまう。
「ならワシは何をすればいいんじゃ?」
「何って鎧というか、この機械のボディーやらなんやらを、作ってくれよ」
「それくらいケット・シーの姫子でもできるじゃろ。実際そこに試作品があるようじゃし。それで強度が足りなんだら、ドワーフの鍛冶屋が鍛えた鎧と剣を、着せたらええじゃろ」
は?
おい、急にどうした?
「一体どうしたんだ、ドルトンらしくないぞ。世界に名を轟かせる超一流の鍛冶屋になるんじゃなかったのか?もしかして、体の具合でも悪いのか?ステラの案山子に鎧着せたって戦えるわけ無いだろう」
「あれは、動作試験用の試作機にゃ。カカシじゃないにゃ」
あのピ○キオの出来損ないの様な、カカシ人形が試作機?どうやって試験したんだ?
「体が悪いとか、そんなわけあるか。ワシは今でも最高の鍛冶屋として、歴史に名を刻むつもりじゃ。だがな、ワシは………ワシは飽きたんじゃ。ただ丈夫な鎧だの、何でも切れる剣だのに、興味がなくなったんじゃ。あの時、そう自転車を見たあの時、ワシの価値観は変わったんじゃ。鎧や剣は身を守り外敵を退けるには必要じゃよ、それは今も変わらずそう思っとる。じゃがワシは、この街の平和な暮らしの中で、思うんじゃ。新しい時代に必要とされる、鍛冶屋はどんな鍛冶屋じゃろうかとな。最高の鍛冶屋は技術だけでは駄目じゃ、それを欲する者があってこそ、鍛冶の技術は生きるんじゃ。そしてそれは、万人に愛されるものでなければいかんのじゃ」
「………………本音は?対価になんの情報が欲しいんだ?」
前にも新しい制作物の情報や、ミニショベルの低教を喜んでたんだよな。
「本音とはなんじゃ、失礼な。ワシはいつでも本気じゃし、先の言葉に嘘はないぞ」
「じゃあ、今回作る物を活かして、建設用や作業用重機を作るのはどうだ?操縦者とのリンク機構には、ステラのゴーレム技術が使うが、人を模した体は精密部品の集合体だ、手足の動きを機械で作るんだぞ、ショベルカーのアームとは次元が違うんだぞ?それでも、どうしても嫌なら、王命で海底探索用の潜『分かった、この一件引き受けよう』水……………やってくれるか?」
「うむ、精密かつ頑強な人形を作ってみせよう」
「あ、一応人形ではなく、パワードスーツということにしておいてくれ」
多分その方が、キッドのウケがいい筈だ。
一方遠い東の地では。
「殿、装甲砲撃車が到着しました」
占領したウエルスの城に、設けられたサイカの私室へと、サカキが報告に来ていた。
「やっと着いたか」
装甲砲撃車、それはスズキ軍の誇る、大型兵器。
それは、仕寄車という兵員移動用の箱車を改良した、自走砲とも言うべき物だ。
仕寄車の構造を簡単に説明するならば、幼い頃に遊んだ電車ごっこを、イメージして欲しい。仕寄車は電車ごっこのロープやダンボール箱を、車輪付きの丈夫な箱に置き換えて、矢や弾丸から守りながら、敵陣に接近する道具だ。
残念ながら動力はないので、箱の中に入っている兵が自ら箱を押して、移動する必要がある点が欠点だろう。
その仕寄車に、大型大砲を乗せた物が装甲砲撃車と呼ばれているものだ。
スズキ軍はウエルス軍との野戦に際し、最初にこの大型大砲を用いた。それは従来の遠距離攻撃の射程300メートルを遥かに上回る、射程1キロメートル以上という遠方からの、一方的な蹂躙という大戦果となった。
だが、スズキ軍にとって、想定外だったのは、大型大砲の砲弾が着弾した戦場が、その威力によって地形まで変わってしまったことだ。これまでにも、幾度となく試射をしていたが、戦場で一定範囲に連続して撃ち込んだ場合の影響までは、把握できていなかった。
結果として、凹凸だらけとなった戦場を、装甲砲撃車は通ることが出来ず、しかし整地で魔力を無駄にするのも下策であるため、戦闘終了後の移動となってようやくウエルスに、たどり着いたのだ。
「大砲、車共に破損はありませんが、車を運んだ小鬼の部隊は、数日動けないものと思われます」
「元々多数の大鬼で、運んでいたものじゃからな。まあ、仕方があるまい。だが、今後もあれを使うし量産の後、複数台を戦場に投入するつもりじゃ。次回使用するまでには、しばしの時間が必要とされるが、それまでに運用方法の見直しをせよ」
「は、心得ました」
「それから、追撃に出した部隊が遭遇したという、小さき者たちは、本当にこの街の関係者ではないのか」
「はい。部隊指揮官の話によれば、巨大な鳥に乗った小さき者たちの一団であったと。そして、通りすがりに因縁をつけ、去り際には捨て台詞を残すような、ならず者の小者たちであったとの事でございます」
「ふむ、大鬼にならず者呼ばわりされる、小さき小者が居るとは。この現世らしいと言うべきか、世も末と言うべきか、ちと判断に苦しむのう」
「ハハハ、左様でございますな」




