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139 キッド探検隊

「船長、この先に人や荷車の列が見える。たぶん避難民だよ」


ギャレー号の甲板に座り、望遠鏡を手に前方を監視していた少女が、キャプテン・キッドことウイリアム・リリパット船長に声をかける。


「敵の軍隊って事は、無いか?」


キッドが頭上を見上げながら確認する。


「ううん。女性や子供らしい人が多いし、歩き方も隊列って感じじゃないから、軍隊じゃないと思うよ」


甲板に座る少女、ブラウニーのノルンが答える。

一般的にブラウニーは、家に付き家人のために、家を管理する妖精と言われ、身長は1メートル足らずの女児のような外見をしている。

日本でいえば、座敷わらしが近いだろうか。

だが、船長のキッドはリリパットであり、身長20センチにも満たない小人のため、二人の姿だけを見れば、人と巨人のようにも見える。


「よし、そんじゃ避難民に接触するか」


旧友からの頼みは、城郭都市ウエルスとそこを追われた避難民の確認だ。


「街の方はどうしやす?」


副船長であるデニスが、キッドに確認する。

デニスはキッドと同程度の身長だが、40絡みで黒色短髪の精悍な男だ。

キッドと出会う前は、傭兵をしていたというだけあって、二人が並ぶとデニスの方が貫禄がある。






どこの傭兵でどんな戦闘をしていたのかは、謎だが。


「そうだな、そっちも急いで確認しなきゃだから、隼を飛ばすか」


(ハヤブサ)は八咫烏の姉妹機の一つで、八咫烏よりも小型で速度を出せる仕様になっている。

日本人なら『隼とカラスなら、カラスの方が小さくね?』と、思うかもしれない。

実際、ハシブトガラスであれば、隼より一回り小さいが、八咫烏の『やた』には大きいという意味がある。

八咫烏は、単に三本足のカラスというわけではなく、神鳥にたる姿をした偉大なカラスなので、隼の方が小さいのも当然だ。


「了解。そんじゃ隼を出しまさあ。あ、ついでに雀もつけますかい?」

「そうだな、雀なら街に降りてもバレねえな」

「そんじゃ、避難民の方は俺が行って、先に話をつけておきまさぁ」


そう言ってデニスは、背中にトンボのような4枚の翅を広げ、避難民に向かって高速で飛んで行った。

デニスは精悍かつ渋めの、おっさんフェアリーである。

なりが小さく、ファンタジーの代表の様なフェアリーではあるが、見目の良い少女しか居ないなどという事はなく、リリパット同様おっさんも爺さんも存在する。

もちろん婆さんも。

そして、デニスの服装はベストとズボンに剣帯といった、独特の出で立ちをしており、地球風にいえばカリブの海族が近いだろう。

決してレオタード姿ではない。

ましてや、オーラなどとは無縁である。

まあ、種族特性として若干ファンシーな魔法が使えるが、それも斜め上の方向で極めているため、色々とチグハグな存在ではある。



「では、けが人は居ないのか」


キャプテン・キッド一行は避難民の一団に接触し、代表者から状況を聞いていた。

この場にいるのはキッドとデニスだけで、アドベンチャー・ギャレー号と他の船員は、避難民の最後尾にて敵軍の追撃を警戒している。避難民はギャレー号から水や食料の支援を受け、各々休憩をして足を休めている。


「はい、我らは籠城戦と同時に、住民を連れて都市の脱出口から、敵軍の反対側に抜けて、迂回しながら王都を目指しました。急な避難で転んだなどの軽傷や、靴ずれなどはありますが、敵の攻撃によって負傷した者は居ません。ですが、我々の後に脱出した者があれば、無傷ではないでしょう」

「そうか。いや待て、普通は籠城してすぐに脱出するか?逃げるのが早すぎないか」


避難民の護衛を努めていた兵士の隊長から、脱出時の状況を聞いていたデニスだったが、どうにも脱出の判断が早すぎるように思えた。


「ええ、普通はそうでしょうけど、敵があまりに異質で数も多く、通常の籠城戦と同じように考えるのは危険と、領主様が判断なされたからです」

「異質とは?」

「敵は統率されたゴブリンやオークにオーガの群れで、揃いの鎧を身にまとい見知らぬ武器を使って攻め立てて来ました」


鎧を身に着けた、ゴブリンが居ないわけではないが、その多くは人種から奪った革鎧を、無理に着こんでいるかんじなので、オークやオーガのように、一般的な人種と異なる体型をした者までが、揃いの鎧をつける事は有り得ないし、その上未知の武器を持っているなど、想像のらち外であろう。


そうして、聞き取りをしていた時。


「キャプテン、敵の追撃が迫ってます」


デニスでは無い別のフェアリーが、高速で飛翔して来てそう言った。

幸い、周囲に民間人は居なかったので、パニックは起きていないが、兵士たちには緊張が走る。

キッドは腰に結んだ魔法の袋から、スマホを引き出し抱えると、急ぎノルンへと電話をかけた。

小人ばかりのギャレー号にあって、ノルンは魔法の袋に入れることなく、常時スマホを携帯できる数少ない存在だ。


「俺だ、船に戻りたい。ゲートを開いてくれ」


電話を切ると直ぐにゲートが開いた。


「俺たちが、追撃を止める。王都に急いでくれ」


護衛の兵士に先を促し、ゲートを潜って船に戻ると、周囲を見回しながら指示を発する。


「俺たちは下の奴らを足止めする。ノルンは船で避難民の護衛だ。ドルガメ、背を借りるぞ」

「はい」

『最近運動不足だったが、久しぶりに体を動かせるようだな』


キッドの言葉を受けてノルンが返事をする。

ブラウニーであるノルンは、その種族特性で船を掌握し、一人で操船と武器操作ができる。

余談ではあるが、家人を失って一人きりになったブラウニーは、寂しさのあまり精神を病み狂い、ポルターガイストと呼ばれる現象を、おこすと言われている。時折、船員のいないボロボロの船が、大海で目撃されるのは、狂ったブラウニーが、家人である船員を探して、さ迷っているのかもしれない。


一方、空亀のドルガメも念話で応じて、腕を振り上げるかのごとく、ヒレを動かし大きな尻尾を揺らす。

元々は普通のウミガメであったドルガメだが、浮遊石の混じった砂浜で生活するうちに、飛行能力を持つ亀に進化し、キャプテン・キッド探検隊に出会って、仲間になった。

以前のギャレー号は、ガレオン船に似た船その物の形状であり、空に浮かぶのも移動をするのも、船員の魔法と魔力頼みで、その移動能力は高くなかった。

ドルガメはそんなギャレー号の牽引役だったが、ギャレー号の改修に伴い、牽引役を解かれた現在の彼は、舟に吊られて惰眠を貪る怠惰な日々を過ごしていた。

だが戦闘となれば、船員を背に載せて移動する、上陸用舟艇(じょうりくようしゅうてい)にして戦闘員という立派な役割があった。

キッドと仲間たちは、ドルガメの甲羅に据え付けられた甲板に乗り込み、眼下の敵軍へと向った。



「お〜〜い、そこの間抜けずらしたゴブリンと馬鹿そうなオーガ、ずいぶん物騒な格好してるが、おめえら何処に行くんだ」


空亀の背から、ゴブリンとオーガに向かって叫ぶ。

キッドはイルス王と友人ではあるが、イルス王国の民でも部下でもないし、避難民を追っているゴブリンたちと、敵対しているわけではない。もちろんゴブリンやオーガと遭遇した場合、戦闘になることは少なくないが、地をゆく軍隊に対して通りすがりの空飛ぶ一団が、いきなり攻撃をするのは不自然だったので、偶然出会ったふりをして話しかけた。


キッドの声かけに反応したのは、先頭近くに居たオーガだった。


「あ?…どこ…おお!でけえな鳥か?だが、上から偉そうに何こいてんだ。食ってやるから降りてこいや」

「鳥じゃねえよ!つか、食われるなら降りるかよボケ」


キッドはオーガから見えるように、ドルガメの背から頭に移動して、下に向かって叫ぶ。

偶然出会ったが、軍隊側が先に手を出したなら、敵対するに十分な理由ができる。それならば、イルス王国とは無関係な第三勢力として、敵の目を逸らすことができるとキッドは考えて、オーガを煽りることにした。


「何だチビ、てめえデカイ鳥に乗って強くなったつもりか?今すぐ降りてその鳥よこせ。んで、てめえは俺の腹に収まれ」

「おいおい、こいつは鳥じゃねえっつてんだろ、馬鹿オーガ。略してバカーガ。この空亀は俺らの仲間だぞ、その仲間をよこせとか言われて、従うと思ってんのか?その上俺を食うだと、あんまふざけたこと言ってると、泣かすぞバカーガ」

「いや、オーガってこんなに饒舌だったか?むしろこいつ、オーガにしては賢くね?」


デニスが、キッドの言葉に突っ込む。

デニスはオーガの言葉に、疑問を持ったようだ。


「いいから、降りてこい。その鳥は俺が乗ってやるから、お前は俺に食われろ」

「だから鳥じゃねえんだよ」

「うるせえ、チビがグダグダ生意気言ってんじゃねえ!」


オーガは手近にあったものを掴んで、空亀にむかって投げた。


「!? グギャーーーーー」


いきなり投げられたゴブリンが、悲愴な声を上げた。


が。


べチン


投げつけられたゴブリンを、ドルガメがヒレであっさり叩き落とした。

大型トラックにも匹敵する空亀は、草食獣であってもそれなりに強いのだ。


「ギャヒン」


叩き落とされたゴブリンは、更にオーガに弾き飛ばされて、数メートル飛んでいった後、地を転がって動かなくなった。


「あ、バカーガてめえ、口で勝てねえからって、手出したな。俺達と殺ろうってか?上等だ、ちっこいからってなめんなよ」


叫んでキッドが火球を放つ。



「効かん!」

「グワッ!?」


再び手近なゴブリンを掴んで引き寄せ、火球の盾に使うオーガ。

この場に健人が居れば、ゴブリンバリア!?と声を上げた事だろう。


「くっそ、このオーガできるぞ」

「そうか?ある意味、船長も同レベルじゃねぇですかい」


煽るはずがいつの間にか、本気になっているキッドに、呆れるデニス。


「おい、ゴブリン共、あれを落とせ!」


そして戦闘が始まった。


リリパット族の姓は皆リリパットです。


どうでもよい豆知識

亀の尾は、雄は大きく雌は小さい。

何故なら、雄の尾にはもうひとつの、頭が収納されているからだ。


どういう事?と思われたお子様は、ネットで検索してください。

お母さんには聞かないでね。



まあ、そんな子供は読んでないだろうけど…。

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