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137 冒険号、発進


城壁内の通りでは、侵攻するゴブリンたちと、それを迎え撃つ兵士の攻防が繰り広げられていた。


「薄汚いゴブリンどもめ、ここは貴様らの来る場所じゃないぞ!」


若い兵士が魔力を込めた弓を放ち、魔法を放とうとしていたゴブリンの頭を、兜ごと射抜いた。

ゴブリン一体は、声もなく崩れたが多勢に無勢、焼け石に水どころか溶岩に水滴を垂らしたようなものだろう。

何故なら、道を埋め尽くしそうなゴブリンのうちの、たった一体を倒しただけなのだ。



この戦いは、最初に野戦が行われた。

侵攻軍は、数こそ多いが魔法を使えぬ人族の軍なら、遠方から魔法を使えばある程度敵を減らせるし、魔物の群れや下等なゴブリンであれば、自分たちが負けるはずがない。

ウエルス側はそう考えていた。

何故ならウエルス、いやイルス王国は、別の世界からこの地に引き抜かれた魔法に長けた人類種族と、武に長けた別の人族との混血によって生まれた国で、国民の多くは優れた身体能力と、魔法適性を有していたからだ。異なる種族の二人が、どこかのラノベのように冒険し、苦難を乗り越え仲間と共に興した国が、イルス王国でありその二人がイルス王家の祖と言われている。


だが、突然戦場に轟音が響いき、王国の魔法兵や弓隊といった、遠距離攻撃を得意とする部隊が、いきなり吹き飛んだ。

遠距離攻撃部隊は、爆裂系の魔法の直撃を受けたが如く、四肢を失い立ち上がる事もできない者が大半だった。無論生き残りを救出しようとしたのだが、断続的に鳴り響く轟音と共に無事な王国兵が減り、救出どころか全軍が全滅しかねない状況となってしまった。

その上敵の正体は、鎧をまとったゴブリンやオーク、そしてオーガの混成軍であったから驚きだ。

普通なら突撃しか能のない者たちが、まるで訓練された人族の軍隊のように整然と戦い、未知の攻撃までしてくるのだ。

ウエルス側は、例え十倍の数が相手であっても、戦力差は無いとさえ思っていたが、相手は未知の攻撃で一方的に自分たちを打ち倒す、10倍の数の敵である。

野戦を続けても勝ち目がないと撤退し、そこからは籠城一辺倒になった。

とはいえ敵に背を向けて無事に退却できるはずもなく、野戦戦力の2割を殿しんがりとしたのだが、それでも足りず、場内に戻れたのは野戦兵力の半数以下であった。

そこからは壁を挟んでの防衛戦であり、冒頭の城門破壊によってさらなる苦境に立たされている。


「威勢がいいのは結構だが、残念ながらここはもうだめだ。俺たちが援護するから、お前は城へ行け」

「な、何言っているんですか、副隊長。俺はまだやれます、そりゃ魔力は心許ないですけど、矢はまだあるんです、俺も最後まで戦います。それに、相手がゴブリンとあっては、引くわけにはいかないでしょう」


連戦で既に魔力は枯渇しかけ、仕方なく弓を使っているが、それでも魔力を消費するため、回復は遅々として進まない。


「無理だ。この数の差では時間の問題だ、いずれ俺たちも倒され奴らの腹の中だろう」


そもそも彼らがここに居るのは、民間人を脱出させるための時間稼ぎでしか無いのだが、それすらもう無理が生じていた。


野戦撤退時に殺された者は、その亡骸が戦場から退けられ、一纏めにされていた。

単に邪魔だから退けたとも思えたが、わざわざ引きちぎれた四肢を拾い集めて、まとめているのは妙だし、扱いが丁寧だったのも不自然だ。

それに敵の主力であるゴブリンの性質を考えれば、戦没者の埋葬などという考えなどある分けがない。考えられる可能性は、装備品の剥ぎ取りと、彼らの食料集めだ。


「守備隊兵士ルードよ、隊長命令だ。お前は急ぎ城へ向かい現状報告の後、民間人の護衛につけ」

「な、何を言って」

「頼む、娘のマリエラを幸せにしてやってくれ」

「隊長…」

「死ぬのは俺たち見てえな、年食った者の役目だ。ここは隊長と俺に任せろ」


副隊長も男臭い笑顔を浮かべながら、死を覚悟した言葉をいう。


ルードの目に涙が浮かぶ。

幼くして両親をなくしたルードは、幼馴染であったマリエラの父に引き取られた。つまり、ルードにとって隊長は育ての親であり、義父になる人でもあった。


「これより、報告に向かいます。隊長も、どうかごふっ!」


どうかご無事で。そう言おうとしたルードの口から血が溢れ、彼は糸の切れた操り人形のようにその場で崩折れた。


「ル、ルード!?」


突然の事に声を上げる隊長。


「グルルルル」


そしてルードの立っていた場所で、片腕を血に染めて起立する狼が唸る。


「馬鹿な、ウェアウルフだと!?」


ウェアウルフまたはワーウルフは、ライカンスロープと呼ばれるモノの一種で、ヒト型の狼であり直訳すれば男狼である。


決して犬ではない。


元が妖精種とされるコボルト(コボルトはゴブリンの別名という説もあるが、ゴブリンもまた妖精の一種だったと言われている)とは違い、ウェアウルフは吸血鬼と双璧をなす、強力な魔物モンスターとされる。類似種には虎や熊、犬や猫のライカンスロープが存在するらしい。

本来、ワーやウェアの語源は男性を示す言葉なのだが、女性型を指す対義語は使わず、男女の区別なくワーやウェアが使用される。


まあそれは、ともかく。

狭い室内では満足に剣も振れず、もちろん魔法は言うまでもないだろう。

突如現れた強靭な敵に対し、満足な抵抗もできずに守備隊員は血の海に沈んだ。

そして犬、いやウェアウルフは、次なる獲物を求めて血塗られた部屋を後にする。

ハンターとなったウェアウルフは、嬉々として次々に守備兵を血に染めていった。

それから程なくして、大通りの抵抗はなくなり、ゴブリンたちは城へと攻め上る。

途中で、つまみ食いしたゴブリンがオーガに〆られる事もあったが、ゴブリンの総数に対しては、微々たる数だったといえるだろう。




その昔、この世界の創造神によって、様々な種族が集められた。

それはいわゆる集団異世界転移というもので、多くの者がある日突然異世界に送られ、勝手のわからぬ世界での生活を余儀なくされた。

世界を作ったのに、知的生物は作らず他所から持ってくる暴挙。

はっきり言って、酷い手抜きだった。

後の管理神が、苦労したのもこの手抜きが原因であろう。


それでも、多くの者はこの地に根付き、出会った者と交わりこの世界の住人として、その生を終えていった。

だが、見知らぬ異世界に馴染めず、現実から目を背向ける者たちも存在した。

イルス王国の祖となった種族にも、そうした者たちがおり、その者たちは、他の種族はおろか同じ種族の仲間とも諍いをおこし、ある日を境に何処かへ去ってしまった。

その後、彼らは他者と距離を置き、人目を避け隠れるように、ひっそりと小さな部落を形成し、何世代にも渡り外界との交流を絶って、原始的な生活へと落ちていった。

限られた部族内の近親交配で出生率は下がり、奇形児も生まれるようになった。

食糧難から死亡した同族を食らうようになると、その者たちは更に歪さを増していった。

より劣悪な環境で生き残れるように、柔らかだった肌は角質化していく。

飢えを克服し、何でも食べられるように悪食になった。

より子孫を残しやすいように、妊娠期間は短くなり、より多産になった。

やがて、再び数を増した彼らは、狭い世界を捨て広い世界へと出てゆく。

彼らにはもはや、異世界への不安も恐怖もない。己が種族の繁栄のために、ただ食らい孕ませ世界に満ちるのみ。

こうして、その者たちは、ゴブリンと呼ばれる存在の祖となった。





そして……。


「陛下、大変です。ウエルスの街が、襲撃されました!」


王城内の庭園にて、簡易な野外椅子に座り客と話していた国王のもとに、伝令の兵が駆けつける。


「なんだと、それでウエルスの街は?民はどうなった?」


突然のことに、国王が席を立って聞き返す。


「鳥に付けられた文によれば、防衛は絶望的。現在、女子供全てと少数の若い男が、緊急用の脱出路を使い、街を逃れたそうです。残る老人と兵士並びにウエルス伯は、時間稼ぎに徹するそうです。ですが、鳥の移動時間を考えますと、街への救援は絶望的かと」

「そうか、ならば避難民だけでも早急に救助するのだ。それと、偵察の兵もだせ。とにかく一刻も早く正確な情報を手に入れるのだ」


国王は即座に避難民の救護と、状況把握の支持を出す。


「なんか、大変なことが起きたみたいだな。俺たちがひとっ飛びして、見てこようか?」


国王が指示を出したとき、野外テーブルの上に座っていた男が声を発する。


「おお、行ってくれるのか。すまない恩に着る」


整えられた口ひげに、白いものが混じる壮年の国王は、一瞬相好を崩したがすぐに顔を引き締め、テーブルに座る小さな友に礼を言う。


「俺とお前のなかだ、今更気にすんな」



「よ~し、今聞いた通り、お茶の時間はしまいだ。エンジン回せ、キャプテン・キッド探検隊出発だ」

「「「「「「「「アイサー」」」」」」」」


キッドの声に応えて、周囲から声が上がる。その声の主はやはり小さな者たちだ。


「アドベンチャー・ギャレー号発進」


キッドの掛け声と共に、巨大な亀を船底に吊るした、プロペラ飛空船が空へと舞い上がった。



オーガは、元々角のある人種でした。ゴブリンに近い感じで進化したのが、ノーマルオーガ。

オーガが、オーガとして更に進化するとオーガ上位種になります。

基本的に生物は、その種が環境に適合し、より生存に適するように進化しますが、そこに心理的な補正が加わり、人化したり獣化したりします。

鬼族は魔法王国の遺物で、先祖返りした結果、知性が回復して現在の状態になりました。

オークは食料不足を補うため、嗅覚が発達して摂取した栄養を、皮下脂肪として蓄積できるように進化しました。

ゴブリンやオーガのように知性をなくしたわけではないので、ノブタたちのように温厚な者もいれば、凶悪な者も居ます。

オークが人と敵対するのは、言葉が通じないのと、見た目で人から敵対されると言うのが、主な理由です。


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