135 聖光神国のその後
「おかげさまで、どうにか国も落ち着きました」
聖光神国で天使と呼ばれていた、勇者もどきの一人であるアルフレドが、俺の店で緑茶を飲みながら言う。
「そうか、それは何よりだな。しかしこう言っては何だが、思ったより早く落ち着いたな。国元の聖職者が、教義を変更することに抵抗しなかったのか?」
「教皇猊下はじめ、要職につく者が考えを正されましたし、コピーしていただいた動画を国でも見せましたので、受け入れるしかなかったのでしょう。それでも聖騎士の一部はモヤモヤとした思いを抱えていたようですが、ダンジョンというガス抜きの場もありましたから」
「ああ、最近龍雄ダンジョンで活躍しているらしいな」
北大陸の魔力不足を解消するため、聖光神国にも龍雄ダンジョンへのゲートを設置し、魔石や動植物の素材を得られるようにして、ゲート管理とギルド運営は勇者もどきの組織に一任した。店と一体化したダンジョンと違い、鬼族集落下の遺跡から繋がった龍雄ダンジョンは、階層数が多いので、龍雄に頼んで階層のいくつかを聖光神国向けに開放してもらった形だ。
「彼らは異種族討伐の任を負っていましたから、教義が訂正された直後は、自分たちの行動が誤りであったと知り、かなり混乱していました。神の名のもとに、行き過ぎた行為も正当化されていましたから。ですが、それも信仰心からの行いだったと思います。一時は半ばお役御免になってしまった彼らですが、例の神託の効果もあって、今では戦闘力と回復術を活かして、ダンジョンから貴重な品や魔石を得る事を、新たな使命と考えているようです」
少し前の話になるが、アルフレドの提案通り、聖光神国から教皇含めたあちらのお偉いさんを、呼び出してまとめて捕獲した。
アルフレドが言うには『占領しました』って嘘で、それなりの役職者を誘き寄せ、更に教皇猊下や国王を個別に|拉致(招待)したそうだ。
最初は『騙された』と大騒ぎして、聖職者とうちの者で少々戦闘になったが、龍化した龍雄のひと睨みで聖光神国の連中は、おとなしくなった。
流石に体長数十メートルのドラゴンを前に、争う度胸のある奴は少なかったようだ。
その後、店にあったモニターで、神様動画を見せてやったのだが、そこでもひと騒動あった。ギリギリ貞子さんが出てこられる程度の、小さなモニターに映し出された神様の姿を見て、聖職者たちが再び大激怒。『箱の中から神をお救いするのだ!聖戦だ、神敵を討て!』と、龍雄が居ても構わず大暴れしたため、フラッシュバンやLRADを使い鎮圧することになった。そして、動画を見終えてからは逆に、懺悔大会から集団自決行為騒ぎとなったため、再び拘束して魔法の牢獄に放り込んだ。
その後は混乱を収めるために、女神様方から聖光神国向けの動画をあらたに貰って、それを神託という形で伝えてどうにか納得させた。
「なんにせよ、北大陸が落ち着いて良かったよ」
「それでですね、ダンジョン関連以外でも、何かこう貿易なり委託生産なりを、検討して頂けないかと…お隣の国に、竹や薬草を栽培させて、その加工品を買い取られていますよね。同様に、聖光神国にも何か依頼して頂けますと、地方都市や小さな村の産業ができてですね、民の生活水準の底上げが期待できるのでは……いえ、その、実は教義が間違っていた事で、教団と国のどちらも民からの信頼が、ダダ下がりでして、早急に手を打たないと不味い状況でして。お願いします、なにか民の高感度を上げる手段を、うちに分けてください」
…別に睨んだつもりは無いんだが、途中で建前を捨てて実情を暴露しながら、懇願してきたぞ。あれかな、俺に嘘を見抜く能力があるとでも、思っているのかな?鑑定と、言語の不理解で相手の素性や人格を推察しているだけで、悪意がない嘘とか全く見抜けないんだが。
まあ、訂正してやる必要もないから、黙って好きに喋らせとくか。
ブイーブイーブイー
「ん?電話か」
マナーモードにしておいたスマホが着信を告げていた。
相手は…お、珍しいやつだ。
「あ、どうぞ。自分はいくらでも待ちますので」
「悪いな。そうだ、店の中を見て回っていて良いぞ。商品整理をしている者なら、大抵の商品を理解しているから、興味があれば聞いてみるといい」
「え、こちらには、外のお店で一般に販売していない物も、有るのですよね?良いんですか」
「ああ、バックヤードに入られては困るが、売り場の中なら自由に見てくれて構わない」
「ありがとうございます」
アルフレドはスキップしそうな勢いで売り場へと向かった。
アルフレドは転移できるチート野郎だけど、あいつの転移は、転移先がしっかり目視で確認できないと、壁に埋まるというか壁と一体化するタイプらしいから、見えないところに遠方から転移してくることは無いだろう。
気体や液体は転移物の体積分、横に避けてくれるらしいが、一体どういう仕様なんだろうか。
とりあえず電話だな。
「久しぶりだな、何かあったか?」
『ああ、久しぶり。いや、実は知り合いが殴り込みにあって、苦戦してるって言うんで、俺たちがちっと手え貸してやろうかと思ったんだがよ。こいつが偉い数の兵隊連れて来てやがって、俺たちでもち〜とキツイんだわ』
「オイオイそれ、喧嘩の助っ人の手伝いしろって話か?そいつら、どこのもんだよ?」
『森のずっと東、海を越えた先にある大陸だ』
東大陸か?
うちは空からも行けるから、加勢できるだろうけど、よそ様の土地だとなあ。
「よその大陸まで出張っていくのは、流石になあ。うっかりすると侵略と思われかねないから、うちの兵隊は出せないぞ」
『あ〜喧嘩の方は俺たちがやる。あんたんとこの兵隊を動かすと、後々面倒だろうからな』
「理解してくれて助かる。まあ、武器や医療品の支援ならしてやる。だがまあ、程々にな」
『…そうだな、うまく手打に持っていけるよう、努力はしてみるよ』
「そうしてくれ。俺もお前に何かあったら、家族に申し訳がない」
『大丈夫大丈夫、あいつらが俺たちの事なんて、気にするもんか』
「………そうだな」
『お、おう。あっさり納得されると悲しいものがあるが、まあいいや。近いうちに戻るから、鍛冶屋には話しといてくれ』
「分かった」
「何か気になるものがあったか?」
「いえ、どれも凄い物なのでしょうけど、自分にはどうやって作るかさっぱりで…竹の様に様々な加工品が作れる物があれば、良いのですが」
竹は森周辺には生えてなかったので、外来植物だったけど今の所、特に問題は起きていない。
この世界に無かった竹だけど、竹籠や竹ざる、行李など、日常生活の様々な場面で利用でき、程々に丈夫なので生産者、消費者共に妥協できる買い替えサイクルでもある。しかも客の要望に合わせ、受注生産する物から定形の量産品など、加工可能な商品の幅が広く、生産も手工芸品でありながら、竹自転車工房の職人から農家の副業まで、技術しだいで稼ぎ方も選べる。元々、工業製品のないこの世界では、必要なものはある程度自作する風潮があり、金銭に余裕のない者程、自作に慣れているため竹の加工も容易なようだ。
「竹の用途は幅広いからな。国でも広めたいなら、竹は用意できるし、技術指導も口利きしてやるが、他に何か気になる物は無かったのか?」
「竹は是非お願いします。あとはそうですね、調味料が豊富で驚きましたサトウキビなど、我が国では育ちませんから、砂糖は非常に貴重です」
サトウキビは熱帯か亜熱帯の作物だからな。日本でも南の方では育てられていたけど、九州で生産されるものは沖縄産より、甘さが低いと聞いた気がする。
「ビートの様な植物はこっちに無いのか?」
「何ですかそれ?」
「ん〜と、大根の一種だけど甜菜、砂糖大根とも言うな。確か葉っぱが食用になるんで、古くは野菜として育てられ、後に根の部分が大きくなる品種が作られるようになって、家畜の飼料にされて人は食べなくなったんだったかな」
「家畜の飼料ですか?あまり喜ばれそうにないですが」
「いや、砂糖大根とも言うって言ったろ。野菜として食うには不味いけど、根っこの大根みたいなのから砂糖が取れるんだよ」
「え、サトウキビ以外に砂糖が?」
「取れる。前世の寒い地方では、サトウキビの代わりに甜菜を育てている。ある国ではときの英雄が、甜菜を推奨して広めたって話だな」
貿易封鎖によって、砂糖が手に入らなくなったヨーロッパでは、ナポレオンが甜菜の栽培を推奨して砂糖不足を解消したそうだ。北大陸で栽培できれば大きな産業になるし、為政者や聖職者が栽培に尽力すれば、多少は民の評価も上がるだろう。
「どういう植物ですか、絵や写真はないですか」
「写真はあるが、こっちと全く同じものとは限らないぞ」
無くても俺のダンジョンで栽培はできそうだけどな。
そして
「相手はデカイ。近接戦が不安だから、こういう奴作ってくれ」
数日後現れたその男は、一枚のプリント画像を俺に示してそう言った。
「お前ら用にか…面白そうだが、協力者が必要だな」
次回は来週予定です




