134 棚ぼた
「じゃ、改めて話をしようじゃないか」
ダンジョンから俺の店に直帰して、イートインに聖光神国から来た二人を座らせる。
店に連れてくることに反対意見もあったが、変な思想を持っていないのはダンジョンに入れる事でわかっている。
俺を含めて、この街の人間全てが、聖人君子と言うわけじゃないし、同じ国の同胞と言っても、皆それぞれ自分の種族を第一に考える部分はあるだろう。そういう意味では、この二人が何らかの密命を受けていたとしても、それは仕方がない。転移能力で人質を取られて、聖光神国に逃げ帰られると、流石にまずいと思ったが、そういう使い方はできないようなので、危険も少ないだろう。
…というか、さっきから固まっていて、あまり反応がないんだが…、息してるのか?
「お〜い、生きてるか、聞こえているか〜」
「…は!す、すすす、すいません。少々衝撃的過ぎて。リリアもいい加減再起動しろ」
「あう!…何よ痛いじゃない」
「今の状況で、よくそんな文句が言えますね」
「状況?…あ、す、すみま」
ゴツ
男の方が先に再起動して、女の子の頭を叩くと、女の子が再起動し不満を漏らすが、直後何かに気が付き、謝罪の言葉をのべながらテーブルに手をついて頭を下げ、先の音を響かせた。
割といい音がしたが、平気か?痛がる素振りはないから大丈夫……あれ?
「見苦しい物を見せてしまい、重ね重ね申し訳ありません」
「いや、いいけどさ。その子気絶してね?」
「力があっても肉体的には普通の小娘で、そのうえそそっかしいので、その…時々自爆します」
「それでよく、今まで無事だったな。お〜い、誰か湿布薬持ってきてくれ」
現状俺達には、回復魔法を使えるものが居ないが、謎進化した薬類は湿布にも及んでいて、打ち身による内出血などは湿布で治癒できる。即死級の怪我ではどうにもならないが、例え脳挫傷でも生きてさえいれば、治癒可能だろう。
「さて、本題に入るが君等がこちらの大陸に、来た目的は?」
「…………」
「ふむ、沈黙か…。まあそう簡単に話すことでもないだろうから、仕方がないか。唐突だが…腹が減ったろう、先ずはこれを食うといい」
「これは?」
「ツノシシの肉にパンを砕いた衣をつけ油で上げたものを、野菜と一緒に煮て卵でとじた、カツ丼という料理だ。俺の育ったところでは、取りし…いや、重要人物に話を聞く際に、出す定番料理だな」
「今、取り調べといいかけませんでした?ま、自分ら敵対国の人間ですから、牢に入れられていないというだけで、破格の待遇ではありますが」
「ぶっちゃけ『必要なら拷問を』という声もあるんだが、今のところ君らは何もしていないので、俺としては手荒いことはしたくない。それに職務はどうあれ個人としての君らは、悪い人間ではないようだしな」
「はあ」
「まあなんだ、とりあえずカツ丼食ってくれ」
「いただきます…あ、これは美味しいですね…」
「さて、君たちの国はこの世界から、異種族を根絶やしにしようと考えているようだが、それが実現できるかどうかはさておき、実際に人族だけになった場合、世界はどうなるか知っているかな」
「え?……教義としては聖光神が再臨すると言われていますが、それは無いです。ですが、実際に何らかの変化があるのですか?」
「あるよ。君たちの様な純粋な人族が、どれほど否定しようとも、この世界には魔力がありあらゆる生物が魔力のある環境で生きるようにできている、純粋な人族だけが例外だ。これをいい意味で特別と捉えたのが聖光神教だろうけど、実際には純粋な人族は世界に適合できない欠陥種族だ。そして人族以外の種族がいなくなった北大陸は、急速に魔力が減っている。このままだと、人族の生活圏は草木すら生えない不毛の地になる」
「な!」
「魔力は大地や空気から動植物に吸収され、そして動植物からまた発散され大地や空気にというサイクルで循環している。魔法の行使は魔力を消費しているように見えるが、実際にはそれも循環の一つの形だ」
「それと、不毛の地になることに、どの様な関係があるのですか」
「わからないかな、人族以外は魔力を取り入れ、魔力を世界に還元することができるが、人族が体内に取り入れた魔力は、この世界に還元されない。だから君たちだけが繁栄すると、魔力枯渇によって急速に土地が痩せ、植物が育たなくなり動物も減る。しばらくは魔物の生息地などで魔力は循環するだろうけど、君達は食料を求めてて魔物の生息域を削り、さらなる悪化を招くだろうね」
「そんな……いや、待ってください、貴方は何故そんなことを知っているんですか、私達天使は皆神様のお言葉を聞いた事がありますが、そのような話は初耳です」
「それは、君達の言う神様以外の神様からも、俺が情報を得ているからだよ。神様は複数柱居られるし、君達の言う神様はこの世界にはもう居ない。その事だけは偶然にも聖光神教と一致しているけど、原因は全く違う。ほらこれ見せてやるよ」
俺はスマホに送られてきた神様からの動画メッセージを再生して見せてやる。
これは以前モーブ達に説明した神様からの連絡という、メールに添付されていたもので、長い話になるからと動画形式になっていた。
この動画の神様は最初の女神と違って、人間のような姿ではなく人型の光としての姿を見せてくれている。だが、この姿には“神様と理解できる何か”があるようで、目の前の男は動画を見た直後、転げるように椅子から降りて、床に頭を付け平伏してしまっている。まあ、俺も最初は同じだったけどね。そして歌うように紡がれる神様のお言葉は、知らない言語でありながら、そのお言葉の意とする事が、すんなりと頭に入ってくるのだ。
やがて……。
「恐れながら陛下にお願いがございます。先程のご神託のお言葉を、我が国の者に聴かせる機会を与えて頂きたく、伏してお願いいたします」
動画を聞き終えた男は、平伏したままの姿勢で、俺に懇願してきた。
「俺は構わないけど、どうやって聞かせるんだ?流石にこれの複製は無理だから、俺が直接聞かせなきゃいけないんだが」
「自分が教団上層部と、主な聖騎士を何名か、連れてまいります。ブルクスを手中に収めたとでも言えば、こちらに連れてこれると思います」
「連れてくる?どうやって」
「自分の能力なら、国からこの大陸に転移させられます。街から離れた荒野にでも呼んで、そこで神託を聴かせれば、自分たちの考え違いを正せるはずです」
「なるほど、こっちにとっても悪い話じゃないな。じゃあうまく行ったら報酬代わりに、そっちの国にもダンジョン出入り口を作ってやろうか?魔道具も生活用品なら融通するよ」
この男が裏切るとは思えないけど、連れてきた奴らが暴れる可能性はあるから、荒野でというのは良案だな。うちの戦力を集めておけば、撃退は楽だし民間人を巻き込まなくて済むのもいい。
「ありがとうございます。必ずや成功させてみせます」
なんかシュテン助けに行ったら、棚ぼたで懸案事項が解決しちゃったかな?
きっと、俺の日頃の行いがいいからだな。




