133 思いがけない出会い
ピーピーピーピー
その時、聞き慣れない音が、私のすぐそば…というか、懐から音が聞こえた。
「これは?」
音源を探ってみれば、それはギルドで渡された、冒険者タグから聞こえていたわ。
「これは救援信号が発信された時に、その近くにいる者に通知す音です。音のパターンで救援希望者の種族がわかるようになっていますが、この音は…ゴブリン種やオーク種、或いはオーガ種のような、これまで魔物認定されていた種族ですね」
「え、ゴブリン?」
私は無意識に、ゴブリンの腰巻きへと視線を向けてしまう。あれは人にとって、害にしかならないと思うけど、もしあれを仲間だと言うなら、私は死んでも拒否するわ。
ドーン
直後、野戦陣地にいる私達に、爆発音が聞こえてきて森の中から煙が上ったわ。
「近いですね、行ってみましょう。でも、指示があるまでは絶対に手を出さないでください。このダンジョンには、人も魔物として現れます。見かけで判断して攻撃すると最悪の結果になりかねません」
そう言って走り出す茶髪に付いていきながら、私は茶髪に確認をする。
「人って人族?それともドワーフやエルフのような異族?」
「全てです。人族の場合、山賊や盗賊に冒険者、はては何処かの騎士団まで、何でもありです。エルフやドワーフも似たようなもので、各種族の兵や冒険者がいます。たまに普通の村娘や農夫のようなモノも出ます。ですが魔物全てに共通するのは、言葉を話しません。猿や野生のゴブリンのような奇声をあげるだけで、会話はできません」
「話せるゴブリンは冒険者仲間で、話せない人族は魔物ってこと?紛らわしいなんてレベルじゃないじゃない」
「ゴブリンやオークなどは、同種の魔物とは装備も雰囲気も違うので、注意していれば見分けられるかもしれませんが、人族冒険者は本当に紛らわしいです。一応ダンジョンのエリアごとに、魔物の種類が決まっているので、この辺には人族タイプの魔物は出ないと思いますが、他のエリアから流れてくることもあるので、絶対というわけではありません」
ドーン
そして再び爆発音が響く。
「急ぎましょう」
やがて森の木々が倒れて開けた空間に私達は辿り着いた。
「うそ、何アレ」
まず目についたのは、体長5メートル程の魔物の姿。
姿形は巨大なトカゲで、全身から炎を上げている。
「あれは燃やされて…」
「いえ、あれは魔物の体から噴き出しています。あの特徴的な姿からして、恐らくは龍の一種です」
「あ、あんた達は近くに居た冒険者か!?こいつは下位龍種のファイアーリザードだ、あんたらの手に負える相手じゃない。今すぐ逃げろ」
かけられた声に、その姿を探せば満身創痍の美青年が、槍を構えて魔物と対峙していたわ。私達には逃げろと言う割に、彼とその仲間らしい数人は逃げる素振りを見せていない。私達には無理でも、彼らなら勝てるというの?
魔物は私達を見ると、その大きな口を私達に向けて開いた。そしてその口内に赤い渦が生まれる。まさか、あれはファイアーブレス!?
「茶髪!」
茶髪の空間操作ならあの炎を回避できるはず。そう思って私は茶髪に向かって叫ぶ。
だが。
「どこ見てんだ、糞トカゲ。てめえの相手は俺だろうが!!」
その炎が放たれる直前、龍の口は下から突き上げられ、強制的に閉じさせられた。
そして口内で渦巻いていた炎は、龍自身によってを咬み散らされ、その口の隙間から黒煙が上る。
「キュオーーーーーン」
ファイアーリザードが怒りの咆哮を上げて、再び青年たちに狙いを定め、前脚を振るって青年達を打ち据えようとするが、彼らは意外な素早さでそれをかわし、大地には大きな爪痕が刻まれた。
満身創痍に見えるけど、まだあんなに動けるなんて、これも種族差なのかしら?
だけど…。
「茶髪、あの槍の強度はどれくらい」
「ドワーフ製ですからかなりの物かと。やりますか?」
「やるわ、援護お願い!」
私は全力で駆け出すと、槍を構えてリザードの腹部に向けて突撃する。
「お、おい、何やってる。来るんじゃねえ逃げろ」
青年が叫ぶと、リザードの目が一瞬私を捉えた。気持ちは嬉しいけど、その警告でリザードに私の動きがバレたわ。リザードも意外と頭がいいのね。
そして、リザードの尾が私に向かって振り出される。私を薙ぎ払おうと思ったのか、尾の軌道は地面と水平に振られ、高さは私の腹部くらいだ。
「セイヤー」
掛け声と共に、振りかぶった槍を柄をリザードの尾に叩きつけ、私自身はその反動を利用して尾の反対側に飛ぶ。
「キュオーーー」
クルリと一回転して着地すると、リザードの尾が再び迫ってくるけど、これは私を狙ってじゃないわね。だって尾が途中で変な感じに、折れ曲がっているもの。
メチャクチャな動きで尾が私に迫るけど、突然尾が消えて私の前には、リザードの胴体が見える。
「えい!」
ぞぶり。
「キュオーーーーーン」
茶髪の援護で私は瞬間移動させられ、当然リザードは私を見失っていた。そして私の目の前に、無防備なリザードの脇腹があったなら、これは突くしかないわよね。
そして暴れるリザードから距離を取り、先に戦っていた青年たちの元へ走る。
「大丈夫?まだ動けるかしら」
「ああ、助かった、ありがとう。人族と思い見縊ってすまなかった。おかげでこっちの負傷者を、回復する時間が得られた。感謝する」
「シュテン、話は後だ。俺たちも動けるし、頼もしい援軍が来たし、一気に叩いてしまおう」
話しているうちに、回復したという彼の仲間たちが、戦闘態勢を整えていた。既にリザードの牽制をしている者もいる。
「そうね、手伝うわ」
そして、リザードへの一斉攻撃が始まったわ。先ずは四肢を斬りつけ動きを封じて、その後はもうめった刺しね。ブレスを吐こうとしても、茶髪が口の前の空間を操作して、撃ち出された火球をまた口に戻してしまう。流石にこれはリザードには対抗手段がなく、最後は全身から出る炎で、私達の接近を止めようとしたけど、傷口から自身の炎が廻って、焼け死んでしまったわ。
「……これ消えないな」
「こいつ、ダンジョン魔物じゃなくて、龍雄さんの眷属か何かだったんじゃないか?」
「だとしても、俺達は襲われた立場だし、俺達やそこのお嬢さん達クラスの猛者でなければ、何人犠牲が出たやら」
何か仲間内で話しているけど、よくわからないわね。タツオさんって誰かしら?
この人達は、見た目は人族なんだけど、異族なのよね、どういう種族なのかしら。
「さて、こいつの討伐に協力してくれた報酬なんだが、まず冒険者のルールとして、討伐に直接または間接的に貢献した者で、報酬は等分する決まりだ。とはいえ今回俺たちは助けられた立場だから、このリザードの半分を君たちの取り分としたい。皮や肉などの利用できる部位は、そのまま分けて武器や防具に加工することができるし、金銭が良ければ売却益から取り分を渡そう」
「そうね、どうする?」
「素材としては耐火能力に優れていますから、皮はいくらか残したいですね。肉も食べる分を少し残して、残りは売却でしょうか」
「あ、シュテン。天翔壱式が来たぞ」
そんな話を、していると彼らの一人が空を見上げて、つぶやいたわ。そしてつられて私も空を見ると、そこには空を飛ぶ奇妙な物体が……。
「救援要請出したから、様子を見に来たんだな」
「不意の遭遇で負傷者が出て、電話する余裕が無かったから、救援要請したけど、彼女らが近くにいなかったら危なかったな」
そして、私達の近くにあの黒い膜のような物が現れ、中から数人が出てきた。そして……。
「シュテン、怪我はないか?さっき天翔壱式から、ダンジョンの救援要請地点に、龍とシュテン達が居たと報告を受けて、やってきたんだ。こいつが龍種か?こんなの相手に出来るやつは多くない。流石は鬼族の精鋭だな。そっちは救助者か?」
「あ、いえ、彼女達は救助対象ではなく、救援。助けられたのは俺達の方です」
「……マジで?」
「本当です。彼女、腕力だけなら俺やモーブ殿と互角で、男性の方はよくわからない魔法を使います」
「へえ……挨拶が遅れたが、俺の名は奈良健人。ナラ公国の王をしている。シュテン達を助けてくれて感謝する」
「「え⁈ 公…王…陛下?」」
嘘でしょ!?
なんで王様がこんな危険な場所に来てるの?
しかも護衛がほんの数人だけだし、公王も戦闘能力に自信があるの?
「ん?…………なるほど。……ヨシコーの報告とはずいぶん容姿が違うが、彼女が遭遇したのは、別人かな?まあ、シュテン達の恩人だし、天使のお二人は賓客として饗させてもらうよ」
「「「「「「な!」」」」」」
バレた!なんで?
そして私達に、一斉に武器が向けられる。
あ、ちょっと待ってこれは不味いんじゃない?
「な、なんだ!?女が義父の姿に…」
「うわわわ、まってくれ、俺は今浮気してない。いや今じゃなくてもあれ以来、していないんだ」
「下がれケント………ケ、ケント? ケントお前なんで首が無いんだ?おい、どこに首を落としてきたんだ!死ぬなケントォォォォーーーーーーー」
「………何このカオスな状態。俺は争う気がないと言ったよね」
公王が私に鋭い視線を向けてくる。違うんです、ある程度自動発動しちゃうんです。
「あ〜私はアルフレドと言いまして、コチラのお嬢と同じ天使なのですが、お嬢の能力について誤解があるようなので、訂正させていただきたいのですが…」
「誤解?どういう事」
「お嬢の能力は敵対者に幻覚を見せるモノですが……」
「ちょ、あんた何暴露して」
私の静止に取り合わず、茶髪は私の能力の仕組みを暴露してしまったわ。
「なるほど、不可抗力というのは理解した。だが、この状態はどうすれば良いんだ?」
「お嬢から離れてしばらくすれば、勝手に落ち着くと思います」
「あっそ。じゃあ待つしかないか」
そう言って公王陛下は、テーブルとお茶のセットを取り出して、休憩に入ったわ。茶髪は公王の話し相手を努めながら、一緒にお茶している。私は布で全身を包んで、離れた場所で小さくなって、ひたすら存在感を消していたわ。
私もお茶飲みたい…。




