121 スー〇ー戦〇
ポンポンポパパパン、ポンポンポンポンパパパパパパパ
「回った…おおおお!!回ったぞーーーーー」
ナラ公国近くの池に軽快で特徴的な音が鳴り響いている。
「やったな」
「ああ、ついに自力でエンジンを完成させることができた、礼を言うぞ、ありがとう」
そう言ってドルトンは俺の手をがっしりと掴んできた。顔を見ればその目元もこころなしか潤んでいるように見える。
ナラ公国初の完全国産エンジン、それは所謂焼玉エンジンだ。
焼玉エンジンは現代の各種エンジンとは違い、電子部品を使わず機械製品のみで作成可能な、原始的なエンジンだ。その最大の特徴は燃焼室での燃焼に外部から熱を加える事にある。
車を例にするなら、ガソリンエンジンはプラグでスパークさせた火花で着火し、ディーゼルであれば圧力で着火するが、焼き玉エンジンは炭火などで加熱した焼き玉に、燃料を噴射して着火する。この噴射装置も電子式ではなく機械式で良いし、他のエンジンに比べメンテナンスが容易という特徴がある。
反面、燃費がすこぶる悪く、出力も低いという欠点があるが、太平洋戦争以前の日本ではポンポン船と言われる小型船舶や農業用機械などに多く活用されていた。
「あとは…そうだな、この排気ガスには有害な成分が含まれている。空気中に拡散すればすぐに害になることは無いが、このエンジンが普及すればいずれ公害になるから、これを浄化する装置を組み込もうか」
浄化装置については魔道具でもいいだろう。動力や熱源にした場合はエネルギー効率が悪いが、水道の紫外線殺菌装置などはあまり魔力を必要としないので、化学物質の除去なども大して魔力を食わないだろう。
「この焼き玉エンジンは、外へ公開しても販売してもいいんじゃな?」
「いいよ。いちから作れた以上、そのエンジンはこの世界の産物だから。燃料はダンジョンアイテムとして出るように設定したから、仮に化石燃料がこの世界になくても供給できるし、ダンジョンが恒久的に資源確保の場になるならそれもいいだろう」
幸いなことにダンジョンを専有したり、侵略のために軍事利用したりすれば、システム的に出禁になる。ダンジョンの産物を外の世界で買い占めれば、ある程度資源を集められるが、そうした買い占め行為が安く済むわけもなく、資金が続かなくなれば、かつての帝国の二の舞だろう。
「くっくっくっく、やるぞやるぞわしはやるぞーー。この焼き玉エンジンに、アントニャオ妹の魔道具技術を加えれば、電気が無くともお館の世界のエンジンに迫る性能が得られるはずじゃ!ドルトン式エンジン名付けてドルジン!これからは時代が、わしの後を追いかけてくるのじゃ!」
そう言ってドルトンは、くははははと笑い声を上げる。
現状、耕運機の小さなエンジンですら、部品精度や電装部品の問題で、再現できないでいるわけだから、技術屋としては相当ストレス溜めてたんだろうな…。
あれ?そもそも鍛冶屋って技術屋だったっけか?
まあ本人が、鍛冶がどうとか言わなくなったし、もう工業技術方向にシフトしてるんだろうな。
「ネーミングセンスはともかく、ステラに会ったら“俺がゴーレムは?”と言っていたと言っといてくれ」
あいつ当初の目的をすっかり忘れてゴーレムを召使いにしているフシがあるから、たまには思い出させてやらないとな。
「わかった、忘れなかったら伝えておく」
それ確実に忘れるだろ。
「ま、俺もステラが釣れそうな魔道具をいくつか思いついたから、あいつの方から来ることもあるかもしれないから、それでいいよ」
「先ず用意するのは、以前作った“板をくるくる回す”魔法陣だな」
回る魔法陣を使って作る夏の機器といえば、先ずは扇風機が思いつく。
「まあエアコンは無理だけど、水で冷やす冷風扇ぐらいは作れるだろう」
エアコンというのは、液化ガスの気化によって起きる熱を奪う効果を、利用して冷却しているが、これにはコンプレッサーという、ガスを圧縮するための仕組みや、フロンガスかその代替品が必要なので、直ぐに作成するのは無理だ。しかし、冷風扇ならば水を流して風を当てればいいだけなので、それなりに作成できるはずだ。
地球であれば、扇風機なりモーターなりを使えば風を送れるし、水も小型ポンプで循環すればいいわけだけど、こっちでは難しいのでそういう部分を魔道具にする。
まずはプロペラだが、試作品なので店の扇風機を流用する。実際に販売する時は木製かステンレス製になるだろう。これに回転と停止の魔法陣を記載した板をグールガンで接着。銀を溶かす都合上プラスチックに直接記載できないのが難点だ。そして店内で扱っている適当なプラケースに軸をつけて固定。ケース内に水タンクと水中ポンプを取り付ける。ポンプにつける魔法陣の小型化が問題だが、今回は風呂用ポンプサイズで良しとする。
そして、水を含みやすくも、腐りにくそうな布……まあ消耗品と考えて普通に麻布を櫛状に割いて使う。これに上から滴るように水を流して風をあてれば出来上がり。
「……できれば氷を入れるとかしたいが、氷を作れる魔法ってあるんだろうか?」
そこで氷魔法について聞いてみたところ、リリパットに該当者がいるという。
「仲間内では“氷結女のブルー”と呼ばれていますじゃ」
なにその二つ名。何だかとっても中二っぽいぞ、そして女性なのか。何気にリリパットの女性ってシデンの母親くらいしか知らないな。ま、それも顔がわかるだけで名前も知らないけどさ。
「初めましてブルーです」
「……奈良健人だ」
『おい、長老。なんで彼女はマスクしてるんだ?』
マスクと言っても口と鼻を覆うやつではなく、顔全体を覆っている所謂覆面というやつだ。
俺は長老を掴み上げ、その顔に向って、こそっと尋ねた。
身長差で、普通に内緒話をする事が出来ないのだ。
『本人は、我が親父殿の、薫陶の賜物と言っております』
…つまり、彼女も転生日本人の被害者か。
『あの者の他にも四人ほど同種の者がいまして…戦闘能力だけは確かなんですが、どうにも扱いが難しく…』
さもありなん。
「……」
「⁈寒!」
なんだ? 急に寒気が…。
「こ、これ、お館様に失礼じゃろ、抑えるんじゃ」
え、なに、俺何かされてるの?
「すみませぬ、コヤツは醜いものは嫌いと公言しておりまして、自分の美意識にかなわぬ者を、氷柱にするという悪癖…」
「きれいは正義、汚いは悪」
「いや、ぶっちゃけたなオイ!俺はそんなに醜いか⁈長老もサラッとなにディスってくれてんの」
「若いのに、身だしなみが成ってない。雰囲気も無駄に老成しておっさんっぽい」
あ……いやまあ、見た目若くても中身おっさんですからね。でも…。
「おっさんは駄目か?生きる価値がないのか?」
「…色々と疲れているおじさんは、可哀想なので除外するけど、生き方が汚いおっさんは、ヨウセイブルーの名にかけて誅する」
「妖精ブルー?」
「違う、妖精戦隊ヨウセイジャーのヨウセイブルー」
そして覆面の彼女は、決めポーズらしきものをとる。
……………おいぃぃぃ、転生日本人のリリパット、異世界で何してくれてんの!
なんで異世界にスーパー戦隊を広めてんだよ。キッドといい、文化汚染が深刻すぎるぞ。
「ま、まあそんなわけですが、悪気は無いので大目に見てやてくだされ」
いや、悪気なくナチュラルにディスられてんだけど……。
「そういうわけで、氷を作る魔法を知りたい。正直理屈を聞いてもたぶん理解できないから、実際使うところを見せてくれ、そうすればアプリで魔法陣に変換する」
「わかった」
暫くすったもんだした後に、ようやく本来の目的を果たすことができた。
だが長老よ、俺のへそは曲がりに曲がって偶然元の位置に、戻っただけだかんな。
今度何かあれば、またリリパット族への“おやつ購入給付金”が無くなるからな、心しておけよ。と、念を送っておく。
長老が小さく身震いしたように見えた。
色々あったが、教えてもらったおかげで魔法陣が完成し、冷風扇の温度を下げることができた。
そしてついでに、冷蔵庫を作った。
これについては、断熱加工した箱の上部に、魔道具を組み込み、製氷と冷却ができるようにした。製氷時にはその都度魔力を、注ぎ込んでやる必要があるが、庫内に金属を使用することで、効率的に冷却できるようになった。欠点といえば、昔の冷凍庫同様に霜がついて、金属板が徐々に氷に包まれて行くことだが、地球の冷蔵庫のようにガスで冷却しているわけではないので、適時叩いて氷を割ればいいだろう。そして冷蔵だけであれば数日に一度、魔力を注いでやれば足りるようだし、これならば多量の霜がつくこともない。
「これらの家電モドキを、家庭用魔道具として先ずはここ、ナラ公国首都で販売し、行く行くは南町や他の町にも広めていこうと思う」
物々交換の牧歌的な暮らしではない以上、稼いだ金を使ってより良い暮らしを得られる世の中でなければ、程々に働いて食べていければいいという事になるだろう。それはそれで悪くは無いのだろうけど、全ての人がそうなっては国がまわらないし、世の中の発展もない。
「家庭用魔道具……家魔?家魔具?魔具家…ップ?」
「マグカップは違うだろ」
龍雄が無理に略そうとしてるが、ゴロが悪いから無理だろ。
「ドルトンの焼き玉エンジンが、商品として物になれば、この世界にも産業革命に似た現象が起きると思うんだ、何だかワクワクしないか」
「なるほど、でもその前にあっちの国の事を解決しておかないと、危険が増すのでは?」
あっち?なんだっけか。
「なんかあったっけ?」
「えと、宗教国家のなんとかって国ですよ」
「………ああ、忘れてた………龍雄が行って大きな宗教施設を潰したら、年単位で時間稼げそうだけどどうかな?」
「協力はしますけど、俺はゴ○ラじゃないんで、そういうのは遠慮します」
仕方ない、なんか考えるか………。




