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119 町を走るタクシー

作中のなまり言葉は、異世界の地方言葉で、日本各地の方言とは一切関係ありません。

「ここが、南町なのかい?随分立派な町だなや」

「昔聞いた帝国ってとこじゃないんだべな?」

「帝国は駄目だぁ、ご先祖は帝国を嫌って村を作っただ」


南町の東門の前で、初老の男たちが門を見上げ、口々に感想を漏らす。


「そだ、帝国は危険らしいが、本当にここは大丈夫なんか?」

「ああ、今俺たちはこの町で暮らしている。この南町は安全で住みやすい良い町だよ」


初老の男が問いかけた相手、初老男の息子は、すました顔で応じる。

だがしかし、彼は内心で非常に焦っていた。


『たったの二ヶ月町を離れていただけで、何でこんな立派な防壁や門ができてるんだ』

『ここの二ヶ月は外とは時間の流れが違うんだよ。むしろこのトンデモなさがナラ公国だろ』


幼同じ村の出身で、冒険者としての相棒に、コッソリ疑問をぶつけてみるも、彼が答えを持っているはずもない。


『大体、門や防壁なんて、まだ常識的だよ。後ろの道や水路の方が遥かにとんでもねえよ』

『まあな、たった二ヶ月でどうしてこうなるんだか、全くわかんねえ』


「こんな立派な防壁の中に、畑があるんか?」

「ああ、それは大丈夫、ある……はずだ」

「この門と防壁は、俺たちが親父たちを迎えに出たときは、まだ無かったんだ。だから、畑はこの防壁の中にあって、その先に町があるはずだよ」

「あん?何言ってんだ、お前は。こんな立派な門や防壁なんて、急には完成しねえ。お前たちは、本当にこの町に住んどったのか?俺は急に心配になってきたぞ」

「普通はそうなんだけどさ、ここは普通じゃないんだよ」

「取り敢えず、中には入ろう」

「通行税は、いくらかかるんだ?」

「この町にはそんな制度はないから、町に入るのは無料だよ。俺たちが身元保証人になるから、入町審査も軽いはずだ。」

「ほ〜」


俺達は冒険者証を見せ、田舎の家族を連れてきた旨を、説明して町へ入った。

久し振りの町は以前にも増して活気があり、人通りも多いように思える。

そうして、周囲をキョロキョロと見回していると、不意に声をかけられた。


「そこの兄さん、この町は初めてかい?町を見て回るなら、輪タクがオススメだよ」


輪タク?初めて聞く言葉だが、一体何だろうか。


「俺達は少し前までこの町にいたけど、輪タクなんて聞いたことがないぞ」


人の良い感じの男だが、それで見知らぬ者の言葉を安易に信じるようでは、長生きはできない。常に疑うのは疲れるが、残念ながら他人を踏みにじって生きている者も、この町にも一定数居る事を忘れてはいけない。


「何だ兄さん達は旅帰りかい。それじゃあ町の案内は必要ないか。でも疲れているだろ?良かったら乗って行かないか」

「乗る?馬車みたいなものか。二ヶ月前には無かったと思うんだが」

「二ヶ月前か、それなら自転車は知っているだろ?輪タクってのは、自転車に客車を組み合わせたものさ。牛馬を使わないから飼育小屋も必要ないし、乗合馬車と違ってお客さんの希望する所まで乗せていくよ。実は値段も意外と安いんだぜ」


そう言って、男は料金表を見せてきた。値段は確かに馬車などより安い。が、それより驚いたのは、その料金表だった。基本は距離のようだが、時間決めなら客の望む場所に、何度でも運んでくれるらしい。そして、その事が文字の他に精緻な絵や地図で表してあるが、俺は似た物に心当たりがあった。


「これ、公国関係か?」

「この商売を始める時、皆役所の指導を受けたよ。この認可票と料金説明表を持ってないやつは、もぐりだから、もし見かけたら役人に通報してくれ」

「そうか、それなら役所まで乗せてくれないか」


公国が、これを広めているなら安心していいだろう。どんな悪人も、公国を敵に回す事がどれほど危険かは知っているだろうからな。


「お、乗ってくれるかいありがとう。すぐに準備するよ」


こうして俺達は3台の輪タクとやらに分乗して、町を移動する事になった。


「へえ、割と小ぶりなんだな。自転車で人を運ぶと言うから、ダンジョンにある四輪車みたいなものかと思ったよ」


用意された乗り物は、二人がけのベンチシートに布の屋根が、かけられたような感じだが、幌馬車のような筒型の幌ではなく、前方が大きく開いていた。


「これは、雨の時濡れそうだが、どうするんだ?」


「お客の席は、この幌を最大まで伸ばして、席の前にも別の幌をかけるから、そんなに濡れないさ。自転車に乗ってる俺は、防水の服を着るか我慢して、濡れるに任すかだな。それと、小さめなのは小回りが効くのと、重量を軽くするためだそうだ。と言っても、あまり軽いと風が吹いたときにふっ飛ばされちまうから、ある程度の重さはあるぜ」


俺と親父の乗った輪タクのこぎ手は、先の男だった。どうやら店主でありながら、自らも自転車をこぐらしい。以前は人足をしていたが、この輪タク事業の話を聞いて一念発起。説明会に行きその後も役所の指導を受けて、開業したそうだ。金勘定も基本的な料金が決まっている事で、何を何回行えばいくらになるという表があり、それをもとに合計を計算して手元の金と確認するのだとか。俺もそうだが、平民は読み書き計算が不得意なものが多いから、そうした者への配慮なのだろう。


俺達は、座席の下に荷物を入れて、座席に座る。


「うわ、柔らかい。…鎧は脱いだほうが良いだろうか?」


座る前に座席を触れば、鎧や武器を身に着けて座る前提の、ダンジョン自転車と違ってこれは柔らかかった。俺の鎧で生地が破けないか心配になって、思わず確認したのだが。


「いや、柔らかいと言っても、表面の布は丈夫だから、普通に座っているだけなら問題ない。故意に刃物を突き刺したりすれば別だけどな」




「何んだか、見覚えのない服装の人が結構いるけど、最近の流行りなのか?」


町を眺めていると、これまで南町周辺では見たことの無い服装の者が混じっていた。はっきり言うと、服の面積が俺達よりずっと少ないのだ。


「おや、やっぱり気になるかい。彼らは元帝国の、北方都市から来てる冒険者や、商人だよ。最近ゲートとか言う物で一瞬で行き来できるようになったとかって話だよ。向こうは海っていうのがあって、皆水に入ることが多いから薄着なんだそうだ」


説明に加えて、兄さん若いねえなどと言っているが、およそ一ヶ月の間、親父達と旅をしていたんだぞ。尻が見えそうだったり、へそが見えていたりするんだぞ。正直旅帰りの俺には刺激が強過ぎるんだよ。


見慣れた町の変貌に驚きながら、俺達は輪タクで通りを進み役所へと向かう。以前聞いた話では、役場で面談して移民が受け入れられれば、公国が家族と共に住める家を提供してくれると言われている。


「なあ、あんたは移民の家が、どんな物か知ってるか?」


俺達が旅に出た時点では、まだ工事が始まったばかりなので、実際どんな家なの知らなかった。


「移民の家?ああ、真っ先に役場へ向かうって事は、お客さん方は農業移民希望か。なら安心しな、ちょっと変わっているが、暮らすには困らねえし、隙間風もねえ立派な家だよ」

「何だか、気になる言い方だな」

「いや、本当に問題ねえよ。それに越してくる前に、現物を見せてもらえるから、楽しみにしてるんだな」



◇◇◇


「なあ、ブルーノ。帆船に使われる帆布(はんぷ)が欲しいんだけど、ブルクスに行けば手に入るのかな?」


とある日、俺はブルーノの元を訪ねて、釣り道具の手入れをしていた彼に問いかけた。


「ん?おお、お館様じゃないですか、御用でしたら使いを寄越していただければ、こちらから伺いましたのに、こんな作業場に来ていただいてすみません。帆布ならうちにもありますが、どんなのが必要です?一応、麻帆布と綿帆布がありますが、何に使われるんです?」


ここはドワーフ漁師、ブルーノの工房。以前は一漁師に過ぎなかったブルーノだが、現在は漁船から釣具まで手広く作成する工房の工房主もしている。


「いや、俺もこういう工房は嫌いじゃないし、見学ついでみたいなもんだよ。帆布は幌として使いたいんだ、そう大きくなくてもいいんだが、生成りより染色してある物がいいな」

「色付きですか、それは無いですね、どんな色がいいんんです?」

「そうだな、特にこだわりはないが、黒系統の色だと引き締まって見えるかな」

「いや、お館様、黒い帆布なんて普通ありませんよ。夜は走らせないにしても、帆の色は明るい色が普通ですし、それは馬車の幌も同じですよ」


海賊船とか黒い帆のイメージがあったけど、この世界には無いのか。


「そうか〜残念だな」

「少し時間を貰えれば、綿布をうちで染色して加工できますよ」

「お、んじゃあそれ頼む」



「おーい、ドルトン。リヤカーを改造したいから、ちょっと手を貸してくれ」

「何、リヤカーだと?」

「リヤカーを小型の箱馬車風に改造するんだ。そこそこ豪華な二人がけの椅子を付けて、そこに客を座らせて馬の代わりに自転車で引く」

「客と言うことは、辻馬車のようなものか?」

「いや、決まったコースではなく客の要望で、自由にルートや目的地を決められる、馬車代わりの乗り物だ。これを次世代の交通機関として流行らせたい」


自転車を利用したタクシーは日本では輪タクと呼ばれて、戦後の物資不足の折に登場し利用された乗り物だ。元は人力車であったものを改造した輪タクや、リヤカーに帆をつけただけと言うものもあったが、最盛期には全国で70もの輪タク事業者が、営業をするほどだったらしい。しかし、その隆盛期間は短く、わずか五年ほどでその殆どが姿を消したという。

その後、日本生まれの自転車タクシーは、後進国に輸出され爆発的に広まり、サイクルリクシャーなどの呼び方をされている物もある。

現在でも東南アジアなどでは、住民の移動手段として利用されている地域もあるが、近代化の中にあって日本同様にその数を減らしているらしい。

逆に輪タクを観光資源として利用している国もあり、これは日本の観光用人力車同様に、見栄えのするものが多いようだ。

なお、リクシャーとは人力車のリキシャが語源とされている。


近年はFRPのボディーや電動アシストを装備し、広告収入によって運賃を安く抑えた新しい自転車タクシー会社が、ドイツで生まれて日本にも導入されているが、日本においては自転車タクシーの区分が、公安委員会によって定められた細則(自転車の乗車定員の決まりなど)によって、公道を走れないため、あまり普及していない。


とはいえだ、それは地球での話で、この中世的な異世界においては、超がつく程の最先端の乗り物だ。大人数の輸送なら、馬を使った定期バスの方が良いだろうが、少人数の輸送で小回りを効かせるなら、自転車タクシーの方が、ずっと便利なはずだ。

馬糞牛糞の被害も減るから衛生的でもある。


「先ず、車軸の受けには板バネを付けて、座席にはスプリングを組み込みたい。車体は横に二人がけできる程度の大きさで、客の荷物を収納する部分も欲しい。もちろん停車中に盗まれないような工夫が必要だぞ、それから幌と脱着可能な屋根の二種類がいいな、それから…」

「いや、待て待て、そう一度に言われても困る。順を追って一つひとつ説明してくれ」

「なんだ、自転車の話なのに食いつきが悪いな」

「む…それは、自転車+リアカー+幌じゃろ?既存の組み合わせで、技術的にもアレじゃし、新しい要素が何一つ無いし…」

「…それもそうだな。うん、誰か手の空いてる者を紹介してくれ」

「いや、わしがやっても良いんじゃが、何かこう……な?…な?……な?」


…な?って何だよ。ヒゲおやじの上目使は違う意味で破壊力あるぞ、勘弁してくれ。


「……発展型として、小型のエンジンを搭載する物もでき『よし、わしに任せておけ』…うん頼む」


仕事の褒美が難易度の高い新たな仕事……………ま、いっか。


本作を一話目から手直ししていたところ、設定の尖った部分が気になり、書き直していたらなんか違うストーリーになってしまった、改良?改悪?バージョンを並行してアップするか悩み中。

まあ、まだ15話分ぐらいなのですが………

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