118 道の先には……
低木や枯れ草が散見される乾いた大地を、巨大な物体が進む。
先頭を進むのは、異世界で経バンと呼ばれる商用ワンボックス。次に続くは空を飛ぶ天翔壱式と呼ばれる飛行機、そして巨大な筒を引きずる地龍。これらが一列になって進み、少し遅れてはいるが、数台の経バンが並走している。
先頭車両に、乗る俺が車を止めると、天翔壱式も近くの荒れ地に着地する。
「龍雄〜休憩すっぞ」
「グア(ういっす)」
龍体の龍雄が返事を返し、足を止めると整地ローラーが止まり、並走する経バンから出てきたエルフに休憩を告げると、彼らもそれぞれに休憩を始めた。
「モーブ、車止め頼む」
「おう」
直径2メートル全幅3メートルの、巨大整地ローラーを二台横に並べてあり、転がすだけで6メートルの整地が可能という巨大な整地ローラーの前後に、モーブが土を盛って車輪止を作る。
「あぁ〜まだまだ遠い……。誰ですこんな馬鹿な計画を立てたの」
人型に戻った龍雄が、ブチブチ文句を垂れる。
「誰ってそりゃあ」
龍雄とモーブが俺に顔を向ける。
「わかってて聞くなよ」
そりゃ、こんなの計画するのは俺しかいねえよ。
「正直、疲れはしないんですけど、これを引いてる自分が馬か何かにしか、思えないんですけど」
「最初は車型にしようかと思ったけど、それだと武器に転用される恐れがあるし、車輪を回すギヤで大掛かりになるから、やめたんだ。もちろんエンジン出力も足りない」
「つまり、車型でも結局動力は俺なんですね」
動力関係なくロードローラーは質量兵器であり、龍雄なら知っている可能性があったので振り回しにくい形にしたのだが、この様子だと知らないのかもしれないな。
「ミニショベルや車で引くにも出力が足りない。多数の車両では押せないから、当然引くだろう?そうなると死人が出そうだから、他に方法が無いんだ」
「死人⁈」
「あれだよ、学校にもグラウンド用の整地ローラーがあったろ、アレの正しい使い方は、引くのではなく押すんだけど知ってたか」
「え?」
「あれな、重いからって生徒数人で引いた結果、転んだ一人がひき潰される事故が、起きてるんだよ。まあ俺らの世代でも、とあるアニメの中で引いていたからか、大多数が引くもんだと思ってるし、名称もローラーではなくコンダラなんて呼ばれてたよ。割と最近のアニメでも、あれを引いてるみたいだけど、本当は危険だから押すのが正しいんだよ」
「いや、そんな道具は見たこと無いですけど」
そっちかよ。
「と言うか、俺にそんな危ないもん、引かせているんですか」
「昔のロードローラーは、馬に引かせてたから。あれだよ、馬車と同じように確り固定されてるから、中学生と違って転んでも轢かれるような構造じゃないよ。速度を出しすぎてドリフトや横転でもしない限り、問題ないだろ」
車で引くと、どれほど確り固定しても、慣性だか惰性だかで止まれず、事故りかねないしな。
「やっぱり馬扱いじゃないですか」
「他に動力がないんだから仕方ないだろ」
「で、道のために整地してるのはわかりましたけど、何で囲いがあって真ん中が凹んでるんです?仕切りの向こうは帰りに整地とか言いませんよね」
道の整地は海へと続く、川から少し離れたところで行っている。今整地している部分の脇には、幅10メートル、深さ3メートル程の溝を作って道と並走させている。そして溝の反対側も今作っている道と同様に、整地する予定だ。
「今、平にしている部分は道だな、そして一方通行だ。こうして俺が召喚送還で障害を取り除き、砂利をひいて龍雄のローラーで転圧して、砂利道を作る。中央は水路にして、川船を使えるようにする。船は自走でもいいし、道から馬などで引いてもいい」
中央の溝は、川船用の水路であり、エルフやドワーフで手の空いている者に手伝ってもらい、魔法で作成している。水路と言っても堀に近いもので、できる限り緩やかな流れにする予定だ。砂利は別の場所で集めて、天翔壱式の重量物投下口とゲートを使って爆撃機の様に上から撒いている。
「へえ」
「知ってるか?昔の運送を研究した学説では、陸は馬一頭に人ひとりで、米俵2つ。河川で小型川船を使うと一人で米俵45が運べるという記述があるんだよ。まあ、上りの場合は帆や陸から引くなどの方法で船を進めるので、下りよりは遅いけどな」
蒸気機関が発明される以前の川船は、帆を使うか漕ぐか陸から縄で引くかになる。昔の日本では、多くの原料などが川船で、川下の街へと運ばれたが、小売は方方へ運ばれるため陸路で行われた。
帰りの川船は少量の荷とともに、船頭が船を引いて川べりを歩いて逆上るか、船で漕いで戻っていくスタイルだった。この場合に、馬が使われないのは馬が船に乗らないためだ。どうしても馬で引くなら、川下の街で馬と世話人を手配しなくてはいけない。それでは利益も大きく失われるだろう。
川船に動力を積むにしても、外でガソリンエンジンというわけに行かないし、蒸気機関も案外構造が複雑で、今の技術じゃ作るのも大変だ。原油が見つかって精製出来たなら、蒸気機関よりも、焼玉エンジンか石油発動機を開発をした方が良いくらいだよな。
焼玉エンジンは明治時代の末期から小型の船舶に搭載されるようになり、そのエンジン音からポンポン船と呼ばれた。戦前の漁船によく使われ、構造が単純で電気を使わず、点火プラグやキャブレター噴射機構も不要、エンジン寿命は短くなるが底質重油でも動く。
石油発動機も同時期に普及した小型エンジンで、焼玉エンジンよりも構造は単純で、メンテナンスが楽らしいが、キャブレター、点火プラグやマクネトーなどの、電装が必要なので色々と難しい。
小型焼玉エンジン1気筒の最大出力は、およそ30日本馬力だったという。この馬力という単位は、馬一頭の仕事率を表す単位で、一馬力が馬一頭の最大パワーではない。しかも、英馬力や仏馬力というものがあり、世界共通の単位ではない。共通単位はWなので、日本では750Wを一馬力としている。
いっそブリキのおもちゃの方の、ぽんぽん船をスケールアップしてみるか?
おもちゃのぽんぽん船は、○の上のポニοに登場していたが、あのアニメの後何かの企画で実際に人が乗れるものを作ったと言う話だし。効率とか気にしなければ作れるような気がする。
「そんなに違いがあるんですか」
周囲にいたエルフたちも声を上げる。
「エルフが使っていた川は、浅いし蛇行しているし、川船も今ひとつだったからな。だが、
この道は海まで伸ばすから、いずれ海を越えた他の大陸への道にもなる。このくらいの運搬能力がないと駄目だろう」
「途中に作った、高床式のコンクリートの、小屋はなんですか」
「あれは休憩所だな。野盗の住処になっても困るが、周囲に柵を作れば獣に対して、少しは効果があるだろう。馬小屋は作れないが、柵の中に入れれば多少はな。あと、この小屋はコンクリートじゃなくて、セメントブロックとモルタルな」
南町から南進した、このあたりの土地は、乾いた荒野とサバンナような草と低木が点在する不思議な土地だ。魔導兵器のエネルギーとして魔力を吸いすぎた結果、このような荒れ地とそこからの回復途中の土地が、混在する状態になったらしい。大型の魔物は魔力を好むので、ここいらにはあまり見かけないが、狼程度は徘徊しているので、夜営時の危険対策として、休憩所を作ったわけだ。
「頑丈さはどうなんだ?魔力で固めた土壁ぐらいの、強度はあるのか?」
「いや、無いな。魔力を込めた土壁とか、正直俺には理解できない強度だぞ。セメントブロックやコンクリートは、鉄筋で骨を作ってやらないと意外と脆いし、それでもミニショベルや車をぶつけたら壊れる」
最近、ポルトランドセメントと、ローマン・コンクリートの材料を集め、ポルトランドセメント的な物を試作したので、ホムセンのポルトランドセメントを解禁しようと思う。ローマン・コンクリートは、古代ローマで使われたコンクリートで、現代で一般的なコンクリートの材料にされる、ポルトランドセメントとは別物だ。水1消石灰2火山灰4で、ローマン・コンクリートが作れるらしいが、この他に、凝灰岩を砕いたものを砂として使っており、砕石は拳サイズ以上の大きさの物が、義務付けられたという。
一般的な現代コンクリートは、50年から100年の寿命だが、ローマン・コンクリートは数千年保つという。ローマのコロッセオにも、ローマン・コンクリートが使われており、コロッセオが現在も残っているのは、そのおかげといわれている。だが、大きな欠点として、固まるのが遅いという特性があるため、建築工期が非常に長くなる。そのため、古代ローマ以降は石材が、建築の主役となり、現代のコンクリートが生まれるまで、コンクリートの建物は姿を消すことになる。
しかし、この世界で初のセメントを、使った建築物の登場は、石材の少ない地域では重宝するだろう。砦を作るなど防衛や橋頭堡には使えるが、うちならどうとでも出来るだろうから、気にする程ではないしな。
「そうなんですか?俺は普通に、魔力土壁を壊せるんですけど」
「お前、例外だから。硬い金属はどうかわからないけど、ギネスで認定された世界一硬い食材のかつお節だってバリバリ食えそうだし」
「いや、食ったことないですから。こっちでかつお節を見たことも無いですし」
「現在製法調査中だ。カビ付けとかよく調べないとな。まあ作るにも時間の掛かる食材だから、気長に待っててくれ」
「かつお節ってイノシン酸でしたっけ?煮干しじゃ駄目なんですか」
「煮干しは、含まれる油が酸化しやすく、カビなどが生えなくても品質は劣化するから、保存がなあ。冷蔵庫や密閉容器がないと、2週間持つかどうかだよ。かつお節はきちんと乾燥した製品なら、湿気と虫食いに注意すれば、長期保存可能らしいし、歴史的にもかつお節の方が古くから存在するから、そっちの方がいいかと思ってな。でも街道が整備されれば、日持ちしない食材を含め各地の産物も、流通できるようになるからそれを後押ししてやるのもいいな。そうすれば今は小さな村だって、大きく発展するきっかけになるかもしれない」
「折角作るんですから、この道が役に立ってくれると良いですね」
この付近は戦争から逃れるため、隠れ里となった村が多く、横のつながりが非常に少なく、孤立した村や種族は、さながら前世の限界集落のようになっている。
今はまだ何もない道だけど、いずれこの道が、各地で暮らす人々を結びつけ、新しい景色を見せてくれるだろう。毎日多くの荷馬車や船が行き交い、各地の特産品が運ばれ、海辺の村の食卓にも季節の果物が並び、収穫を祝う祭りでは誰しもが着飾って踊る。俺たちが守る限りこの道の先には、そんな世界が広がっていると俺は信じる。
少々行き詰まってしまいましたので、しばらく休止いたします。




