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114 夜の街角に灯る明かり(後)


「いや〜あのラーメンってやつも美味かったな」


すいとんを食べてから数日後、新しい屋台が出ていたので早速食べてみた。それはラーメンという物で、小麦を練って作ったという麺というものが、澄んだスープの中に沈んでいた。


「チャーシューっていう肉が絶品だったな」


相棒もラーメンが気に入ったようだ。だが、店主がオーク族でチャーシューの元となったツノシシとオークが、種族的に何の関係ないと聞かされたのにも、驚いたね。


「すいとんのモッタリ感も悪くないけど、あのスッキリした味わいのスープが良かったな」

「最近はどんどん新しい屋台ができて、普通の飯屋が慌ててるらしいじゃないか」

「だろうなあ。大して美味くもねえのに、値段ばかり高いんじゃ、客も離れるってもんだぜ」

「酒も薄くて不味いしな」


そんなたわい無い話をしながら、夜道を歩く。本来、夜というのは灯りもなく足元が不安な物だが、最近ダンジョン探索者向けに販売された、がん(どう)という器具を手に入れたので、俺たちの足元は明るく、歩くに不自由はない。このがん灯、二つの輪の中にロウソクが立ててあり、それを金属と木でできた筒が囲っている。燭台と違いどんな方向に向けても、ロウソクが倒れないという優れものだ。


「お、何だあの明かりは?また新しい店か?」

「いや、あれは屋台じゃねえぞ」

「何か鎧着たのが立ってるけど、衛兵詰め所か?」

「門でもないのに、こんな時間に詰め所が開いてるのか」

「何か事件でもあったのかな」


気になった俺は声をかけてみることにした。


「今晩は、衛兵さん。何かあったのですか」

「やあ今晩は。今のところ何もありませんよ?」

「え、じゃあ何故こんな時間に……」

「この詰め所は、門とは別に町内の、治安維持のためにあります。何事もない方が良いのですが、何かあったらすぐに来てくださいね。昼夜何時でも開いてますからね」

「それは、ありがとうございます」


俺たちは、詰め所の衛兵さんと別れ、街を歩く。いやあ、驚いたね。衛兵というのはどこでも偉そうにして、権力者に媚を売るばかりで、町の者の事なんてこれっぽっちも、気にしてないと思っていたよ。


「やっぱり、この町は良いな」

「そうだな、俺考えたんだけど」


その時、後方から強い光と馬の駆ける音が聞こえてきた。


「何だ、馬?……違う、ありゃケンタウロスだ」


後方から走って来たのは、鎧を装備したケンタウロスで、頭に強い光を放つ物を付けている。恐らくあれは魔道具なのだろう。


「何だろう。詰め所の方から来たみたいだな、今度こそ事件なんじゃないか」

「そうかも知れないな、見に行ってみるか」

「怒られないか?」

「遠目に見るだけなら、大丈夫だろ。ちょっと追いかけてみようぜ」



ナラ公国会議室。


「お館様、我々にも是非」

「……わかった。だが少し時間をくれ」


予想はしてたが、やっぱりなあ。さてどうしよう。

ケンタウロスの仕事か……あるっちゃあるんだよ。あるけど、イメージが悪いんだよな。馬の体を活かすって、馬のように扱っているようにしか見えんから、リヤカーや人力車なんて引かせたら、奴隷にしてるみたいだよな。後は、走れるなら伝令か?それとも郵便屋?識字率が低いのに需要があるかなあ。それと、小型種族か。リリパットは軍で偵察や位置情報共有ができるし、老いてまで働こうって連中は居ないから、気にする必要はないな。レプラコーンは竹製品や、革製品を作ってもらえばいいか?つか、靴をちゃんと一組完成させてくれる方が良いんだが。後はノッカーか。ノッカーって坑道でコツコツ叩いてるだけだよな、仕事してるんか?



「仕事の件だが、ケンタウロスは、南町で仕事をする前提で、話を聞いてくれ。知っての通り、俺の街ではスマホの使用を許可しているが、南町では禁止している。その南町でやってもらいたい仕事だ」


スマホの機能には所有者に応じた制限があるが、一般向の場合はゲート機能も公共のゲートポイントだけになっている。これらは、街の中の数カ所にあり、街なかの移動や、外部からの緊急帰還に利用されている。例えば森で怪我をした場合などは、即座に街へと戻れるようにしているわけだ。しかしこれは俺の街だけで、南町までは広めていない。南町は族や不埒者が紛れている可能性が高いから、悪用されないための措置だ。


「南町の町中に詰め所を設けるので、ケンタウロスには救急隊員をやってもらいたい」

「救急隊員?何ですかそれは」

「救急隊員とは、例えば火災や事故、急病人などの連絡を受けた場合に、速やかに現地に移動して、怪我人の搬送や応急手当を行う者だ。南町においては、火災や犯罪時等の場合に、現地にそれらに対するスタッフを送り込むための、ゲート要員も兼任してもらいたい」

「具体的な動きはどうなりますか?」

「門を守る現在の衛兵詰め所以外に、町中の治安維持を目的とした詰め所を作る。緊急連絡はこの詰め所で受ける。そうしたら、ケンタウロスを最低一名、詰め所に派遣し災害や事故事件であれば、先ずケンタウロスに現地へ行ってもらう。ケンタウロスは、現地確認後必要があれば応援を要請し、ゲートで迎えてほしい。同時に怪我人や病人がいれば、速やかに対処してくれ」


俺が考えたのは、交番と消防署を合わせたものだ。普段から、交番代わりの詰め所に衛兵を常駐させ、災害や事件、病人が発生した場合の拠点とする。ケンタウロスは本部に複数人常駐してもらい、先ずは詰め所にゲートで移動して、そこから現場に走ってもらう。彼らは医学や薬学に通じているため、早期の救命活動が可能だ。ただし、必要に応じて薬や診療費用は、患者からもらうことになる。そうしないと“詰め所に行けば、ただで治療してもらえる”という間違った認識をされるからだ。日本でも、タクシー代わりに救急車が、呼ばれるなどの問題が起きているから、こっちでは尚更注意する必要がある。


「実に素晴らしい案です、是非やらせてください」



夜の道。

ケンタウロスを追いかけ数分、前方に赤い光が見えてきた。


「あれは火事じゃないか」

「屋台が燃えてるみたいだな」


俺たちがたどり着いたところで、消火活動が始まった。


「あれはエルフか」

「すげえ、エルフが魔法で火事を消すんだな」

「ケンタウロスは怪我人の治療をしてるぞ」

「すげえなこの町」


しばらくして消火活動は終わり、火事を出した屋台とその店主が、衛兵に連れられていった。


「しかし、やっぱり屋台は燃えたりするんだな」

「それは違いますよ」


俺が、ポツリとこぼした声に反論する声が上がった。

声のした方を見れば、見知った顔がある。


「あれ、すいとん屋の……」

「いつも、ご贔屓にしていただき、ありがとうございます。あの火事を出した屋台は許可を受けていない無断営業だったんですよ」

「許可⁈」

「ええ、売り物によって、屋台の構造や食品が安全かを、検査されるんですよ。うちみたいに火を使うところは、窯の構造や燃料の管理もチェックされて指導を受けるんです」

「ホントかよ」

「ほら、ここにあるフダを見てください、このフダは公国から許可を受けた屋台にしか、付いてないんですよ。屋台は自作でも何でもいいんですけど、許可が降りなきゃ営業できない決まりでね、さっきの屋台は安全許可が降りてないのに、火を使った結果ですよ」

「はぁ〜〜知らなかったなあ。屋台やるのも大変なんだな」

「許可に金がかかるわけじゃないですし、ああやって燃えちまったら借金しか残らないんですから、ちゃんと指導を受けた方が、結局得なんですけどね」

「ところで、公国の許可って事は、この町が公国の傘下に入ったってのは本当なのか」

「本当ですよ、そもそもダンジョンは、公国が運営してますからね。さっきの救急隊も公王様の発案で、組織されたんですよ」

「俺、さっき考えたんだけど、村の両親たちをこっちに呼ぼうと思うんだ」

「……確かに安全だし、仕事もあるけど、切り開いた畑を捨てさせるのか?」

「だけど、こっちに来た方が、絶対暮らしが楽だぜ」

「確かにそうだけど……」


歩き去る二人を見送りながら、鉢巻をしたエルフの店主が呟く。


「農民の移住ですか、これはお館様に相談しましょう」



「と、いうことがありまして」


すいとん屋からの報告を聞き考える。今日は農民関係ということで、コボルト族から何人かにきてもらっている。


「規模にもよるが、できなくはない。うちで新しい場所用意した方が、絶対に効率いいし、収穫量も違う。うちとしても食料生産量が上がるなら、農民は是非欲しいが、呼び掛けて来てくれるだろうか」


どんな切り開き方をしたか知らないが、この世界の開拓地なんてたかが知れているから、うちに来てくれた方が、農民も得だとは思うが、問題はそんな美味い話が、信用されるかだ。


「先に畑を作って、農民に見せてはどうです?我々にかかれば、畑作りもたいした苦労ではありませんし」

「何でしたら、現在の開墾地から土を、持ってきますか?まあこちらより良い土でしたらですけど」

「どうやって?」

「我々が掘り返すなりして、おやかた様が送還すれば良いのです。地中は駄目でも掘り返して地面から浮けばできますよね。ドワーフの家もそうやって土台ごと運びましたし」

「………その通りだ。もし持ってきたいと言われたらそうしよう。では族長、陣頭指揮を頼む」

「お任せください」


町の酒場。


「見たか、外の黄色いの」

「見た見た、あれは何だ?何やってるんだ」

「あれは、公国秘蔵の魔道具で、土を掘り返して畑を作ってるらしいぞ」

「あの広い土地をか?水はどうするんだ」

「それも、畑の区画割と同時に水路を引いてくれて、後は自由に水を使っていいらしいぞ」

「自由にって、誰が耕すんだ?」

「ああ、何か大々的に農夫を募集するとかで、住む家も提供してくれるらしいぞ」

「おい、それは体のいい、農奴じゃないのか?」

「バカ言え、この町のバックは公国だぞ、犯罪奴隷以外認めないのに、農奴を集めるような事する分けないだろ。聞いた話じゃ、最初のニ年は町が給金を保証してくれるんだと。だからその二年の内に畑で生活できるようにすれば良くて、しかも、耕した分の畑が、そいつのもんになるんだとよ」


訳知り顔で、畑について大声で話す男、正体は黒足の部下である。犬ひげを落として耳を隠すために、革の頭巾をかぶった冒険者風の姿をしている。族長発案の農民勧誘計画の一環として、農民の誘致計画を噂話として流す事で、誘致活動をしているのだ。この世界にはテレビもラジオもないし、新聞も識字率の低さにより普及していない。情報は噂話によって広げるしかないのだ。


「あれ、聞いたか」

「聞いた。俺、前から知ってた役人の所に聞きに行ったんだけど『役場に行けって』追い立てられてさ、言われた通り役場に行ったら、噂は本当だって言われたよ。すげー親切な対応だった」

「マジか。って、役人どうした?」

「クビだとさ。アイツ袖の下が過ぎたんだろ」

「いいねえ、日にひに町がきれいになるな。それなら一度村に戻って「親父たちを連れて来よう」」

がん灯は、江戸時代の懐中電灯(電気ではなくロウソク)です。

御用提灯と違って、灯りが前方にしか出ないため、顔を隠すために盗賊に利用されたとも、捕物で追う側が使用したとも言われます。


次回予告。

115 急ぎすぎた缶詰

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