112 懐かしき時代を今ここに
カーン カン カン
「ばるす」
ジバババババ
「うわ~、目が、目がぁ~」
コンコン、ギュイーーン
「ドラゴンの目って焼けるのか」
ベビーサンダーで、バリを削りつつ尋ねる。
「振っておいて、まさかのリアクション!」
「常にリアクションが、貰えると思ってるようじゃ、芸人は務まらないぞ」
「いや、芸人じゃ無いし。と言うか、溶接機使ってなに作ってるんです?あと目が焼けるって何です?」
「なにって、見ての通りだよ。それと溶接の光を直視すると、目に悪いのは日本じゃ常識だぞ」
カスを掃きつつ答えるが、見ればわかるだろうに。
「眩しかったけど、別にどうということはないですが?その作ってるのは…トロッコじゃないから、カマドつき台車?」
「なん……だと、……悲しいけどこれ、世代差なのよね」
「???」
事の始まりは一週間ほど前のことだ。
「おかげさまで母も仕事ができて、喜んでいます」
「そうか、それは良かった。それで、今日はどうしたんだ」
竹製品作りが始まってしばし、再びノブタから相談を受けた。
「実はですね、引退した年寄の男衆が、なにか仕事を斡旋してもらえないかと、言い出しまして」
「狩りや衛兵じゃ駄目なのか」
「まだまだ普通に体は動きますが、荒事となるとやはり若い者には、ついていけないと言いまして」
「オークは働き過ぎじゃないか?」
「そうですかねえ?」
「希望はどんな仕事なんだ」
「マイペースに一人でできる仕事がいいのですが、反面で人との接点は欲しいそうです」
つまり、自由業やフリーランスが良いけど、寂しいのは嫌と………。
「客商売なら最低限の束縛はされるぞ?」
「それは仕方ないです」
「ならちょっと考えてみるよ」
そして俺は、一晩じっくり寝ながら、この件を解決する策を考え、ひとつの策を思い付いた。
「邪魔するよ〜」
「これはこれは、お館様。ようこそお越しくださいました」
「南町の荷車について聞かせて欲しいんだけど良いか?」
「荷車ですか」
「ああ、南町の荷車の、素材や構造を知りたい」
「多くは木製ですが、鉄の荷車もありますよ。ドワーフ製の方が軽量ですね。小さいものなら、幅一メートル弱で長さも二メートルないぐらいですか。大きいのは、軽トラの全長くらいありますよ」
「それは、人力用か?馬車用か?」
「両方ありますが、町のなかでは小さい方が、取り回しが楽ですね。それとドワーフ製は人力用も魔力強化で金属を薄くできますから、見た目よりはずっと軽いです」
「それじゃ、店のリアカーの車輪を馬車風にしたら、南町でも違和感なく使えると思うか?」
「フレームがパイプだと、見る者が見れば不自然ですが、丸棒ぐらいなら平気でしょう。何か考えがおありですか」
「ああ、ちょっと作りたいものがあってな、こんなのや、こんな感じの物なんだがな」
スマホで古い写真を見せる。
「これは箱馬車ではないですよね」
「低資金で開店できる移動式の店だな。南町や他の町で売れたらと思ってる」
「なるほど、露天も常設では敷地料がかかりますから、移動式で安くできれば、出店も増えそうですね」
「そうか、普通は地代がかかるのか、ありがとう。参考になったよ」
「いえ、いつでもお声がけください」
いつもの商人……(アーキンドという名前らしいが、この世界の言葉では商人をあきんどとは言わないので、単なる偶然だろう)の店を後にして、店へ……ホムセンへ向かう。ドルトンに電話をいれて、鍛冶屋を紹介してもらい、リヤカーを見てもらう手配をして、次にヨルンへと電話する。
「ヨルンか、ちょっと探して欲しいものが、あるんだけど頼めるか?資料はメールで送るから、ダンジョンで探して欲しい。……ああ、人集めは任せるよ、とりあえず軽トラの荷台に乗る程度でいいよ」
さて次は……。
店内を歩き、目的のものを探す。
うん。この釜と煙突でいいかな。
そして、俺のリヤカー改造が始まった。完成したら鍛冶師に投げて、この世界風にアレンジして作ってもらう。
龍雄のやつは見学で、俺が呼んだ訳じゃないし、進んで手伝いをしてくれているわけでもない。食わずに生きられるから、働く必要はないという。少しはオークを見習えと言いたい。
「若干武骨ではあるが、機能に問題はないはずだ。よし、この線で仕上げよう」
ジジジジジバババババ。カッコンカッコン、ギュイーーン、ギュウーーン。
「煙突はここで……扉を付けて……吸気を……」
「お館様~~頼まれた物を、持ってきましたよ」
ヨルンと先日の後輩が台車にのせた袋を持ってやってきた。
「おお、ありがとう」
「これは、何を作ってるんですか」
「これか、これは移動式の店だな。持ってきてもらったそれも、これに使うんだ」
「移動式の店ですか?」
「ああ、今の時期にちょうどいい店だな。あ、持ってきてもらったそれ、きれいに洗って煮沸してくれるか」
「これを?」
「そう、それを煮沸して乾かしてくれ。終わったらそこのかごに、入れといてくれ。それと明日の午後に売り物の試作するから、よかったら来てくれ」
「はあ……」
翌日。
「ウマ!」
「これは、いつから売り出すんです?」
「いや、試作したけど俺が売る訳じゃないから。オークのじいさんたちに、声をかけるつもりだけど、他に希望が有れば、検討する」
「それなら、自分にも預けてもらえませんか」
「キール?」
ヨルンの後輩で冒険者のキールが、なんか乗り気だ。
「今ポーターやってるやつで、冒険者に向いてなさそうなのが、何人かいるんですよ。そいつらにやらせたらどうかと思って」
「だからって、冬だけの仕事じゃ困るだろ、夏はどうするんだよ」
ヨルンが懸念を口にする。
「売るものに会わせて、夏向きの屋台も作れるぞ。なんなら通年でやれる商売でもいいし」
「え、そんなのあるんですか」
「あるある」
焼き鳥などの串焼きなら、いつでも売れるだろうし、パンやクレープと合わせれば、立派な軽食屋になる。
「でしたら是非一台お願いします」
チリンチリンチリン
南町の通りに鐘の音が響く。
「ん、鐘の音?あの荷車か?」
「おい、あの荷車煙が出てるぞ、火事じゃないのか」
チリンチリンチリン
「い〜し、や〜~きいも〜お〜、焼きたて〜え〜、やき〜いも。さあいらっしゃい、ほっかほかの、焼き芋だよ~~」
チリンチリンチリン
「甘くて美味しい、ほっくほくの焼き芋だよ〜。い〜し、や〜きいも〜お〜、焼きたて〜え〜、や〜きいも〜〜」
リヤカーを引く少年が、口元に筒をあて声を張り上げ、俺が教えた売り文句を言いい、合間に鐘を鳴らす。このリヤカーの焼き芋屋は俺が子供の頃に、小さな鐘を鳴らしながら住宅街を流して売っていた、おじいさんの焼き芋屋を参考にしている。軽トラの焼き芋屋も普通にあったが、経費の違いからかリヤカーの方が、甘くて大きい芋だったので人気があった。見かけなくなって、しばらくした頃、自動車との接触事故で引退したと噂話で聞いた時は、がっかりしたものだ。
「石焼き芋?石焼き芋って何だ」
「さあ?石焼き芋って言うなら、石で芋を焼いたんじゃないか」
「そんなの美味いかあ?それに芋を焼くなら石いらなくねえか」
「だから、俺も知らないよ。あ、あれ、客じゃないか?」
「客?…女と子供しかいねえな」
「だけど、ずいぶん集まってないか」
「もしかして美味いのか?」
「子供が買えるなら安いんだろうし、ひとつ味見して美味きゃ、土産にするか」
「…そうだな、甘いもんなら子供が、喜ぶかも知んねえな」
「お〜い、あんちゃんひとつくれ」
道端にいたおっさん共が、リヤカーに引き寄せられていく。
「はい、お買い上げありがとうございます」
少年はぶ厚い皮手袋をはめると、リヤカーの荷台に据え付けられた鉄箱の蓋をあけ、箱のなかをかき回す。鉄箱からは、じゃらじゃらがらがらと音が聞こえるが、蓋は小さく中の様子は少年にしか、わからないだろう。
「お客さん、開店サービスで大きな芋にしておきますよ」
少年は取り出した芋を薄茶色くなった竹の葉で、くるりとくるんでおっさんに渡す。
「ん?落ち葉でくるむのか」
「落ち葉と言えば落ち葉ですけど、これは竹って言う植物の葉で、食べ物をくるむのに向いているそうですよ」
「へ~」
男は芋を割って片方を、連れに渡す。
「あちっ、おい、そっちの包みのある方くれよ」
「俺だって、熱いのは嫌だよ」
「あ、もう一枚どうぞ」
もめ始めた二人に少年店主は、もう一枚の葉をだす。
「おお、助かる。お、甘くてうまいな、よし俺にも二つくれ」
「ありがとうございます」
少年は芋を手早く竹の葉でくるんで、紐で縛って客に渡す。
包みには俺が用意した、真竹の葉を利用している。真竹の葉は乾燥しておけば傷むことがなく、使用時には洗って水気を拭き取るだけで柔らかくなる。前世ではちまきの包みや、おにぎりの包みで目にすることが多かった。
同じように食材を包む物としては経木という、杉や桧を薄く削り出した物があり、こちらは肉屋や魚屋などで生の切身を包むのに使われた。現代では発泡トレイにのってラップをされた肉が主流だが、昔は肉屋で何をどれだけといえば、店主がそれに合わせて切り分けて、経木に包んで売ったものだ。(経験とカンで切るので多少の誤差があるが、実測すると注文より気持ち多い)
例えるならば、経木は天然のキッチンペーパーや、天ぷらの敷紙だろうか。程よく水分を吸ってくれ、食材の臭さみも消してくれるなど、食品の包みに適しているので、生産を検討している。
「ふっふっふ、サクラ大作戦、成功だな」
旧帝国も帝都も美味さに震えるだろう。
「サクラってあの、仕込みの連中ですか」
「見慣れない形式の謎の屋台だが、客が群がっていると気になるだろ」
「流石お館様。ですが、このような売り方をしても、よいものでしょうか」
「最初の人寄せだけだよ。実際美味いし値段だって、安いから許容範囲って事で勘弁してくれよ」
「真似をしてはいけませんか」
「ハッハッハ、商売は信用が第一だ、彼らにはまだ失う物も無いが、アーキンド商店であれば、失う物がどれ程になるか。それを承知でやるなら止めないが、悪徳商法として検挙はするぞ」
お前の案なのに捕まえるのか、というツッコミはさせない。何故ならここでは俺が法だからだ。前世で何商法だか忘れたが、サクラが煽って客を乗せて、高額商品を売りつける商法が問題になってたのは知っている。でもまあ、焼き芋の一つや二つで問題なんてあるまい。
「検挙するなら、先に止めてくださいよ。いえ、もちろん店の看板に泥を塗るマネはしませんけども」
「夏になったら氷菓子や、冷たい飲み物を売るのもいいだろうな。釜を積んでいるから、肉を使った軽食屋も出来るから、以外といい稼ぎになるぞ」
焼き芋の屋台ばかり作っても、飽きられて共倒れするだけだからな。他の屋台も交えれば、客も選択肢が増えるし飽きられることも少ないだろう。それに、俺としては本命が別にある。
日本ではノスタルジックかもしれないが、こっちじゃあ最新の流行になるだろう。
次回予告。
夜の街角に灯る明かり(前)




