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111 バンブーバイク

「お館様、実は相談がありまして」

「そうだろうな。まあとりあえず座ってくれ、今昼飯を出す。ノブタは米大丈夫か?」

「はい、好物です。頂きます」


ノブタから時間を作って欲しいと言われ、昼時に我が家へ招待した。


「今日は釜飯風、筍ご飯なんだ。ダンジョンで収穫してきた筍だから、この世界初かな」

「わ、凄いですね。ご飯の中にいろいろな野菜や、鳥肉が入ってるんですね、チャーハンみたいな料理ですか?」

「いや、これは生の米から炊いていくから、ピラフの方が近いかな。米を炒めないから風味は違うけどね」


「それで、どうしたんだ」


もぐもぐ


「実はですね、今オーク族の女性の中で、仕事が欲しいという要望が、高くなってまして」


パクパク


「…すまない、生活が苦しかったなら、早く言ってくれれば…」

「あ、違うんです。収入ではなく、暇を持て余しているのです」

「そうなのか?」


ズズ


「はい。以前お話した通り、オークの生活は食料確保の旅でした。これは男も女も老いも若きも、皆一丸となってのことでしたが、今の安定した生活の中で、子育てが終わった女性が、することが無いと言ってまして」


ガツガツ


「そうかあ~オーク族は勤勉で働き者だしなあ。暇になると辛いか」


ポリポリ


オーク女性の就職は以外と難しいんだよな。力があっても女性だから、荒事は苦手な人が多いし、普通の店員は巨体ゆえに制限も多い。


「以前どうしてたんだ」

「食料探しに同行して芋を掘ったり、草でかごを編んだり、毛皮で服を作るとかですね」

「ふむ」


俺は考えつつ、飯を食べる。うん、筍うまい。


……あ、


「わかった。一度新しい産業の説明会を開くよ」



「お館様、母です」

「はじめまして、ノブタの母でノブコと申します。いつも、息子がお世話になってます」


ノブタから母と紹介された女性は、非常に穏やかな感じのオークさんだった。


コソッ「なあノブタ、お袋さんの名前も、キッドが考えたのか」

「そうですが、何か?」

「いや、お袋さんがどうこうじゃないんだ、リリパット長老の親父さんが気になってな」


ノブコって初期バージョンの名前から来てるよな。性格も初期バージョンに近い感じだから、その方が自然だけど……と言うことは、長老の親父さんは、結構な年齢で相当な漫画好き日本人だったのか?


「さて、今日は新しい産物について相談したい。先ずはこれ、この釣り竿は、竹と言う植物でできている。竹というのは、この写真にように大量に生え育つし、凄く成長が早い。大型の種になると、20メートルにもなるし、一日で1メートル伸びることもある」

「それは凄いですね」

「なので、木と違って竹製品は材料に困らないが、放置するととんでもなく竹が増えるという欠点がある」

「なるほど」

「で、竹製品だが、先ずは竹のかごやザルだな。竹は食品の水切りや容器などに使えるし、前世では旅人が、竹の亜種である笹の葉で、食品を包んで持ち運んだりした。また独特のしなりを利用して、椅子やベッドを作ったり、敷物に利用したりもしたな」

ネットで拾った竹製品の画像を、皆に見せてみる。


「かごは私たちでもできそうです」

「色々な大きさで、箱を作ってもらえれば、木箱とは違った使い方ができますね。これなら売れますよ」


ノブタの母が作れそうだと言い、商人が売れそうだという。


「笹というので包むのは、何か意味があるのですか?」


ヨルンの後輩冒険者の…誰だっけか?

隣に女性が居るから、その子の仕事探しか?


「笹の葉からは揮発性の成分が出るんだが、その成分には腐りの元になる物の、繁殖を抑える効果がある。だから新鮮な笹で食品を包んでいたんだ。まあ、そうした効果は葉に接している表面だけだけど、他の物で包むよりは保存に向くだろうな」

「なるほど」


笹の葉の抗菌効果はフィトンチッドやサリチル酸の効果によるものだ。ただ、とある実験結果では、単純に包んでいるだけでは食品に浸透しないため、表面の効果しかない。昔からおにぎりを笹でくるんでいたが、これは笹の殺菌効果だけではなく、塩の効果があってのことだ。菌が繁殖するには栄養や水分が必要だが、塩や砂糖と結びついた水分は菌が利用できないため、繁殖が抑えられるわけだ。


「竹は中空なので、これをカップや水筒としても、利用していたな」

「お店のボトルが無い場所では便利そうですね」


この街ではマグボトルやペットボトルがあるから今更だけど、外なら使えるだろう。


「なるほど、工芸向きの素材なんじゃな」

「そうだな。だが家具や小物だけではなく、竹かごの応用で、魚をとる筌などもできるし、建築用の建材としても優秀だぞ、それにお前の好きなアレも前世で実用されてたし」


つまらなそうに聞いていた、ドルトンに意味深な答えを返す。


「アレとはなんじゃ?」

「前世の製品で、こんなものがある」

「ん?自転車なら知って…む、こ、このフレームは、まさか竹の自転車なのか?」

「ああ、竹フレームの自転車だ」



説明会を終えて、普通の工芸をする者、竹細工をしない者が帰り、ドルトンのような特殊なものを望む者と商人が残った。


いまだドルトンは食い入るように写真を見ている。

竹自転車は19世紀からあるが、当然ながら、最初に作られた竹自転車の前から、金属フレームの自転車が存在するため、最初の竹自転車は趣味的な物だった。日本では戦時中に金属不足から、自転車のハンドルなどを竹で代用することがあったが、それだけだった。

2000年代からは再び作成されるようになり、竹の持つ自然な風合いと、竹の振動吸収性が思わぬ人気を呼び、マウンテンバイク、ロードレーサータイプも作られるようになった。

環境への配慮から燃料を使わない自転車の有用性も認められ、木材と違い切ると成長が促進する竹は環境を破壊することがないし、壊れてもリサイクル可能とされている。驚く事に、耐久性すらそこらの普通自転車を上回る。竹自転車はアフリカの支援にも用いられ、アフリカで生産された竹自転車が欧州に輸出されるなどしている。その上、この竹自転車は火入してカットされた竹と、付属品一式がセットになった、竹自転車自作キットなる物が販売されており、日本でも購入が可能だった。



「これは、前世に実在した自転車だけど、この自転車は素材が竹だから、生産コストを大きく下げられる。俺の生まれ育った国は裕福だったから、普通に自転車を買えたけど、貧しい国では車の代わりに、自転車を使っていたし、金属の自転車を作る技術も原料も無いから、輸入する自転車はものすごく高価だった。そんな中で、この竹自転車が注目されていた。高額な自転車を自国で生産して、利用でき、生活も楽になると期待されている。そんな自転車だ。鍛治製品じゃないけど、どうする?」

「作る。だが、チェーンが作れんし、竹の接続が出来ん。タイヤのゴムも無い。どうすれば良い⁈」

「外部への販売を考えているから、店の物は極力使わないで欲しいが?」

「分かっとる。この世界の物でどうにかしたいんじゃろ、じゃから悩んどるんじゃ」


ドルトンたちは、今まで店のパイプ類を魔力で強引に加工して、フレームを作成し、自転車を作成していたが、店にある物の加工や流用をしていただけで、パイプ自体を作るには至っていないし、チェーンやベアリングも同じだ。元々この世界の金属加工技術は、剣や鍋等の鍛冶が略全てで、見も蓋もない言い方をすれば、ただ金属の塊を鍛える技術で、そこに精密さなど求められていなかった。


「一つひとつ考えてみよう。ゴムタイヤはしばらく無理だな。仮に作れても、そこまで自分で作りたいか?」

「む、そう言われるとどうかの。自転車の完成度としては残念に思うが、無理に自分で作るものでもないな」

「なら、先ずは車輪作りだな、金属フレームで強度を保ちつつ軽量化して、接地面に魔物の皮を巻いたらどうだ?前世のタイヤは永くそういう形だったぞ。ベアリングが無理ならリングで滑らせる加工だな」

「ふむ、鍛冶的師にも悪くないな」

「チェーンはタイヤと同じく魔物の皮を使ったベルトに歯車が刺さる穴を開けるのはどうだ。例を上げるとミニショベルのゴムキャタピラと駆動輪だな」

「それならチェーンが、ベルトになるようなものだな」

「そうだ。耐久性は落ちるかもしれないが、確実に動力が伝わるだろう」


魔物の素材なら、案外丈夫かもしれないし、この世界らしくていいだろう。


「竹フレームは、釣竿と同じで、火入れして加工するが、真っ直ぐだけではなく、まげも必要だな。接合部は金属で補強した上に、革紐をきつく巻いて麦漆で固める」


地球ではエポキシ樹脂が使われるが、ここにはないから小麦粉と漆で作る麦漆という接着剤で、固めるしかない。漆は紫外線に弱いのが不安だが、麦漆の接着力はボンドにも引けを取らない。熱で溶けるニカワよりはマシだろう。

ニカワはバイオリンなどで今も使われる、歴史ある接着剤だが、自転車には向いていない。


「ブレーキワイヤーは魔物の筋でどうだ?パッドは皮だな。フレームは金属じゃないが、シャフトなどの金属加工は旋盤やボール盤になるだろうな。必要に応じてボルトやナットの加工も必要だ」

「工作機械だけでは、売れんし普及もせんが、それで何が作れるかの手本があれば、自転車と共に広まるだろうな」

「竹自転車が普及すれば、お店の自転車や荷車を、外で使っても良いですよね?自転車が使えないと不便なんですよ」


じっと話を聞いていた商人が割り込んでくる。


「外では馬車があるんだよな?」

「はい。ですが馬は餌を食いますからね、維持費もかかりますし、自転車より高いです。ダンジョンで利用されている四輪自転車や、お店の自転車で荷車を引けば、手軽ですし一人で済みます。町中で馬は必要なくなりますよ。魔法の袋を使えば自転車だけで、町間移動できるでしょうし、移動時間的にも馬に負けません」

「最高速度は馬が上だろうけど、馬は水が要るから休憩場所を選ぶし、魔法の袋を使っても飼い葉や水の分だけ、運べる商品が減るからな。ただ、街道の安全確保は必要だろうなあ」

「ええ、お願いします」


あ、南町吸収したら、それも俺責任か…街道整備でもしてみるか。


「主要街道の整備からやっていこう。後で意見を聞かせてくれ」

「はい」

「くっくっく、これまで以上の大仕事じゃな。良いぞ、わしの作る自転車が世界を変えるのじゃな。良かろう店の商品に負けないものを世に出してみせよう」


ドルトンがニヤリと笑う。


「頼もしいが、のめり込み過ぎて、キャサラに怒られないように、してくれよ。とばっちりは嫌だからな」

「任せろ、お主とは一蓮托生じゃ」


それ駄目じゃん。

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