101 綿花と寝具の話
「お館様、頼まれていたものが、手に入りましたよ」
街を歩いていたら商人から声をかけられた。彼に頼んだのはなんだったろうか?
「そのご様子だと、何を頼まれたかお忘れですね」
商人が苦笑しながら、店の中から箱を取り出し、中身を見せてくる。
箱のなかには真っ白な綿。緩衝材か?そんなに貴重なものをたのんだっけか。
「これは、頼まれていた種ですよ」
「種?あ、綿花か」
「はい。そのようです。実は私も今回初めてみました。いやあ、初めはどんな恐ろしい植物かと思いましたよ」
綿花とは綿のとれる植物であり、その綿を紡いだ布が木綿と呼ばれる物だ。
また、怪我をしたときに薬をつけるために使用する、コットンといわれる綿もこの綿花から作られる。日本においては1700年過ぎから輸入されるようになり、各地で盛んに栽培され出した。それまで庶民の衣類といえば麻と呼ばれるものだったが、木綿が輸入されると一気に木綿の服が広まった。元が輸入品であるため、原料価格は決して安くなかったが、紡いで布を作り、これを服に加工するまでにかかる全てのコストを、麻製品と比較した結果、麻製品より安く作れることがわかった。そのうえ着心地よく、暖かであるなどもはや麻製品を駆逐する勢いでひろまっていったわけだ。農村部では家の周囲に小さな綿花畑が作られ、自家で着るための布が織られ、余剰は棒手振りと呼ばれる綿布専門の買い取り商人が、村を廻って買い集めたほどだった。
「恐ろしいって、ただの植物じゃないか」
「何をおっしゃいますか、草から美しい女性の姿を生やして、人に助けを求めて補食する魔物だって居るではありませんか」
「えーと、アルラウネとかか?」
「そうです」
ヨーロッパでは『インドには羊毛のなる木があるらしい』と噂され、その想像図として描かれた絵は、一本の木に何匹ものもの羊が実っている物だった。前世の感覚ではアホじゃねえかと、その当時の人々の頭を疑ったが、魔物がいるこの世界では事情が変わってくるのか。
そういや、中国にも妖木の伝説があって、美味しそうに実った果物を食べようとすると、実は妖木に捕食された人の生首が実っているんだったかな。
「そうか、ちゃんと説明しなくて悪かった」
怖がらせてしまったようなので、素直に詫びた。
「植え付けはまだ早いから、暖かくなってからになるけど、これはまだあるのか」
「はい、服の何着分かは仕立てられるように、仕入れましたのでまだあります」
「全部買い取ろう。これで製品が作れるようになったら、その時は輸出を相談する」
「是非、お声がけください」
次は、これの綿をとる繰綿機を作らなきゃいけないな。
繰綿機は綿と種を分離させる機械で、二つのローラーなどで綿を挟んで取るらしい。現物は見たことがないが、たぶん昔の洗濯機についていたという、ローラー脱水器のようなものだろうと考える。
「ということで、これのローラーがハンドルで回るようなものを、作ってくれないか」
店の商品である、モップ絞り用のローラーがついた、バケツをもってドワーフの木工家具屋を訪ねた。
「俺にも自作可能だとは思うけど、これでも色々忙しいからな。こ仕事だが頼む」
「構いませんが、これは完成した場合、どの程度売れるものですかな」
「いや、数という意味では、それほど需要は多くないと思う。でも、将来的に綿産業は大きく発展して、加工量は膨大になるだろうから、そういう方向に改良発展させていく必要はあるな」
「ほう、ではいずれ木工品だけでは、難しくなることも?」
「あ~それはあり得るね。その時は無理かい?」
「いや、面白そうなので、是非やらせてくだされ。強度でも決して金属には劣りませぬぞ」
「ん、よろしく」
次にクーナの店を訪ねて、紡績の相談をする。
「これが綿花ですか、でも言っちゃなんですが、この街で需要ありますか」
店の商品に加えてスパイダーシルクの製品があるから、布に困っていないのは知っている。
「街のなかでは、子供服とかかな。でも店を抜きに考えた場合、スパイダーシルク製品に片寄りすぎだと思うんだよ、もっと簡単で手頃な感じの輸出品がほしいんだ。店のものを売るだけだと、働く場所も限られるし、俺が国民を扶養しているのと変わらない。現状自力で稼げてる種族では、俺の持たない産物を持ってる、アルケニーがダントツだろ」
「そうですね、お館さまのお店で扱わないでいただけてますから、スパイダーシルク製品はアルケニーの専売品として売らせていただいてます」
店の機能で商品化すれば取り扱い可能だけど、本物のコピー品を売るようなものだからね。著作権料として売り上げの多くをアルケニーに譲渡するてもあるけど、一種族が丸々不労収入を得るってのも、きっとあとで問題になる。
「しかし、ここで作って外で売って、それで利益が出ますか」
「問題ないよ。出来上がった製品を国内で売っても、俺の店の商品やこの店の商品の都合で、たいした値段にはならないけど、外ではそれなりに値がつくだろうし、販売は小売りではなく、卸売りで考えてる」
うちの商人はよその商人と違って、輸送コストを削減できるから、利益も出しやすいだろう。
「それと、綿花は布団のわたとしても使えるから、寝具としての需要がある。都市部では暖房用の薪もそう安くないだろうから、寝心地がよくて暖かい布団は売れるだろ。前世の古い時代では、先祖たちは床や地面に、むしろといわれる草で編んだ敷物を引いて、着物という昼間着ていた服を、体にかけて寝ていたんだ。むしろは店で売っているござの簡易なものかな。着物は前あわせの布で、広げればそこそこの大きさだけど、決して暖かくはない。この世界とどれ程の違いがあるかわからないけど、似たようなものだろ」
畳は、むしろやござから発展したものなので、当初は敷布団の役割だった。平安時代などは重ね着していたので、外側を脱いで上から掛けた。それでも寒いときなどは、衾という着物に似た形状の上掛けを腰下に掛けて寝たが、これは上流階級に限った話になる。
現代のような四角い上下の布団セットが世に登場したのは元禄の頃とされ、それまでは基本的に脱いだ服と敷物というスタイルだった。
「一応毛布や毛皮などが使われますが、布団ほどよくはありませんね」
「だろ、それと、俺が子供の頃に、掻巻といわれる寝具があってな、さっきいった着物のように袖がついた布団なんだけど、これ、首もとも服の襟のように加工してあるし、体との隙間ができないし、なんと布団を着たまま、動けるのだよ」
「……ハイ?」
「だから、掛け布団があるだろ、あれに腕を通す袖があって、背中から布団を羽織って帯で絞めると、布団にはいったような状態で動けるんだよ…あ、そうだ、冬物の暖か半纏あるだろ、形はあれを超ロングなコートにした感じで、子供の頃はズルズル引きずる長さだった」
「それは…、便利?ものぐさ?よくわかりませんが、あまり見られた姿ではないような?」
「もちろん家のなか限定だよ、寝具だし。それでも、引きずって歩けば親に怒られたけどさ、でも小さめな物は子供を背負った母親が防寒着として、子供を包むように着ていた例もあるから、作りを工夫すればこの世界でも利用できると思うんだ」
ダウンジャケット何てものが、庶民に縁のなかった時代の話だけど、この世界でも水鳥の羽根となれば高価だから、多少重くても外の世界なら売れるはずだ。
後日、いくつかのサイズで掻巻が販売されたのだが、驚くほど好評だった。
特にケンタウロス族からは、非常に感謝された。これからは、馬体に布団を掛けて人体は掻巻というのが、標準になるとか言っていた。
今までは、どうしていたのだろうか。
かいまきは、ネット通販などで、今でも購入できます
なろうにて、ひっそり別作品を不定期でかきはじめました。
「昔は勇者と呼ばれてましたが、今は浮遊霊やってます」
全く違う方向性の作品として書けていけたらいいなと思ってます




