100 ゴブリン集落は順調…かな
「お館様、南町からの移住希望者が増えております」
定例会議でバラルから報告があった。
「移住希望?また商人か」
「いえ、今回は冒険者や町の工房で働くものなど様々です。どうやら南町は景気がいいので、働く上では問題ないらしいのですが、住むとなると治安面に不安があるとか。それと子供の教育が充実していると言う噂もどこからか漏れたようです」
う~ん。帝国や教国のスパイでなければ構わないかな。人口が増えるのは良いことだし。
「一度ダンジョンを経由して、入国することを徹底すれば、危険も少ないだろうから受け入れてもいいんじゃないか。でも、南町からの流入が増えすぎるのも問題になら無いか?あの町の統治ってどうなってるんだ」
「町の前身となった村の、村長の家系が代々町長を勤めていますが、権力構造としては町長と町の商工有力者による話し合いで統治されているようです。町の依頼を受けたさいに、何度か話し合いに同席させられました」
「そうか、ヨルンたちは町から依頼を受けることがあったから、実際に目にしているわけか。そうなると、税収は町長管理か?今は景気が良くても、住民が減れば日用品や食品などの売り上げが落ちるし、宿と歓楽街だけになると尚更偏りが出てくるだろ」
俺の街は歓楽街以外は揃っているわけだし、職場だって今後も増えるだろう。そうなると前世の大都市と周辺ベッドタウンのような関係にはならないよな。南町にしかないのは歓楽街と素行不良な者が住む場所となれば、それらに必要な最低限の商売しか残らないはずだ。そうなると、町長は困るし町の公共事業にも差し障りがでるだろう。
「いっそ、南町を吸収してしまってはどうでしょう」
「なぜそうなる?」
「元々、南町はケット・シー王国の後ろ楯で、存在できていたようなものです。町長にしても独立独歩で町を発展させる事など、考えていないでしょう。で、あれば、現町長を代官にして、その仕事に見合う給金を保証すれば、町長にしても悪い話ではないでしょう」
そうなのか?
「他所からの支援を受けているとはいえ、一応は独立した都市国家みたいなものじゃないのか?」
「町で金がかかるのは、なんといっても防衛力です。南町に冒険者がいても、冒険者は半分根無し草です。いざとなれば町を離れることを厭いません。それに町に残っても町で雇用している兵士じゃありませんから、精々傭兵か義勇兵として協力してもらう程度です。しかし、南町はその防衛をケット・シーの後ろ楯で済ませ、常備兵を日常的な治安維持に必要な最低限度で運営していました。もし、ケット・シーとの縁が切れたなら、実は町として維持できません。最初から独立などしてないのです」
「なるほど、南町的には安全が保証されればそれでいいと言うわけか。そうなるとケット・シー王国の方だが、向こうも体面や領土的な理由では、南町の保持に拘らないよな。従来通りの取引で収益やメリットがあれば、単なる隣国関係で問題ないか?とはいえだ、この件は、町長の考えをうまく聞き出してからにしてくれ。悪政というわけでもないし、町長が現状維持を望むなら、移民は制限しよう」
日本国内で住居を移すなら、税金の滞納や裁判所からの転居禁止指示でもなければ、どこに引っ越そうと自由だけど、王政が常識のこの世界では、どこの国の住民も統治者の財産だ。南町の町長は、日本の町長や市長のような立場ではなく、小さな国の王と同じ立場だ。その国民を引き抜いたら、それは敵対行為、国家転覆の謀略とさえいえるだろう。
さて、今日もやって来ましたゴブリン集落。
こうして見回してみると、多くの家が建ち人もずいぶん増えている。
…何でだ?
「なあ、あの辺にいる子供は何をしているんだ」
増えた人をよくみれば、ゴブリン関係者以外にも街の子供が、多く混じっている。温厚なゴブたちだから危険はなさそうだが、あの子供たちは何をしているのか。
「最近ですね、子供たちのなかで、ここの生活がブームになっているようなのです。特に男の子が、熱中しているのが秘密基地作りです」
秘密基地か、それなら仕方がないな。男子たるもの、秘密基地のひとつや二つ作れて当たり前だからな。
「そうか、それなら仕方がないな。秘密基地は女子には秘密なことが多いが、その辺はうまく調停してやってくれ」
俺は、子供たちを眺めつつ、うむうむと頷く。どんな秘密基地になるにせよ、友達との良い思いでになることだろう。
視線を流し見回しながら、別の者が目に留まる。
思わず眉がよって渋面になる。
「子供の秘密基地は、大いに結構。だが、あそこで基地作っているオッサン共は、アウトだ。娘が男子からのけ者にされたとか、そんな理由かもしれんが、店のモルタルとブロックに、鉄筋まで使ったら、あれ普通に家だろう。ヨルンとドワーフの誰かみたいだが、あれは止めさせろ。むしろ、街の居住区にきちんとした形で作らせろ」
俺が前世でいた街では、昭和の長屋的な感じで、ああいう構造の共同住宅が、まだ残ってたぞ。地震が無いこの世界では強度も十分だ。
さて、生活の様子はどうかな…。
「食器類も充実してきたな」
粥などは村から提供されていたので、その都度、木製のお椀などに入れられスプーンが添えられていたが、普段使いの食器というものはなかった。
「皿は焼き物と木製の両方を作りました。コップやカップは焼き物で、汁椀とスプーンを各人作りましたよ。皆自分が作ったもので食事をするのが楽しいそうです」
「なるほど、それならばついでに、食器を洗う習慣も身に付けさせてやってくれ。ゴブリン種は丈夫だが、野生のゴブリンと違って、味覚は確りしているだろうから、食べ物が傷めば味が悪くなるし、食器が不潔でもそれは同じだから、楽しく食事するために必要だと教えてやるといい」
「わかりました」
「他に変わったことは?」
「そうですね、野生のいも鳥が、集落近くにいるようです」
「いも鳥か、卵もとれるし肉も食えるし、捕まえるか」
「では、捕獲器を用意しましょう」
「いや、今回は彼らゴブリンにもつくれる罠を仕掛けようと思う」
「よ~し、今から鳥を捕まえる罠を作るぞ」
「ぐぎゃ(はい)」
「はい」
街の子供も参加してしまったが、まあいいか。
「じゃあ、説明するぞ。先ずは、いも鳥がくる近くに穴を掘る」
俺は黒板に四角い穴を描いて見せる。
「次にこの穴に向かって、トンネルを作る」
俺は穴の上に横に延びるトンネルを描く。
「次にこんな形の物を作る」
長方形の板に棒をつけたものを見せる。イメージとしては長方形の長さを半分にする線を引いた感じだな。
「これはみての通り、板に棒を張り付けたものだ。これが罠のしかけになる。そして先程の四角い穴だが、この板より少しだけ大きな、穴にする」
俺は地面にガリガリと線を引く。
「モーブ、このサイズで穴を頼む。深さはこの板の長さぐらいかな」
「任せろ」
モーブが作った四角い穴に板をのせ片側にお菓子、片側に重りをおく。
「じゃあ、シデン。すまないけど頼む」
「…はい。えっと、わーい、お菓子だ~~~!?あーーーーーー」
「と、食べ物につられた、こちらのリリパット君のように、いも鳥は穴のなかに落ちることになるわけだ」
「僕の久しぶりの見せ場…」
「ありがとうシデン。君の迫真の演技のお陰で、みんな理解してくれたぞ」
「はあ」
口や絵で説明しても、分かりにくいだろうから、シデンにいも鳥役をしてもらった訳だが、俺の作った仕掛けは、どんでん返しというようなものかな。飛べない、いも鳥が乗ると重みで板が回転して落とし穴に落ちる仕組みだ。トンネルはなくてもいいが、より確実に落ちてもらうために餌をまいて誘導する通路になっている。
「ぐぎゃ(この小さい人、食べるのか?)」
「「「「いや、食べないで」」」」
「ぐぎゃ(これは違う)」
「ぐぎゃ(そうだ、違う)」
「ぐぎゃ(そうか)」
ゴブリン同士の会話も大分確りしてきたな、いい感じじゃなかろうか。
「お館さま~」
「大丈夫、ほら、無事話がついたようだし心配ないって。そんな情けない声出すなよ」
いくらなんでも、この罠で捕まるリリパットはいないだろうし、大丈夫だろう。たぶん。




