先輩の財布とスマホ
「ピリリリリリリリリリ!!!」
スマホのアラームが僕を強制的に起こす。
時刻は6時。土曜日なのでこんなに早く起きる必要ないだろう。
しかし、今日は休日出勤。起きなくてはならない。
「はぁ、しんど」
いつまで経っても、朝早く起きるのは慣れない。
目はうまく開かないし、体はとにかくだるい。この朝がとにかく嫌だ。
「行くのやめようかな」
こう思ってやめたことはない。
ただ、今日は本当にやめようかと思ってる。だって本来であれば休日だもの。休んだって良くないか。
むしろ働いてるのがおかしいのでは。
「ふっ、無駄か」
こんなことを考えていたところで仕事は減らないので、あきらめて準備をすることにする。
「それにこれ返さないとだしな」
僕は昨日返し忘れていた先輩の財布とスマホを手に取る。
昨日送ってもらう帰りに先輩とコンビニに寄ったのだが、先輩の無駄遣いを防ぐために没収したこの二つ。その後完全に返し忘れていた。
『免許とか大丈夫か?』
昨日ふと気になって先輩の財布を漁ったが、免許証はなかった。
おそらく携帯しているのだろう。それが入ってたらさすがにまずいなと思ったが、まぁ大丈夫だろう。そう判断して昨日は寝た。
「ってかあの人財布の中にも馬券入れてる」
捨ててやろうかと思ったが、人のなので捨てないでおいてあげた。
日付を見たら一年前の日付であった。なんでこれだけ大切に持っているのだろうか?謎である。
「今日はこれを返すときの反応を見るだけが楽しみだなぁ」
どんな反応をするのだろうか。
先輩のことだから目を合わせたらいつもみたいに、”お前財布とスマホ返せ”とか言いそうだ。
「そういえば、昨日車の中に馬券以外にも紙があったんだよな。軽く見えたけどやっぱり仕事の資料だったな」
昨日の負けた馬券騒動のときにチラッと会社の資料が見えていた。
今回のプロジェクト資料ではなかったが、やはり色々仕事を抱えているのだろう。
それなのに仕事を請け負ってはすぐに終わらせてしまう。
「仕事はできるんだけどなぁ~」
本当に仕事はできる人なのだ。
僕も仕事でどれだけお世話になっているか。プライベートではお世話している側だが。
分からないことを聞けば、すぐに最適解を示してくれる。それに加えて、説明も分かりやすいので理解しやすい。理解が深まれば自然と覚えてくる。実はシゴデキなのだ。
「そう見えないのが残念だけど」
あまりにも私生活がだらしなさ過ぎて全くそうは見えない。
こないだだって、自販機の下をのぞいていた。
『何してるんですか?』
『ゴキブリ退治』
『嘘ですよね?』
『……小銭落ちてないかな~って』
『………』
あれは少し、いや結構引いた。
だって、手をそのまま自販機の下に突っ込んでいたから。
探すだけならまだ、いや、それもだいぶだが。自販機の下に何の躊躇もなく素手で行っているから。
『これは、その、そう!落とした小銭探しててさ』
『ふ~ん。嘘ですよね』
『…はい。生活の足しに』
『これが先輩か。ふっ』
そう言って鼻で笑った。笑うしかなかった。
そこから先輩は自販機の下を探すのを控えるようになった。
残業している夜とか自販機行くと、たまに自販機の下を覗いている先輩を見かける。
気付かないふりをしてあげているが、何度か写真は撮った。
「最近だとわざとお金を置いてる人もいるんだよな」
僕以外にも先輩が自販機の下を漁っている姿を見ていたらしい。
あまりにも哀れに思ったのかお金をわざと置いておくという、募金状態になっている。
「あれ絶対やめさせた方がいい」
癖になるとまずい気がする。本当に。良くない人間に育ってしまう。
そんなことを考えながら家を出る支度をする。
「あとは朝ご飯食べて家出るか」
昨日コンビニで買ったおにぎりが余っていたので、それを食べて家を出る。
そして、家を出ていつものごとく満員電車に揺られ…と思ったが、今日は土曜日。すんなりと座ることができた。
「これはこれで悲しい」
土曜日なのに出勤している感が出てきて、悲しくなる。
周りを見渡すと、スーツ姿の人がちらほらといる。
この人たちも休日だけど出勤しているのだろう。みんな大変だな。これが社畜か。
同情していたが、自分も同じ境遇である。
そんなことを思っているうちに、駅に着いた。
そして会社まで歩くこと数分。
「あっ」
見覚えのある車が停まっていた。
そして、見覚えのある人が車から降りてくる。
「先輩、おはようございます」
「お前スマホと財布を返せよ」
「朝から物騒ですね」
「物騒も何も、お前が持って帰ったおかげでこうなってんだよ」
予想通りの反応である。
「別に盗もうとしたわけじゃないですよ。本当に忘れてて」
「それは分かっているけども」
「はいはい。ちゃんと返しますよ」
僕はカバンから、先輩の財布とスマホを探す。
「ん?あれ?」
カバンを隅々まで探す。
そして、僕は家に出るときのことを思い出す。
……あっ
「家に忘れちゃいました」
「えっ………マジ?」
「…マジです」
先輩は膝から崩れ落ちる。
「………てへぺろ」
「そんなんで許されるわけないだろぉぉぉ!!!!」
この後、1時間ぐらい口をきいてくれなかった




