僕は先輩に送ってもらう2
コンビニに寄って、先輩の車に乗り込むときに後ろの座席に何かが見えた。
紙の束だろうか。会社の資料なのかもしれない。もしかしたら、家に帰ってもまだ仕事をするのかもしれない。
「先輩、これって仕事の資料ですか?」
「あ~それはな」
先輩が座席に置いてあった紙の束を手に取る。
その手にあったのは…
「今まで負けた分の馬券をまとめたやつ」
「カスみたいなコレクターしないでください」
そんなもの捨ててしまえ。
こんなものを集めているから負けるのではないだろうか?
この紙と化した馬券たちから負のオーラを感じる。
「いやさ、これってお金で買ってるじゃん?つまりは勝つかどうか分かるまでは金券に等しいわけよ」
「まぁそこまでは理解できます」
「で、負けるじゃん?この金券がただの紙になるけど、金で買ったことは変わりないじゃん。なんか捨てられないんだよな」
「そんなもんなんですか?」
「そんなもんなのよ。あとは、ここまで集めると捨てにくい」
確かにこれだけ集まったら捨てにくいのは分からなくもない。
ざっと見た感じ、この束で100枚ぐらいあるように見える。
「ちなみにそれだけじゃないよ」
「えっ」
「舟券もあるし、それ以外の馬券もある」
「…いつか先輩の家行きますね」
「えっ?いいけど」
絶対に処分しに行く。今決めた。
僕は心の中で固く誓った。
そうして負けた馬券騒動がありつつも、車を走らせる。
街灯の光が車内を照らしては過ぎ去っていく。
何気に先輩と一緒に過ごす時間の中で、これだけ静かな時間を過ごすのは中々ない貴重な時間だった。
いつもは先輩がやたらうるさいので、いつの間にか賑やかな状態になっていた。
だからこそ、この静かな時間は心地良く落ち着く時間だった。
「そういえばさ」
「はい」
「なんかギャンブルしないの?」
そして、この静かな時間はすぐに消え去っていった。
「しません」
「即答かよ」
「目の前に反面教師がいるので」
何度も言っているが、この反面教師を目の前にしてギャンブルをやろうとは思わない。
負けたらこうなるのかと。
「別に怖いもんじゃないぞ」
「怖いとかそういう問題じゃないんですよ。いや怖いもあるかも」
「何が怖いんだよ」
「ギャンブル依存」
「俺は違うぞ」
「どの口が行ってるんですか」
毎月10万ぐらいを賭けごとに使ってたら十分な気がする。
毎月旅行行けるぐらい使ってる。僕なら絶対にそっちで使う。
「だって、ある意味投資だぞ?」
「その投資は身を亡ぼす危険性がかなり高いです。やめた方がいいですよ?」
「だって考えてみ?」
また始まった。
「1万を賭けるとするじゃん?例えばオッズ2倍の馬券を買って当たったら、2万だよ?返ってくるんだよ?」
「負けたら0ですがね」
「そしたら戻ってくるように賭ければ良い」
駄目だ。この人は完全にギャンブル脳だ。負けたら取り返すの考え方になってる。
「諦めるという選択肢は」
「ない」
「収支がプラスになったことは?」
「ない」
「やめましょうよ」
「いやだ」
何を言っても無駄かもしれない。
「今度連れてってやるよ。そしたら良さが分かるはず」
「遠慮しておきます。それより、一か月我慢して旅行行きませんか?」
「一発大きいの当てたら行こうか!」
「……頑張ってください」
もう考えるのをやめた。
やっぱり何を言っても無駄だった。
この人にはこの人なりの生き方があるのだから、強制してはいけない。うん。そうだ。
そう思うことにした。
そして、静かな時間を過ごしては少し雑談する。そんな時間が続いた。
金銭関係で色々被害を受けていはいるが、この人と話す時間は楽しいと思える。
「あそこの宝くじは当たるらしい」
こんな内容ばっかりだが。まぁ面白くはあるので良しとする。
そんなことをしている間に、僕の家に到着した。
「先輩、ここまでありがとうございました」
「いいって。俺もここら辺だからさ」
「遅い時間なのにほんとにありがとうございました」
「じゃあ今度奢って」
「今日奢りましたよね」
それとこれとは話は別である。というか奢ったし。
「それじゃあ、運転お気をつけて」
「おう、また明日な~」
そういって、先輩は再度車を走らせた。
数秒後には車が見えなくなった。
「先輩ってこっち側通らないよな」
実は先輩がこの道を通らないことを知っていた。
約15分ほど前に先輩の家は通り過ぎていたのだ。
「あの人自分で一回住所言ってたの忘れてたな」
後輩に格好つけたかったのだろうか。ここら辺と嘘ついてまでこっちまで送ってくれた。
疲れ切っていたので、本当にありがたかった。
「お礼の連絡だけ入れておこ」
僕は先輩に今日の感謝を伝えようと連絡を入れる。
『今日はありがとうございました。また困ったら送ってください(笑)』
送信…っと
「プルンッ」
「ん?」
ポケットから通知音が鳴る。
あれ?これってもしかして?
「…やっぺ。これ先輩のだ」
コンビニで先輩が無駄遣いしないように、スマホを取り上げていたのをすっかり忘れていた。
「しかも財布まで。中身入ってないけど」
返すにも連絡する手段がないし。
「…まぁいいや明日で」
そんな困らないだろう。
そう考えた僕は、静かな夜風を感じながら家に入る。
ご覧いただきありがとうございました。
次回は1週間後になります。お楽しみください。




