僕と先輩は残業をする2
帰れなくなった事が決定してから時間は経ったが、僕は未だに絶望が目の前に見えている状態である。
帰れないという絶望と仕事が残っているという絶望。ダブルパンチである。
「先輩」
「どうした?」
「仕事の調子は?」
「君の仕事がたくさん入ってきたことによって、手が空かないよ。あと俺先輩」
僕は先輩に溜まっていた仕事を半分ぶん投げた。
「帰れないならもう半分の仕事やってけば」
「そんな気力はないです。帰れると思った人間にやる気なんてあると思いますか?」
「無いけどな。ちなみに俺は1,2時間で帰れると思ったら、あと4時間ぐらいかかりそうなんだけど?」
そうなってもしょうがないぐらいの行動をしたから仕方がない。
人の金をなんだと思っているだろうか。渡した金で勝手に宝くじを買ってくるとは思わなかったから。
「がんばってください」
「お前に罪悪感というものはないのか」
「ないです」
人の金で好き放題やった人間に罪悪感は一切ない。
一切だ。
「というか、ここ仮眠室ないんですか?」
「一応あるけれども」
「そうですよね。入社のときに仮眠室があるとは聞いていたんですが」
「それ聞いて何か思った?俺は思った」
「ブラックかと思いました」
仮眠室があるということは、夜中まで残ることがあるということ。そして、夜勤がない会社で夜中まで残るということは…そういうことである。一回辞めようかと思った。その日の昼に辞めてやろうと思った。
今は残業の問題とか色々あってあんまり使わなくなったということだが。
「夜まで残業はあまりないですしね。休日出勤も急ぎの仕事があるときだけだし」
今までずっと忙しい状態であったため、残業や休日出勤があった。
どうしても締め切りがギリギリなときは忙しくなる。
「結局この時間までいるのも、こないだやめた人が原因ですし」
以前、怨念のスパゲッティコードを置いて辞めていった人間である。今回のプロジェクトに色々加担していたらしく、何もかもを置いて仕事を辞めていった。
その結果、スケジュールが全て崩れてしまい、忙しい状態になってしまった。
「引き継ぎなしで何もかもを置いていったからな」
「まぁあの人が辞めてようが辞めてまいが、基本は締め切りギリギリだから、ずっと忙しいですけどね笑」
深夜テンションだからか笑えない状態なのに笑ってしまう。
「はぁ…まぁいいや。とりあえず寝たいです。寝て明日がんばります」
「でも、あんまりあそこ使わない方がいいぞ」
「なんでですか?」
「う~ん。見た方が早いな。ちょっとこっち来て」
先輩はそういって僕を仮眠室に連れていく。
「先輩は仮眠室使ったことあるんですか?」
「いや、無いよ。理由はね…これを見たら分かる」
先輩は仮眠室の扉を開けた。
「これは…なんですか?」
「仮眠室という名のごみ屋敷」
よくテレビで見るようなごみ屋敷と化していた。
おそらく、歓迎会で使った備品やもう使えなくなった中古のPCなどがこの中に入っていた。
「俺が入社したときからこうだ」
「こんなゴミ屋敷、会社にあって大丈夫なんですか?」
「事務の人たちに言ってみたんだけど…」
『気になるなら自分たちで片付けろ』
「だってさ」
「あぁ…」
事務(経理・総務)の方々はみんな冷酷だ。会社のお金を触っているため、まじめな人たちが多いというのはあるが。
まぁ事務側からすれば、使わないのになんでこっちが片付けなければならないんだという意思表示だろう。気持ちは分かる。
「で、誰も困ってはいないからこの状態になっているというわけ」
「一旦この部屋キャンセルして良いですか」
「ダメ」
「なぜ」
「予約しちゃったから、料金払えよ」
「そんなんあるんですか?」
「俺のポケットマネーになる」
「一旦ぶん殴って良いですか?」
「一旦で済む話では無い気がするけど」
帰りたい、眠たい、休みたいの3つが揃った人間にその冗談は通じない。本当に殴りたくなる。
「はぁ…じゃあこの会社になる場所はないということですね」
「イスがあるよ」
「しっかり横になりたいんです」
「床があるじゃないか」
「マリーアントワネットで言わないでもらっていいですか?」
その構文で言われると余計に腹が立ってくる。
「でも真面目にこの会社にはそんなとこないぞ」
「ならいいです。そこらへんのネカフェで寝ます」
お金は掛かってしまうが、寝れないよりはマシだろう。とにかく早く眠りにつきたい。
僕はオフィスに戻り荷物を持って、ネカフェに行く準備を始めた。
「おっと待て待て。落ち着け」
「これが落ち着いていられるものですか?眠りたいんですよ?」
「3大欲求の一つが大暴れしてる」
個人的に3大欲求の睡眠欲が最強だと思っている。
これだけはどう制御してもきつい。
「とりあえず俺の話を聞けよ」
「なんですか?お金?」
「なんでそうなる」
「そのイメージしかなくて」
普段、金銭関係のイメージしかない。悪い方の意味で。
「そうじゃなくて。俺さ車通勤だから送っててやるよって」
「くるま?…車か、その手があったか!」
「なんで最初分からなかったんだよ」
「眠気で頭回んなくて。というか良いんですか?」
「そんなうちと距離遠くないだろ?ちょっと寄り道する感覚だし連れてってやるよ」
僕は電車通勤のため車という手段が全く思いつかなかった。
先輩は車通勤のため、電車が止まってところで痛くもかゆくもないのだ。
「先輩」
「ん?」
「珍しく先輩らしいです!」
「お前置いてくぞ」
珍しく先輩が輝いて見えるぐらい、今の僕にはとても嬉しい吉報だったのだ。
「今すぐ帰りましょう」
「あれどうすんだよ」
先輩は机を指差す。
だが机の上には何もない。帰れる。
「机の上に仕事はないぞ。あるのはPCの中」
「そんなの知らないです」
「お前が押し付けた仕事があるんだけど」
「それはそれ。これはこれですよ」
「何を言ってんだ」
仕事は仕事。プライベートはプライベートである。
仕事なぞ仕事の僕にまかせる。今はプライベートの僕なのだから。
「とりあえず、少しだけ待っとけ。今日はもうこれで切り上げるぞ」
「先輩仕事は良いんですか?」
「お前が言うな!明日やるよ」
「明日休みですよ?」
「現実逃避するなよ。最初からお前も休日出勤のつもりだったろ?」
明日は土曜日で休みだが、仕事が一切終わる気がしないので先輩と話して休日出勤の予定にしていた。それなのに今日残業していたのは、周りに誰もいないので仕事が進みそうで、明日早く帰れそうだと思ったからだ。
ただそれも先輩の宝くじが原因で僕のやる気は失せてしまったため、全くのやる気が出ず帰りたかったのである。
「とりあえず帰る支度するから待ってろ?」
「はい!待ってます!」
「こういうときだけ元気だよな」
今日は仕事を切り上げて帰ることとした。
ご覧いただきありがとうございました。
次回は1週間後になります。お楽しみください。




