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僕と先輩は残業をする

「カチ、カチ、カチ…」


時計の音が響き渡る。

いつもはタイピングの音と叫んでいるプログラマーでうるさいのだが、今日はやけに静かである。

それはなぜか。


「先輩」

「ん?どうした」

「今何時ですか?」

「自分のPC見ろよ」

「…チッ」

「舌打ちした?こないだも言ったけど一応先輩だからね?」


しょうがないので、自分で時間を見ることにする。

現在10時である。朝ではない。夜の10時。PM10時。22時。


「こんな時間までプログラムなんて見てたら、頭がぶっ壊れますよ」

「納期前だからな~。このぐらいやっていかないと終わらねぇ」

「しかも、今回かなりスケジュールが厳しい案件ですしね」


今回受注した案件がかなりスケジュールが厳しく、正直ここ数週間は毎日遅い時間に帰っている。


「先輩も帰らなくて大丈夫ですか?」

「俺は俺でやらないといけないことがあるし、お前の最終チェックをしないといけなかったりとかあるから、気にしなくていいよ」

「自分のせいで残ってもらう状態になってしまって申し訳ないです」


先輩は僕の直属の上司にあたる。そのため、僕が行った仕事を上長に渡す前に確認をしてもらう作業があるのだ。

そのため、先輩も僕の仕事を見てからじゃないと帰れなくなってしまっている。


「大丈夫だって。これぐらい慣れっこだし、確認ならそこまで時間かからずに終わるから」

「でも…」

「さっきとやけに対応が違うな笑。どっちかって言うとお前の方が0から作り上げないといけないんだからそっちの方が大変だぞ?それに、急いで間違えられるよりは、落ち着いてちゃんとしたものを作ってほしいから、自分のスピードで進めて」

「先輩…」


先輩が輝いて見える…先輩が先輩をしている。普段ギャンブルをやりすぎて、ギャンブラーが先輩をしている状態だったのに。


「俺、ちょっとそこのコンビニで夜食買ってくるからその間に進めておいて」

「お金は」

「もらいます」

「そこは奢るじゃないですか?まぁ払うつもりだったのでいいですけど」


金が関わってくると急にかっこ悪く見える。

さっきまでめちゃくちゃかっこよかったのに。

僕はいくらかお金を渡して、先輩に夜食をお願いした。


ー30分後ー


まだ戻ってこない。

ここからコンビニなら、5分も歩けば到着する。

それから何か買うとしても20分もあれば戻ってこれるはずなのだが。

何やら嫌な予感がしている。


「…ちょっと行ってみるか?」


そう思い、立ち上がろうとした瞬間。


「ごめんごめん。遅くなった」

「遅かったので、僕もコンビニに何をしているか見に行くところでした」

「俺そんな信用ないの?」

「仕事以外に関しては」

「それは褒めてるの?」

「半分褒めてます」

「半分はけなしてるのね」


後輩に借りたお金でギャンブルしている人間に、信用などない。

僕が渡したお金で何かしているのかと思ってしまった。

さすがにないよな。こんな夜中だし。


「夜も遅かったからあまり食べ物なくてな。カップ麺とおにぎりぐらいしかなくて」

「まぁしょうがないですよ。買ってきてもらえただけ助かりました」

「これで500円ぐらいだった。おにぎりが思ったより高かった」

「最近のコンビニのおにぎりはかなり高いですもんね」


一番身近で感じる物価高の影響だと思っている。

おにぎり一つで200円超えてくるとは。明らかに家で作った方が安い金額になってきている。


「そしたら先輩」

「ん?」

「おつりをください。僕千円渡しましたよね?」

「おつり?そんなものはないぞ」

「??」

「何を言っているんだこの人みたいな顔をするな」


ほんとに何を言っているんだろう。

さっき自分で500円だったと言っていたのに。なぜおつりがないのか。意味が分からない


「じゃあ残りの500円はどこ行ったんですか?」

「それは…これ」


先輩が差し出してきたのは、宝くじであった。

2枚だけの。


「たった500円で大金持ちになっちまうかもな~当たったら半分は俺にくれよ?それを買ったのは俺だからな」

「………」


絶句である。

金額は少ないとはいえ、腹が立つ。というよりも驚きが勝っている。


「言っても半分は取りすぎか。せめて3分の1ぐらいかな」

「……」

「お、おい。ちょっと大丈夫か?」

「……」

「も、もちろん冗談だよ!しっかりと全額お前のもんだからさ」

「……先輩」

「は、はい…」

「一回ぶん殴っていいですか?」

「なんでだよ!?」


驚きが勝ったあと、腹が立つという感情が勝ってきたので、一発ぶん殴りたくなった。

深夜テンションということもあるのかもしれんが、殴ることに全く抵抗がない。


「一回でいいんです。一回殴れば収まるので」

「いやだよ!ごめんて!500円返すから!」

「そういう問題じゃないです。なんか…全ての態度に腹が立っているので」

「わ、分かった、千円返すから!頼む」

「歯を食いしばってくださいね」


僕はこぶしを作る。

これで先輩を殴る準備は万全だ。


「ちょ、ちょい待ち!お前の今日の仕事全部受け持つから!」

「…ほんとですか?」

「ほ、ほんとほんと」


僕はその言葉を聞き、自分のこぶしを一旦しまう。

そして僕はスマホを取り出す。


「先輩、もう一回言ってください」

「お前の今日の仕事を全部受け持ちます!」

「分かりました。それで手を打ちましょう」

「あぶねぇ…ほんとに殴ろうとしてたこいつ」

「男に二言はなしですよ。それにほら」


僕はスマホを見せて音声を流す。


『お前の今日の仕事を全部受け持ちます!』


僕は先輩の発言をしっかりと録音しておいた。

あとから何か言われないように。


「きたねぇぞ!」

「心が汚い人に言われたくありません」

「そんなことないぞ」


人の金をギャンブルに使う人の心がきれいなわけない。


「とりあえず、僕の仕事はこんな感じです」

「どれどれ……これ俺でもあと数時間かかるけど」

「ほんとはこれの半分ぐらいで止めようと思っていたんですけど、先輩なら楽勝ですよね」

「だったら半分でいいじゃん」

「しょうがないな。半分でいいですよ。チッ」

「だから一応先輩だよ?」


半分ぐらいなら先輩ならすぐ終わりそうだから、全部渡してみたのだが。

余計なことを言うんじゃなかった。


「とりあえず帰ります。お疲れさまでした」

「えっ、ほんとに帰るの?というかすごいデジャヴなんだけど?」

「同じようなことをやったってことですね。反省してください。じゃあ帰ります」

「せめて、おにぎりだけでも置いてって」

「いやですよ。これ僕のお金ですよ?というか自分の分は買ってないんですか?」


先輩は先輩で夜食を買っていたはず。おにぎりだけは置いていって、それだけでももらって食事を増やそうという考えか?


「いやさ。自分の財布に5,000円入ってたんだけどさ…全部これに」


そういって見せてきたのは、宝くじの束である。


「………」

「なんでそんな冷たい目でこちらを見る」


冷たい目で見たくもなるだろう。

自分の財布に入っていたお金を、一瞬で宝くじに変化させるなど。


「はぁぁぁ~」

「クソでか溜息やめて。まぁそんなわけで夜食買えなかったので…おにぎりくださいな?」

「帰ります」


僕は先輩の要望を一切無視して帰ろうとしたとき。


「ん?なんだろう?」


スマホにニュースが流れ込んできた。

それは僕にとって残酷なニュースであった。


「あれ?帰ったんじゃなかったの?俺に情けをかけてくれるのか?」

「そんなものない」

「即答かよ」

「僕が戻ってきた理由はこれです」


僕は先輩にスマホの画面を見せる。


「…運行中止。再開時刻は不明か」


運行中止。つまりそれは僕の変える手段が歩きしかなくなったということである。

しかし電車で40分。歩いて何時間かかるのだろうか。


「今僕の目の前に何があるか分かりますか?」

「仕事」

「いえ絶望です」


僕は絶望を抱え、再度自分の席に戻ることになってしまった。

ご覧いただきありがとうございました。

次回は1週間後になります。お楽しみください。

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