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僕は先輩のバグに頭を悩ます

 ー次の日ー


スマホの目覚ましが僕を叩き起こす。

昨日は日曜日なのに出勤をしていた。そして今日も出勤だ。


「これが社畜か」


朝最初に発した言葉がこれだった。

最初は社会人はもっとキラキラしているものだと思っていた。しかし実際働いてみたら全くキラキラしていない。なんならドロドロだ。毎日目を開けるのがつらい。


「今日はあの仕事を…やめよう家でそんなこと考えるのは」


朝起きるとすぐに今日の仕事を考えてしまう。あまりプライベートで仕事を考えたくない。


「とりあえずご飯食べよ」


そうして朝食を済ませる。

ちなみに今日はご飯と納豆という簡単な朝飯だ。

朝はこれだけ食べれば何とかなるだろう飯と名付けている。

朝から野菜をとか考えてられるか。そんなこと考える頭は仕事に使わせろ。寝起きなんて何も考えたくない。


「もうこんな時間か」


そろそろ出ないと間に合わない時間だ。

僕は食器を片付けて着替えの準備をする。

うちの会社は私服出勤が認められているが、僕はスーツで出勤する。それはなぜか。服を考えるのがめんどくさいからである。

さっきも言っただろう。寝起きなんて何も考えたくない。

そうして着替えてから家を出る。


「電車乗るの嫌だなぁ」


僕は電車通勤である。

毎日30分かけて会社へ向かう。その道のりは短いようで長い。なぜなら毎日満員電車だからである。

サラリーマンたちが、自分の仕事(せんじょう)へと向かう。社会人になってからよく分かる。世の社会人すごい。


「はぁ…クソだわ」


そういって僕は人に飲まれていく。


「もうやだ。疲れた・だるい・帰りたい」


僕はこれを世の社会人が唱える三つの言葉である。ぜひ唱えてください。

僕は会社に入ろうとしたところで、ギャンブラー…間違えた先輩と鉢合わせる。


「おはようございます」

「お前ほんとに昨日帰ったな?」

「あ~」


昨日は先輩に5千円貸す代わりに、怨念のスパゲッティコードをぶん投げて帰った。

後輩に金を借りているのだからそれぐらいしてほしい。


「でもお昼と夕飯は食べれましたもんね?」

「そうだけど、その代わり日曜日なのに夕方まで家に帰れなかったんだけど」


そうダラダラと文句を言いながら自分たちのデスクに向かう。


「じゃあ終わりました?あのプログラム」

「それなら無事に」


そう言って、モニター画面を見せてくる。

モニターには整いすぎた文字列が並んでいる。この正解はこれしかないだろう。そう思うしかないようなコードが並んでいる。


「これどのぐらいでやったんですか?」

「これ自体は1,2時間ぐらいで終わったよ」

「僕あんなに時間かかったのに」


最初からプログラマーとしてすごい人だとは分かっていたが、ここまでくると少し凹んでくる。

僕だったらこれを夕方までは掛かっていただろう。

ん? 先輩夕方に帰ったって言ってたよな?


「先輩、これ自体は14時ぐらいには終わっているということですよね?」

「あ~、確かそのぐらいだな」

「さっき夕方に帰ったって言ってませんでした?」


14時に終わったのになぜ夕方に帰ったのだろう。

もしかしたら、他にたくさん仕事を抱えていたのかもしれない。

競馬をしていたから仕事などないのかと思ったが、休憩がてらの競馬だったのかもしれない。

そうすると申し訳ないことをしたかも。そう思うと罪悪感が湧いてきた。


「あっ」

「あっ、ってなんですか」

「…それは~その~」


これは嫌な予感がする。


「いいから言ってください」

「昨日あの後…」


先輩は僕が帰った後のことを説明してくれた。


『よ~し、終わったな。あとは確認をしてと』


先輩は僕がお願いしたスパゲッティコードをきれいに直してくれた。

そしてその確認作業も終わったとき、少し遅めのお昼に入ろうとしていた。


『お昼は何を食べよう』


そう言い、僕の貸した5千円を握りしめて会社を出たという。


『ほんとありがてぇ~、後輩様様だぜぇ』


少し腹が立つことを言いながら、お昼を探していた。

そして、近くの牛丼屋でお昼を済ませたという。


『あんまり使ってもあれだな。借りた金だし』


そこの常識は踏まえている。なるべく使いすぎないようにしようとしていた。

…していた


『待てよ…これを増やして返したら喜ぶのでは?』


そう言って、近くのボートレース場まで向かった。

全く最初と言っていることが違う。真逆だ。

ボートレース場に着いたら、すぐに舟券を買ったという。


『さすがに一気に使うのはまずいよな…千円だけ賭けよう』


そういって、千円を賭けたとのこと。

倍率は5倍以上。借りた金を返せば、おつりがくる倍率にしたそうだ。

そしてレースはスタートした。


『頼む。俺の後輩の金なんだ!頼む!行け!行けぇ~!』


結果は惨敗。見事に負けたという。

最初は並んでいたが、最後追い抜かれて圧倒的な負けをしたそうだ。


『行けると思ったのにな…あと3千円』


そうして、手に持っている3千円を持って舟券を買いに行ったという。

どれも元を取り戻せる倍率で購入をした。

結果はというと…


「全部ただの紙切れと化したよ」

「つまり負けてるじゃないですか」


見事に全敗だった。

結局、手元に残っているお金はゼロになったという。


「それで結局家に帰ったのが夕方になったと。てっきり他の仕事があってそれの処理があったのかと」

「あの日他の仕事はなかった」


さっき持った罪悪感は一体。

罪悪感なんて持つだけ負けなのかもしれない。


「いやぁ~ここまで負けると、しっかりと諦めがついたよね」

「諦めるのは勝手にしてくれればいいんですけど、それ僕のお金っていうのは知ってますよね?」

「知ってる」

「良かった。ちゃんと知ってたんですね」


知らないうちに記憶喪失になったかと思った。

だって普通だよ?後輩の金をギャンブルに使うことないと思うんだよね。


「大丈夫だって。俺だってちゃんと考えて賭けてたんだから」

「生活費ギリギリでギャンブルしている人の考えて以上に信用できないことはないと思っているんですが」

「考えてるって。今日は給料日でしょ?だからどちらにせよ今日返せるってわけ」


そう、今日は25日。世の人間が楽しみにしている給料日である。

一番の仕事のやりがいである。結局は世の中金なのだ。


「それはそうですが、だからと言ってギャンブルに使うのは無いと思います」

「ごめんって」

「とりあえずお金を返してください」

「おっとそうだな。ちょっと待てよー朝おろしてきたから…あった!はいどうぞ」


先輩からお金を受け取る。

しっかりと封筒に入れて渡してくる辺り、変に律儀である。

一応封筒の中身を確認する。

中には1万が入っていた。


「あれ?5千円多いですよ?」

「1日借りてしまったしな。受け取ってくれ」

「いや、そんな、悪いですよ」

「いいんだって。お詫びとして受け取ってくれ」


先輩は僕に、まさしく先輩らしい態度を振舞ってきた。

僕は先ほど消えた罪悪感が戻ってきた。貸した側なのに。

そうして、お金を返そうと思ったとき。


「あ、ちょうどいいところに」

「あっやべ」


先輩は係長に見つかった瞬間、やばいという顔をした。

そして、逃げようとしたとき


「待て」


係長は先輩は首根っこをつかむ。


「お前、俺が貸した金は?今日給料日だもんな?」

「それはその」

「まさか忘れてたとかじゃないよな?」

「…いや?」


これは忘れていた時の返事だ。

この人係長にも金を借りてたのか。


「さぁ俺の1万を返せ」

「1万も借りましたっけ?」

「とぼけんな」


僕の倍借りてんのかよ。

他の人にも借りてないよな?


「えっと、その」


先輩は僕の方を向く。

そして、口をパクパクさせながら何か言っている。


「…して」

「…?」

「か…して」


もしかしてだけど、貸してって言ってる?


「かえして」


ちげぇわ、返してだわ。

気づいた瞬間さっきまで、1万をもらった罪悪感なんぞ吹き飛んだ。

僕は腹が立ったので、言い返してやった。


「自分でどうにかしてください」

「貴様あぁぁぁぁ!」

「お前まさか後輩からも借りてたのか?」

「そ、そんなことは…」

「いえ、僕から5千円借りてます」


返してもらったので、借りてないと言ってもよかった。なんなら5千円多くもらっている。しかし、返してもらおうとしたことがとにかく腹立たしいかったから、係長の怒りを買う方にした。


「お前なぁ…後輩から借りて恥ずかしくないのか」

「はい!恥ずかしいです!」

「元気良く言うな」

「ちなみにその人、僕のお金でギャンブルしてました」

「ちょ」


金を借りたことに対する反省が見えなかったから、わざわざチクってあげた。

この先輩のバグだらけ人生を直してもらうための一歩である。


「後輩の金で…俺の金は、いや、とりあえずお前裏こい」

「ちょっと待って、係長のお金は普通に生活費に」

「うるさい、とっとと裏こい」

「ちょっとたすけ」

「しっかりと反省してきてくださいね♪」


せっかく禊の時間をあげてあげたのだ。しっかりと反省してきてほしい。


この後、係長にこっぴどくしかられた先輩は即座にATMに行ってお金を返していた。

あと僕にも係長の目の前で5千円を返してくれた。いや、もらった? 泣きそうな顔をしていた。

ご覧いただきありがとうございました。

次回は1週間後になります。お楽しみください。

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