先輩は僕の家に押し掛ける
僕と先輩は今残っている仕事を終わらせた。
「やっと終わったな~」
「なんで僕よりも倍以上仕事あるのに終わる時間一緒なんだ…?」
先輩は僕の仕事を渡したことで、僕の倍以上の仕事を受け持っていた。
なのに僕とほぼ同じタイミングで仕事を終わらせていた。
しかも床で座りながらの仕事なのに。環境最高に劣悪なのに。僕にメッセージを送りながら仕事してたくせに。
「これが経験の差だ」
「ここまですごいと少しへこむんですが?」
さすがにここまでのハンディキャップを背負わせといて、僕と同じぐらいで仕事終わらせてるのはすごいのだが、逆に自分の仕事が遅いのかと思ってしまう。
ちなみに、先輩が異常なだけで他の人は僕と同じぐらいである。
「はぁ…まぁいいや。帰りましょう」
「まぁ待てや」
先輩は僕の肩に手を置き、僕の歩みを止めさせる。
なんだよ。帰りたいのに。
「俺の財布とスマホ」
「あっ…」
完全に忘れていた。
今日一日で色々な出来事がありすぎたため、すっかり忘れていた。
「お前の家に行くぞ」
「僕は帰るだけだからいいですが」
「そして、お前の家で宅飲みするぞ」
「えっなんで?」
急に僕の家で酒を要求してきた。
「酒の金はお前持ちな?」
「なんでですか。やることやったら帰ってくださいよ」
「返してもらうだけじゃ気にいらないから。あとは嫌がらせ」
「ふざけんな」
本当にふざけている。
僕はただ帰りたいだけなのに。
「いいからお前ん家行くぞ」
「いや待ってくださいよ」
色々文句言いながらも一旦先輩の車に乗り込む。
そして、一旦僕の家へ向かう。
「ほんと返したらとっとと帰ってくださいよ」
「いや無理」
「なんでだよ」
本当に僕の家で飲む気満々のようだ。
本当に嫌なので帰ってほしいのだが。
色々と駄々をこねていたら僕の家に到着した。
「返したら帰ってくださいね?」
「無理」
「無理です」
お互いに無理無理と言いながら部屋に入っていく。
「えっと確かここに……あった」
「俺の財布(何も入っていない)とスマホだ!」
先輩は僕の手から財布とスマホを奪い取る。
そしてほっぺをすりすりしながら、よかった~と言っている。
僕の家でその行動はやめてほしい。
「よかった、帰ってください」
「嫌だ。お前酒買ってこい」
「帰ってください」
「買ってこい」
「帰ってください」
このやりとりを10分ほど続けていた。
この均衡を破ったのは、僕の家に響いた謎のチャイムであった。
「なんだろ?何も注文とかしてないのに」
「あぁ~もしかしたら」
そういって先輩はドアを開ける。
何か話し声がするのだが、何か聞いたことがある声がする。
もしかしてこの声は……
「あっ!お疲れ様!結構きれいにしてるわね!」
「先輩!なんで総務課長まで来てるんですか!」
「なんか呼んだらきた」
まさかの展開に僕は驚きを隠せない。
「いつの間に呼んだんですか?」
「お昼食べに行ったときに」
「そこからこれは計画済みだったのかよ」
僕の家に突撃して、僕の金で酒を買って、僕の家で飲むのは昼から計画されていたようだ。
僕の知らないところでこの計画が進んでいることが解せない。
「というか、課長!接近禁止令出しましたよね!?」
「いや、その、約束は破ったらダメでしょ?」
「約束も何も、僕は何も約束していないんですけどね」
「とりあえず、こいつもそろっちゃったから酒買ってこい」
「飲みましょ!」
一体この人たちは部下をなんだと思っているのだろうか。
とにかくこの人たちは一ミリも帰る気がなさそうだ。
これ以上もめてもめんどくさそうなので、もう受け入れることにした。
「よし買ってこい」
「分かりましたよ…課長買いに行きますよ」
「え~でも」
なぜか総務課長は少しごねる。おそらく先輩と一緒にいたいのだろう。
僕はこの後の計画のために、小さく耳打ちをする。
「先輩に良いとこ見せたいでしょ?後輩と一緒に買ってきてくれる優しい人だって」
「…そうね。行くわ!」
「お前も行くのか?じゃあ俺一人で待ってるわ」
少し無理がある誘い文句ではあったが、恋する乙女は好きな人からよく見られるのであれば何でもいいそうだ。
これで課長に酒を買わせれば計画通りである。僕が一緒に来てほしかった理由はこれだ。
あと僕の家で勝手にラブコメするのやめてほしかったから。
僕と課長は近くのコンビニでお酒とおつまみなどを買いに行った。
「先輩にはこれを飲ませよう」
僕はテキーラを手に取る。
これをロックで飲ませて早く潰す。
そして、総務課長に持って帰らせる。
「ごめんね~急に押しかけちゃって。ここは全部私出すよ~」
「ほんとですか!そしたら半月接触禁止令にしてあげます!」
「全解除は…」
「駄目です。明日から駄目です」
僕の計画は成功したが、善意に対して罪悪感をすごい感じたので接触禁止令を少し軽くしてあげた。
ただ、全解除はしない。反省はしてもらう。
「とりあえずご馳走様です」
「いえいえ、こちらこそ家貸してもらって何もしないわけにはいかないからね」
「その気持ちを先輩にも教えてあげてください。そんな気持ち一切ないですよあの人」
自分のせいとはいえ、さすがに感謝の気持ちゼロは殴りたくなる。
「じゃあ、戻りましょうか」
僕は総務課長と一緒に家に戻る。
「戻りましたよ~」
「おっ、帰ってきたか。ちょっと台所借りてるぞ」
先輩は台所に立って何か作っているようだった。
「冷蔵庫の中もらって、つまみとか色々作ってるから」
「先輩…意外と家事力高い」
「人を何だと思っているんだ」
「クソだらしねぇギャンブラー社会人」
「なんだそのクソみたいな通り名」
「あなたたちは本当に先輩と後輩の関係なの?」
総務課長には言い合いが先輩と後輩のように聞こえなかったようだ。
「いえあっちは債務者です」
「返したわ!」
「あなたたち仲良いわね」
こんなくだらない言い合いを聞いたところで、なんのためにもならないから聞かない方がいい。
「ほら出来たぞ~」
先輩が料理を食卓まで運んできてくれる。
その間、僕と総務課長は買ってきたものを並べる。
そして先輩の机にはウイスキーのボトルを置いておく。
「これを飲めと?」
「もちろんロックで」
「バカなのか」
「僕の酒が飲めないっていうんですか?」
「それ言うの逆じゃないかしら」
そんなこんなで僕の家での宅飲みが始まった。




