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僕は先輩が羨ましい

「お疲れ、ちょっと聞きたいことあるんだけどいい?」

「俺に要があるのか?」

「そう、ギャンブラーに」

「ギャンブラー呼びやめろ」


先輩が親しげに話しているこの女性は、この社内の総務課長である。

この間、仮眠室の話で先輩が片付けの相談をしたときに


『気になるなら自分たちで片付けろ』


と、冷たく返答したのがこの女性である。


「お前が出したこの書類なんだけど、ここが全然違う」

「はっ?俺が間違うわけないだろ笑」

「間違ってるから来てるって分からない?」


総務課長だが先輩と同期だという。

20代ながらも課長という役職についたすごい人である。

うちの先輩とは比べ物にならない。この人も仕事はできるのだがそれ以外はろくでもないからな。


「冗談だって。教えて」

「ほらここ、住所しっかり調べた?」

「やべっ、ここ前の住所入れてた。すまん」

「そう思うなら金よこせ」


この会話が平社員と総務課長のやり取りには見えない。

同期だからこそ、このやり取りができる。


「じゃあ直しといて。それとあんた何やってんの?」

「これ?拷問」

「この現代社会に?」

「これも全てこいつが」


そういって先輩は僕を指差す。


「そうなの?」

「僕がやりましたけど理由聞けば分かりますよ」


僕は先輩との何があったのかの概要を話した。

総務課長は頷きながら僕の話を聞いていた。

そして、全てを聞き終わった後、総務課長は口を開く。


「あんたが悪い」

「僕の勝ちです」

「そんな~」


僕の勝訴が決定した。

総務課長も先輩があまりにもろくでもないと言いながら、軽く説教をしていた。


「全くもう、これだからあんたは」

「だってさ~」

「全くもう。後輩困らせるぐらいなら私に言いなさいよね」

「ほんと!頼んだ!」


先輩の借金先に総務課長が追加される瞬間に立ち会ってしまったようだ。

総務課長、本当にいいのか?そう思って顔を覗く。


「フフッ」


総務課長は嬉しそうな顔を浮かべている。

あ~そうだった。


「まずいくら欲しいのよ?」

「えっとね~」


この人先輩が好きなんだった。

いや、直接聞いたわけではない。以前飲みの席で課長と話していたのだが、何を話しても先輩の話。口を開けば先輩のことをずっと話している。

最終的には『ほんと面白い人なの』と恋する乙女かのように口ずさんでいた。

それ以降、先輩に対して強い口調では話すが最終的に優しい対応になる、まさにツンデレを感じることが増えた。

そして今もお金を貸そうとしている。


「課長駄目です。やめてください」

「お前余計なことするな!」

「少しぐらい」

「何のために僕やうちの係長が怒ったと思ってるんですか」


この先輩に対して、僕と係長は何度も金銭面で怒っている。

一回一緒に怒った時もあるぐらいだ。後輩に怒られるって。


「少しだけ」

「そんな餌をやるみたいに。実際お金という餌ですけど」


餌やりをしてしまうと、この人ならくれると覚えてしまうから良くない。

次回も総務課長にすり寄って行ってしまう。


「課長仕事は大丈夫ですか?戻った方がいいんじゃないですか?」

「あっそうだった。戻るわね」


良かった。話題転換をしたことで、先輩とこの人を離すことができそうだ。


「ってか、お前土曜日なの仕事してるのな」

「それはね………」


さっきまで明るかった総務課長の顔が一気に暗くなった。


「仕事がたんまりあるの。これが中間管理職」

「まぁ残業つくんだろ?」

「あんた管理職って知ってる?残業がつかないの。それが私」

「「あ~………」」


管理職は残業代がつかない。つまり、就労時間外で仕事をしていたとしても自分の懐には入ってこない。つまり時間外に働けば働くほど、働き損なのである。


「私はいつ仕事しても人件費が同じだからね……はは……」

「なんか、ほんとごめん」


総務課長の凹んでいる顔があまりにも可哀そうだったのか、先輩は素直に謝った。

これが管理職か。

しょうがない、この総務課長を励ます言葉を投げてあげるか。


「先輩、その正座解除していいですよ」

「マジ!?よっしゃ!」

「その代わり、総務課長とお昼を食べて奢ってきてください」

「!?!?」


総務課長は驚いた表情を浮かべる。

想像していない展開になったことで、表情が崩れてしまっている。


「凹ましたんですから、先輩が!奢ってくださいね」

「チッ。しょうがないなぁ~じゃあ行くぞ」

「えっえっえっ」

「何してんだよ。何食べるんだ」

「あっ、い、今調べるね!」


急展開過ぎて話に追いつけていないようだ。

先輩は何も考えていないようだが、総務課長がパニックを起こしていた。


「何気に一緒に昼飯食べに行くの初めてだよな。飲みはあったけど」

「そ、そうだわね」

「なんだその口調」


焦りすぎて日本語が変になっている。

というか、同期なのにお昼一緒に食べたことないのか。まぁ部署も違うしそういうこともあるのか。


「だってあんた、誘おうとするたびにいないんだもん」

「そうだっけ。多分金なさ過ぎて水飲みまくってたときかも」


違う、先輩のだらしなさがお昼を一緒に食べるというイベントを逃していただけだった。


「とりあえず行くか」

「あ、うん!あっちょっと待って」


総務課長は僕の方に近づいてくる。

耳元でささやく。


「ありがと」

「いえいえ」


そして小走りで先輩の方に近づいていく。

僕はその後姿を見て思う。


「はぁ、いいなぁ」


あまりにも羨ましかったので、こそっりと先輩にいくつか仕事を投げておいた。

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