先輩はまたやらかしてしまう
30分ほど続いた先輩への説教。
1時間拗ねて怒っていたとは思えないぐらい先輩が委縮している。いや、なんか小さく見える。
「先輩」
「………ご、ごめんなさい」
「先輩…泣いてます?」
「泣いてない」
そうやって言い張る先輩の目は涙目になっていた。
やばい。言い過ぎたかもしれない。
思ったよりも心に来てしまったのか、これ以上やるとマジで泣きそう。
「先輩?僕もちょっと言い過ぎたかもしれないです」
「そんなことないです。俺が悪いんです」
「あ~めんどくさいやつだこれ」
「そうなんです。俺はめんどくさいやつなんです」
「やばっ、口に出てた」
先輩が病みフェーズに入ってしまった。
自分がめんどくさいとか、自分がいなければとか言い始めた。
やばい。めんどくさい。フル無視したい。
「先輩、ごめんなさいって。先輩も悪いですけど、財布とスマホを忘れた僕も悪いですから」
「その通りだぞ」
「は?」
「というか、なんで後輩にこんな怒られなければいけないんだ。俺は先輩であり上司だぞ」
「………」
開き直りフェーズに入った。
さっきまで罪悪感があったのに、一気にその罪悪感を洗い流してくれるこの先輩。変わりに苛立ちを与えてくれるこの先輩。
「はぁ、てかなんで床に正座なんて…」
「先輩………誰が立って良いって言いました?」
「えっ?」
「あんた反省してないな。ちょっと待ってくださいね」
この先輩は一切反省していない。そんな先輩に僕から今できることはこれぐらいだ。
僕は予備として置いてあるノートPCを先輩の膝の上に置いた。
「そっちで先輩ログインしてください。そしてそっちで今日は仕事してください」
「いや、ちょ、ちょっと待って」
「何か?」
「何かもあるか。こんなところで正座しながら仕事なんて」
「できますよね?」
「できるか」
「できますよね?」
「できるか」
「スマホがどうなってもいいのか」
「できます」
脅し道具があると話が早い。
これでしっかりと反省してもらわないと気が済まない。
「先輩あとどれぐらい仕事あります?時間で例えると」
「時間で計算すると後2時間分ぐらいか…ちょっと待って、2時間この状態でいろってことか?」
さすが仕事はできるだけある。察し能力は高い。
「頑張ってくださいね」
「鬼か貴様」
「なんか文句でも?」
「ありません」
文句を言わせてしまったらこちらの負けだ。
まず反省しないとこうなることを教え込まないと。
「お前ら何してんだ?」
「あっ係長お疲れ様です」
係長が僕たちの異様な光景に気が付いたのか声を掛けてきた。
こんな異常な姿見たら誰だって気にはなるだろう。
「係長!助けてください!こいつが!」
「とりあえずお前が何かしたことはよく分かった」
さすが係長。先輩と同じぐらい察し能力が高くて助かる。
「なんでそっちサイドなんですか!」
「何かするのはお前だって相場が決まっている」
「そんな信用ないんですか!」
「ない」
即答である。ちなみに僕に聞かれても同じ答えを出す。
基本変なことをするのはこの先輩だからだ。
「実はですね………」
僕はこの異様な光景に辿り着くまでの概要を係長に話した。
「それは…こいつが悪い」
係長はそう言って先輩を指さす。
「これを聞いておいて!?財布とスマホを忘れたのはこいつですよ!?」
「いや、そうなったのはお前が理由だろ?お前が悪い」
良かった。係長は僕と同じ被害者の気持ちがよく分かってくれる。
この状態だとどっちが加害者か分からないが。
「でも2時間もこうしろっていうんですよ?係長からこいつに交渉してくださいよ?」
「交渉って言ったって。というかお前、俺が貸したあれは?」
「あれ?ってなんでしたっけ?」
「ほら、肩こりがって言ってマッサージ機貸したじゃん」
先輩が最近肩こりに悩んでいたらしく、係長に相談したところ肩こり用のマッサージ機を貸してもらっていた。
2か月ぐらい前に先輩が係長から借りて、めちゃくちゃ良いと言っていたのを思い出した。
「あ~あれですね………あ~」
「お前なくしたのか?」
「いやなくしては…ちょっと……」
先輩は気まずそうに何かをぼそぼそしゃべっている。
僕にも係長にも聞こえないぐらいの声で。
「一体どうしたんだ?」
「………そこ」
そう言って先輩が指差した場所は、デスクの引き出し。
僕は引き出しを開ける。
確かにマッサージ機はあった。見た目も何も問題がなさそうだ。
「これですか?何も問題なさそうですが…」
僕は電源を入れてみる………が電源を入れても一切動く気配がない。
「これ…壊れてますね」
「………」
「………どういうことだ?」
「これはその………」
話を要約すると、休憩中に使っていて水を飲もうとしたときにがっつりとマッサージ機にこぼしてしまったらしい。そこではまだ動いていたが、焦りまくってマッサージ機を床に落とし、それを思いっきり踏んづけてしまったという。
そこから一切動かなくなってしまったとのこと。
「あ~あ」
思わず口から漏れてしまった。
「お前………これ置いとくな」
係長は何か紙を先輩の膝の上に置いた。
そこに書いてあったのはこのマッサージ機の金額が書かれていた紙だった。
「2万………」
「お前の謝罪の気持ちを載せてもらっても構わないからな」
そういって係長は僕たちの元を去っていった。
「………なぁ、金貸して」
先輩の悲痛な声が聞こえたが、僕はフル無視して仕事に戻るのであった。
ご覧いただきありがとうございました。
次回は1週間後になります。お楽しみください。




