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僕は聖女兵器  作者: 不某逸馬
後章
121/127

Chap.2 - EP4(6)『魔女 ―生贄の宣告―』

 ホランドが捕えられている牢屋。

 そこにギルダが訪れた理由は、アムロイらに魔女という自分の正体を明かしたからではない。

 きっかけは、彼女にある人物が接触したからだった。


 それは聖堂聖騎士(サンクトゥス・ナイト)の一人、オズワルド。

 

 神霊降誕祭(ペンテコステ)の一日前。その日の夕刻。

 城の中でギルダの姿を見つけた彼は、唐突にあんたはアムロイ達の味方なんだろう? と聞いてきた。

 ギルダは「はい」と答える。

 だったら、協力して欲しい。今、捕らわれているアムロイとレイアを、逃したいのだと、彼は言った。

 当然、それはどういう事なんだとギルダが尋ねると、オズワルドはレイアの力で助けたい人がいる。だからどうしてもレイアに死なれては困るからだと答えたのだ。


 そういう風に言えば、アムロイやレイアに忠実な付き人であるギルダなら、オズワルドに協力してくれると考えての言葉――その意図を彼女は察した。

 

 言うまでもなく、彼はギルダの正体を知らない。知らずにこんな大胆で危険な話をもちかけてきたのだ。


 それとは別に、今の話だけでオズワルドの言う助けたい人とやらが彼の弟なんだろういう事も、ギルダは同時に見抜く。


 この時のギルダが何をどう考えたのかは分からない。


 確かなのは、彼女はその申し出を了承したという事だった。

 そして更に詳細な話を聞いた。


 今晩の内に外から人を侵入させ、そいつと協力してアムロイとレイアを助け出す。ギルダにはそのための道案内などを頼みたい――と。


 おそらくその者とはアクセルオの事なのだろうとギルダは推察する。つまり紛れもなく、これは内部からの謀反だった。


 普通に聞けば、危ない話だし無謀な計画でしかないだろう。

 しかし魔女にとってそれは、好都合な提案だったのだ。


 話を聞き終え、ギルダはオズワルドの計画へ協力を承知する。

 その後彼女は、すぐさま行動を開始したのだった。


 まずは、ホランドに〝あの人〟を会わせよう――と。


 これまた、ある意味で危険な賭けだったが、どちらにしてもそうなる運命だったのだ。




 そして今、ギルダはホランドは連れて、城の中を移動していた。


 ホランドは項垂れ、まるで尾羽打ち枯らした鳥のようにしおれた状態だったが、ギルダには関係ない。


 ちなみにこの時、ギルダは元の使用人の姿に戻っていたが、それでも罪人として捕らえられた司祭と、隣国の下女が城の中を練り歩くのは、不自然でしかないだろう。

 しかしその姿を見て一瞬は不審な目を誰もが向けたとしても、これに対し咎められる事はなかった。

 何故なら二人だけではなく、そこにはジェラルド国王も随伴していたからだ。


 王が連れているのなら、疑う者などいるはずもない。


 やがて長い回廊を渡り、三人はとある建物に入っていく。

 建物の外には見張りの兵が何人もいた。中にも複数の警護がいる。露骨なほど、厳重な警備が布かれてあった。


 それもそのはず。


 中にいるのは、捕らえられたレイアとアムロイだったからだ。


 この建物は、本来は一種の避難場所であり、貴賓や高貴な身分の者を一時的に匿う事を目的に造られたものだった。匿うという事は、逆に用いれば閉じ込めるためにも使えるという事。


 レイアは一国の女王だし、アムロイは容態不確かな傷病人であるため、ダンメルク王国は二人をここに幽閉したというわけであった。


 建物の中は、区分けされた部屋がある。その中でも特に警戒厳重な部屋。

 警護には神霊力を持った騎士がついている。それを少し下がらせ、三人は部屋に入っていった。



 ――――



 中には、寝台で眠るアムロイと、介護をしているレイアの姿があった。


「甲斐甲斐しいね、レイア君」


 訪問の報せもなく、いきなり語りかけた王の姿を見て驚くレイアだったが、一緒にいたもう二人の姿を見て、尚の事表情を強張らせた。


「……どういう事でしょう……?」

「ギルダ・スタンカについては、本人から聞いたんだろう? 彼女についてはそういう事だ。ギルダは元より、我らダンメルクからゼーランに派遣された魔女(ウェルム)であり、我々のために動いてくれていた」

「……!」


 改めて国王の口から事実を聞かされると、レイアの腹わたが煮えくりかえりそうになる。


「そしてホランド・ジャンセン君だ」


 顔からは血の気が失せ、ずっと下を向いたまま。吹けば飛びそうなほど弱々しい立ち姿をしている。


「聞いていると思うが、彼こそが君の兄を殺めた真犯人だ」


 そう――。


 ずっとジャンヌ・ジャンセンこそが、兄・オヴィリオの死のきっかけになったのだと、レイアは思っていた。直接の殺人犯はダンメルクからの刺客であったにせよ、ジャンヌが原因を作ったのだと。


 ある意味においてそこは変わってないのだが、それでも、直接の犯人が刺客ではなくホランドであったのなら、話はまるで違ってくる。


 アムロイは、彼女の養父であるパウル王に危害を加えられそうになったから、やむを得ず王をその手にかけたのだと聞かされた。

 それが事実なら――おそらくそうであるとレイアも思っているが――アムロイには同情さえすれ、憎むべき理由はない。

 ならばおそらくホランドは、それを助けようとしたのだろう。その事は容易に想像がつく。


 だがそれによって、レイアの兄オヴィリオまでも殺された。


 ホランド司祭の手で。


 どういう理由で?

 巻き込まれたのか? 他に考えられる理由はあるだろうか?

 兄王子までもが父王と同じくアムロイを害しようとした、などという事は有り得ない。


 そもそもオヴィリオは、心の底からアムロイの味方だったはずだ。

 アムロイ――ジャンヌへの献身は、本物だったと。

 ならば、ジャンヌを手にかけようとした父にショックを受ける事はあっても、兄がパウル王と結託してジャンヌを害する事など決してない。

 それだけは間違いないと、レイアは断言出来た。


 ――だって、アムロイと(・・・・・)兄上ですもの(・・・・・・)


 なのにホランドは、兄を手にかけた。


 意図してのものか事故なのかは分からない。

 それでも、兄を殺したホランドを許せるはずがなかった。

 聖職者の身でありながら人を殺したという事も、ずっと今までその事をレイアに黙っていた事も、全部許せない。

 何より、アムロイを助け(・・・・・・・)ようとしたから(・・・・・・・)――それが一番許せなかった。


 レイアが例えようもないほどの憎しみの目で、ホランドを睨み据える。

 しかしホランドはずっと下を向いて、視線を合わせるどころかレイアの方を見もしなかった。


「怒りは尤もだが、堪えてくれないか、レイア君」

「だったらどうして――何のためにここへ……? レイアを馬鹿にするためですか」

「そんな失礼な事はしないよ。君は一国の王。私とは対等じゃないかね」


 対等というジェラルド王の言葉に乾いた笑いを浮かべるレイア。今の軟禁状態のどこがそうなんだと言いたいが、言ったところで意味はない事くらいは分かっているので、冷笑するのがせいぜいだった。


「今日来たのは、そこで眠るアムロイ君に目覚めてもらうためだ」

「え――?」

「ホランド君を連れてきたのもそのためだよ。全部を知ってもらうためにね」


 全部を知る。


一体何の全部というのか、レイアはまるで分からなかった。分からないけれど、それが喜ばしい事でないのだけは分かった。


「レイア・ウルフ。君には明日、神霊降誕祭(ペンテコステ)一柱(ひとはしら)になってもらう」

一柱ひとはしら……?」

「本当は昨日、モーリスからこの事を話して何もかもに納得してもらうつもりだったんだが……まさかモーリスの気紛れで攫った君の兄王子が騒ぎを起こすとは、思ってなかったからね」


 そこでレイアは気付いた。

 アクセルオをこの国に連れてきたのはモーリス博士だが、そう仕向けたのは目の前の魔女ギルダである事を思い出す。となると、ジェラルド王が言うところの本来の予定と違う現状になっているのは、この魔女のせいだという事だ。そして今、レイアの懐には魔女から渡された不気味な卵があった。


 つまり今のジェラルド王の一言から分かるのは、ギルダの動きの全てを、王やモーリスも把握はしてないという事。


 一体誰が味方で敵なのか――。


 もう誰も信じられなくなっていた。


 信じていたギルダは最も悪辣な裏切り者で、ホランドもまた兄の仇であったのだから。


「何も信じられない――そんな目をしているけれど、今からの事は紛れもなく〝真実〟だよ」


 まるでレイアの心を見透かしたかのようなジェラルドの言葉は、むしろ彼女の警戒心を強くしたが、しかしそれは次の瞬間、いとも容易く崩れ去る事になった。


 一体、いつ――。


 ジェラルド王。


 ホランド司祭。


 ギルダ。



 そこに、もう一人。



 それが誰なのか、最初レイアは分からなかった。


「誰……?」


 その人物が誰か。それを知ってはいけないとどこかで分かっていた。

 分かっていたのに――。



「〝――〟だ」



 王の放った言葉を耳にした途端、レイアはの心は凍りつく。


「そんな……まさか……」


 レイアは驚愕する。そして混乱する。


 同時に、全部を知るという言葉の意味を、理解した。


 この目の前にいるのが、〝全部〟なのだ。

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