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僕は聖女兵器  作者: 不某逸馬
後章
120/127

Chap.2 - EP4(5)『魔女 ―汚れた涙―』

 時間は少し遡り、昨夜――。

 アムロイがアクセルオ救出のために双子の塔へ侵入したのとほぼ同じ時刻、ホランドは神霊降誕祭(ペンテコステ)の儀式に使われる台座へと向かっていた。


 台座に仕掛けをして壊し、騒動を起こす。


 この騒ぎが大きくなるほどそちらにも人を割く事になり、アクセルオ救出を行うアムロイの助けになればと考えての行動だった。加えて、そもそもこの儀式の危険性について、ホランドはモーリス博士からの明確な回答を貰えていない。そのため、儀式そのものも中止すべきだと、未だに強く考えていたのもあった。


 そういった意味でも、これはやるべきだとホランドは強く思っていた。

 過激すぎるというか危険すぎる行為だという事は重々承知していたし、だからこそこの計画は誰にも言わなかったのである。


 が、結果は既に知られている通り。


 王都で密かに調達したと思っていた火薬からアシがつき、見張られていた事にも気付かずリカードに捕らえられたのである。


 実にマヌケだな――とリカードにも嘲笑わらわれたが、その通り過ぎて何も言い返せなかった。所詮は素人の浅知恵的な発想でしかなく、そんな簡単に工作行為が上手くいくほど世の中は甘くないという事だろう。


 後悔している、していないというより、自分の思慮に欠けた行為でアムロイの足を引っ張るような事になっていなければと、それを念じるしかこの時のホランドに出来る事はなかった。


 何故ならその後の彼は、牢屋の中。


 さすがに爆破行為を行おうとしたとあれば、重罪人扱いになるのは当然だ。


 そんな中、捕まってから城内がやたらと騒がしくなっていると、ホランドは気付く。

 おそらくアクセルオの脱出によるものだと、彼は思っていたのだ。


 無事にいったのだろうか。アムロイもどうなったのか。

 鉄格子に阻まれて何も分からない。


 そんな中、檻の中の彼の元に、使用人のギルダが訪れる。

 仲間の顔を目にして、思わず縋るような声が漏れた。


「ギルダ……! アムロイは……殿下はどうなった?! 無事なのか?!」


 格子を掴む様子は、命乞いをする咎人のようであった。

 けれどもギルダは無表情のまま、何も言わずに立っているだけ。


「どうした? 何で答えてくれない? 今はどうなってるんだ――」

「アクセルオ殿下は、無事に逃げおおせました」

「殿下が……そうなのか……」

「アムロイ様、レイア陛下のお二人は、貴方と同様捕まって、今は閉じ込められております」

「何……だって――!」


 顔から血の気の引くホランド。やはり最悪の事態になっていたかと、絶望が虫のように足元から這い上がり力を奪う。


「ご苦労様です。ホランド殿」


 顔を俯かせていたホランドが、怪訝に上を向く。

 牢屋の中、僅かな明かりが逆光になってギルダの表情を黒く塗り潰す。


「ギルダ……?」

「貴方はよくやってくださいました。流石ですね」

「どう言う意味だ?」

神霊降誕祭(ペンテコステ)は明日行われます」

「な――」

「儀式の準備も万端。それに最も重要なのは、貴方がいたからこそ望み通りになれたという事。その労いですよ」

「何を言ってるんだ……?」


 やはりギルダが分からない。

 おどおどしながらも活動的で熱心で、アムロイのためならどんな事だって明るく力になる――そんな彼女だったはず。

 なのに、急にそうではなくなった。


 ――いや、もしかすると本当の彼女は……。


「今更ですね。貴方の前で、もうこの姿でいる必要もないでしょう」


 そう言って、ギルダは円字を切った。

 ただしテルス教の動きとは違い、最初が逆だった。テルス教は両手を合わせて手を下から上に縦一文字で切り、左右で半円を描いて手を合わせる。

 ギルダの動きは上から下に切るもの。


 それはテルス教において禁忌とされる動き。

 最も邪悪な祈りのかたち。


「今のは、邪霊(ウェルミス)の――」


 逆円字と呼ばれるサインをした直後、ギルダの足元から無数の黒い虫のようなものが湧き出てくる。それは彼女の全身を包み込んだかと思えば、たちまち泡となって消えていった。


 中からは、使用人の服装ではない姿が出現した。


 黒のドレスに身を包み、華美な襟巻きを肩にかけたギルダ。


 ホランドは目を剥く。

 そして気付く。

 姿だけでも彼には分かった。


「まさか……君が……魔女(ウェルム)なのか……」

「そうよ。貴方にとっては部下みたいなもの(・・・・・・・・)ね」

「は……?」


 部下、という言葉に当惑する。

 ホランドは司祭だ。髪の毛から足先に至るまで全てを神霊と聖女に仕える事を使命とした純粋な教徒である。ギルダの正体など知るはずもないし、ましてや邪霊や魔女に関わり合いなどあるはずもない。

 なのに、まるで魔女のギルダの存在を既知であるかのように彼女は言った。

 どういう言動なのか。


「どういう意味か分からないが……君が裏で糸を引いていたんだな」

「いいえ。私ではないわ」

「何? まさか他にも魔女(ウェルム)が――」

「それも違う。私が糸を引いていたんじゃなくて、私は糸そのもの。私も駒の一つよ」


 意味を理解するのに、ホランドはほんの少しだけ時間がかかった。

 ジャンヌ――アムロイ――に起きた一連の事件には魔女の痕跡があった。その正体がギルダだったのは間違いない。なのに、そのギルダもまたそれらの元凶ではないと、彼女は言っているのだ。


「と言うより、まだ分からないの? 私がこの姿を見せれば、思い出す(・・・・)と思ってたのに、さすがにすごいわね」


 何を言っているのだろう? 思い出す? 何を?


 黒衣の魔女を凝っと睨むも、ホランドは何も分からない。思い出すような何かも、まるで浮かんでこなかった。


「さっきも言ったけど、儀式は明日。もう最終の仕上げなのよ。ここまで来れば、貴方にも本来の役割に戻ってもらわなければと思ったんだけど――まだダメなのね」

「だから何を――」


 言いかけて、ホランドは絶句する。声が、思考が奪われたような感覚になった。

 薄暗い牢屋の中、鉄格子の向こうに黒衣の魔女。

 その後ろに――。


「は……?」


 音もなく気配もなく――だった。


「何が……どういう……」


 しかし次の瞬間、ホランドは全てを思い出した。


 いや、考えないようにしていた――蓋をしていた全てが、脳内に解き放たれたと言ってよかった。



 彼の過去――。



 アムロイとの思い出――。



 三年前の悲劇――。



 アムロイとの再会――。



 そして。


 ラグイルは言った。


 ――分かってんだろ? お前はさ。それとも分かってる事自体(・・・・・・・・)分かんねえのか(・・・・・・・)



 そうだ。自分は分かっていた。

 アムロイと再会した時も。

 その後でも。



 オヴィリオが守護士(ガードナー)になった時も。



 アムロイがレイアの守護士(ガードナー)になった時も。



 どの時も分かっていたのに、それを口にしなかった(・・・・・・・)



 いや、出来なかった(・・・・・・)


 その理由の全てを、彼は思い出したのだ。


 〝それ〟は告げる。


「もう悩まなくていい」


 そうだ。ラグイルは言っていた。


 神霊は嘘をつかない。嘘をつけないと。


 あの砕けた乱暴な物言いのせいで、アムロイもホランドもそれを聞き流していた。けれど最初からずっと、ラグイルは言っていたのだ、分かっていたのだ。

 本当の事を。全ての真実を。

 それを隠さずに口にしていたのだ。

 なのに――。



「〝汚れなき〟ホランド」



 ホランドの頬に、涙が伝った。


 それは、彼の罪に汚れた涙だった。


 そうしてホランドは、牢屋から解放された。


 何もかもを、終わらせるために。

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