第12話 双子猿
首長の町へ入ってから、俺たちは大きな屋敷へ案内された。
ここが首長家の屋敷らしい。
俺にとって首長の町そのものが初めてなら、当然この屋敷に入るのも初めてだ。周囲を見回してみても、何もかもが新鮮だった。ブリガン族の本拠地にも大きな建物はあるが、ここは雰囲気からして違う。アルヴァン民族中から人が集まる場所だけあって、屋敷の中にも様々な部族の人間が行き交っている。
父さんに連れられて廊下を歩いていると、少し開けた部屋へ通された。
「ここで待っていろ」
「父さんは?」
「俺はブライアンと話がある。お前たちはここにいればいい」
そう言って、父さんは部屋を出ていった。
……おい。
4人の婿候補をまとめて置いていくのか。
もう少し説明とか、注意事項とか、そういうものはないのだろうか。
俺がそんなことを考えていると、向かいにいた赤髪の少年が口を開いた。
片方は赤い髪に茶色の瞳をしていて、見るからに元気そうだ。もう片方も赤髪に茶色の瞳で、顔立ちもよく似ている。
なるほど。
これがダルリア族大族長の息子、ブレナンとドナールか。
「初めまして!」
赤髪の少年が、こちらへ近づいてきた。
「俺がブレナンだ!」
「僕はドナール」
もう一人も名乗る。
「僕はリース。ブリガン族の大族長、コルマックの長男だよ」
「知ってる!」
ブレナンが即答した。
「俺も知ってる」
ドナールも続く。
どうやら3人とも互いの名前くらいは知らされていたらしい。
とはいえ、顔を合わせるのは今日が初めてだ。
「よろしく」
「おう!」
ブレナンは元気よく返事をした。
俺は2人を改めて観察する。
体格も10歳にしてはしっかりしている。
いかにもダルリア族らしい。
……まあ、実際にダルリア族の人間を何人も見たわけではないが。
「お前、強いのか?」
いきなりブレナンが聞いてきた。
「普通じゃないかな」
「なんだそれ」
「僕は戦うより考える方が得意なんだ」
「じゃあ今度勝負しようぜ!」
「何の?」
「それはこれから考える!」
「雑だなあ……」
ドナールが横で笑った。
「ブレナンはいつもこんな感じだ」
「お前もだろ!」
「俺はもう少し考えてる」
「どこがだよ!」
どうやら2人とも、とにかく元気らしい。
そんなやり取りをしていると、廊下の向こうから足音が聞こえてきた。
「フィオナ様がお見えです」
誰かがそう告げた。
俺たちは一斉にそちらを向いた。
そして――。
少女が姿を現した。
銀色の髪。
肩から流れるように伸びた銀髪は、光を受けると淡く輝いて見える。
そして、こちらを見つめる瞳は美しい翡翠色。
まだ10歳らしい幼さは残っている。
けれど、顔立ちはとても整っていて、清楚で上品な雰囲気をまとっていた。
「……」
ブレナンが固まった。
「……」
ドナールも固まった。
さっきまで騒いでいた2人が、突然置物になった。
俺はその様子を見て首を傾げる。
「どうしたの?」
2人とも答えない。
フィオナがこちらへ歩いてくる。
「こんにちは」
その一言で、ブレナンがようやく復活した。
「こ、こんにちは!」
声が裏返った。
俺は思わずブレナンを見る。
さっきまで「俺がブレナンだ!」と大声で叫んでいた奴が、今では妙に姿勢を正している。
ドナールも似たようなものだった。
「……こんにちは」
声がいつもより小さい。
これは....惚れたな。
10歳とはいえ、分かりやすすぎる。まるで発情期の双子猿のようだ。
フィオナは俺たち3人を順番に見た。
「初めまして、ですよね?」
「う、うん!」
「そうだな!」
「僕も初めまして」
俺たちはそれぞれ答えた。
当然だ。
今日が4人全員とフィオナの初対面なのだから。
フィオナは少し微笑んだ。
「フィオナ・カレドです。よろしくお願いします」
「俺はブレナン!」
「ドナールだ」
「リースだよ」
それぞれ自己紹介をする。
俺はそこで、改めてフィオナを見た。
銀髪。
翡翠の瞳。
整った顔立ち。
清楚な雰囲気。
うむ。
私立異世界美少女検定協会開催
異世界美少女検定
その判定は2級だ。
それはまず判定基準からだ。
1級 いうことないし!惚れた!
準1級 いうことなし!惚れそう!
2級 あともう少し!
3級 タイプじゃないけど美少女
準3級 タイプじゃないし、あともう少しだけど美少女
4級 アニメとかで背景になってるモブ美少女
準4級 現実世界レベル美少女
5級 ブスキャラ
なぜ2級なのか?
それはまだ10歳だからだ。
10歳児に準1級判定は早い。
なんせヒンny... ゲフンゲフン
ともかく、これは将来性込みの2級である。
ロリコンからすると食べ頃であろう。
素晴らしい。俺は密かに心の中でフィオナに賞賛の拍手を送った。
「賞状
あなたは私立異世界美少女検定協会が主催、第一回異世界美少女検定において2級という優秀な性癖を収められましたので今後の精進を期待しここに賞します。
私立異世界美少女検定協会会長鈴木大翔」
おめでとう。パチパチパチパチ 盛大な拍手が体育館に鳴り響く。
そんな俺の隣では、ブレナンとドナールが明らかに挙動不審になっていた。
「えっと……フィオナは、好きなものとかあるのか?」
ブレナンが聞いた。
「好きなもの?」
「そう!」
「……動物とか、森とか?」
「俺も森好きだ!」
「急に何を張り合ってるんだ、お前」
ドナールが呆れたように言う。
「うるせえ!」
「ブレナンは森が好きなんだね」
フィオナが笑う。
その瞬間、ブレナンの顔がさらに赤くなった。
……こいつ、本当に分かりやすいな。
ドナールもフィオナを見ながら、少しだけ頬を赤くしている。
双子揃ってか。
なるほど。
これは初恋and三角関係というやつか。
10歳児の恋愛事情など、前世でもあまり縁がなかった。
俺は、初めて会った女の子を見て、現実世界美少女検定をしているくらいだ。
発情期の双子猿と違って良心的なのだ。
「リース?」
フィオナが俺を見る。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
「そう?」
フィオナは少し首を傾げる。
その仕草もなかなか可愛い。
……2級継続。
俺の中で謎の判定が続いていた。
すると、後ろから父さんの声が飛んできた。
「お前たち、いつまで立っている。座って話せ」
「はい!」
ブレナンが元気よく返事をする。
その声を聞いて、俺は思った。
さっきより明らかに張り切っている。
分かりやすい。
フィオナ・カレド
アルヴァン民族の首長の一人娘。
そして異世界美少女検定2級獲得者。
どうやらこれから始まる婿候補争いは、俺が思っていたよりずっと面白いものになりそうだった。




