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第91.5話:閑話・深淵への出師(しすい)――分かたれる翼と、絆のポータル

### 第91.5話:閑話・深淵への出師しすい――分かたれる翼と、絆のポータル

この物語がこれまで語られなかったのには理由がある。

ゲンショウ、マルコ、カノンという三つの星系の救済ミッションは、まさに分刻みのスケジュールで遂行されていた。その裏側で、冥界神アイゼルと軍師ジン、そしてカイトの間では、**「救うべき命の数に対し、リオンの体が一つでは足りない」**という冷酷な数学的限界リミットについての議論が、密かに、かつ熾烈に行われていたのである。

これは、アストラル・クルーザー・マキナが銀河の最深部へ向かう直前、ゲンショウ救出の裏側で結ばれた、**「第二艦隊」**創設にまつわる秘話である。

#### 1. 冥界神の進言:深淵は「一隻」では超えられない

「リオン、そして皆。喜んでいるところ悪いですが、現実を見なさい」

作戦室の円卓に、漆黒のドレスを纏った冥界神アイゼルが、いつになく厳しい表情で現れた。彼女が指し示したのは、宇宙の最深部――全バグの根源である**『深淵の特異点アビス・シンギュラリティ』**の観測データである。

『ここから先、特異点の重力圏に入れば、時間の流れも空間の理も歪みます。一度潜れば、外宇宙の他の星々へ戻るには、年単位の歳月が必要になるでしょう』

「……つまり、俺たちが特異点の調査に行っている間、他のSOSを出している星は見捨てなきゃいけないってこと?」

リオンが悲しげに瞳を揺らす。

『そうですわ。ですが、解決策が一つだけあります。……リオン、貴方の「慈愛」を分かち、**第二艦隊**を組織するのです』

#### 2. 第二艦隊構想:魂の選抜と「慈愛の砲台」

アイゼルの提案は壮大であった。

救出した転生者たちの中から、指揮能力に長けた覇王カイザー、防御魔法の権化である大賢者マグナス、そして精神的支柱となる聖女ナナミを選抜。リオンの「箱庭」にある潤沢な資源と、カイトの科学力、神々の権能を注ぎ込んだ「量産型救済艦」を建造するというものだ。

「だがアイゼル様。リオン君の『テイム(浄化)』がなければ、瘴気に汚染された魔物や星を救うことはできません」

カイトが鋭く指摘する。

『ええ。ですから、この艦隊の旗艦には、リオンの魔力を物理的に結晶化させた**『慈愛の結晶砲(フィリア・カノン)』**を搭載します』

> **【神域の擬似テイム・システム】**

>

>

> ※リオンが込めた「助けたい」という意志をエネルギー弾として発射。着弾した瞬間にリオンのテイム波動を疑似的に再現し、魔物を傷つけずに浄化・無力化する。

>

「俺の力が、みんなの役に立つなら……。アイゼル様、お願いします! 俺たちがいない間も、みんなを守れる艦隊を作ってください!」

リオンの承諾と共に、神々の「本気」が動き出した。

#### 3. 神々の御業:安全性の確保とポータルの接続

アルトワール神とクロノア神が、この計画のために「過保護」の粋を集めた造船を開始した。

* **神域装甲(ディバイン・アーマー)の付与:**

アルトワールが、第二艦隊の全艦艇に「リオンが心配で夜も眠れない」という念を込めた防御結界を付与。船が傷つく前に、空間そのものが「リオンが悲しむからダメ!」と物理的ダメージを拒絶する仕様。

* **絆の門(エーテル・ポータル)の構築:**

輪廻神クロノアが、第一艦隊リオンと第二艦隊を結ぶ「超空間ポータル」を核として設置。

『緊急事態(Sランク以上)が発生した際、第二艦隊のピンチを察知したリオン様がレバーを引けば、第一艦隊が次元を飛び越えて即座に救援に駆けつけられる』という、絶対の安全保障である。

「カイザーさん、マグナスさん。……留守をお願いしてもいいかな?」

リオンが不安げに尋ねると、浴衣姿から再び漆黒の鎧(浄化済み)に身を包んだカイザーが、力強く頷いた。

「任せておけ、リオン殿。貴殿に救われたこの命、今度は私が誰かを救うために使おう。……何より、あのお節介な神々がここまで過保護な船を用意してくれたのだ。墜ちろと言われても墜ちんよ」

#### 4. 出航:二つの正義、一つの目的

この会議は、ゲンショウの救出に向かう直前にまとめられた。

リオンたちが地表でゲンショウやカノンを救っている間、宇宙のドックではカイトの自律ドローンたちが、神の祝福を受けた「第二艦隊」を次々と完成させていたのである。

**【第二艦隊:慈愛の翼ベネボレント・ウィング】**

* **総旗艦:** 『純白の箱舟(アーク・リオン)

* **提督:** カイザー(元覇王)

* **魔導補佐:** マグナス(大賢者)

* **救護総監:** ナナミ(聖女)

「よし……これで、俺たちは安心して『深淵』に向かえるね」

リオンが満足げに頷く。

第一艦隊は、宇宙のバグの根源を断つための「剣」となり。

第二艦隊は、残された星々を拾い上げる「盾」となる。

「カイトさん、ジンさん! 第二艦隊とのリンク、正常だよね?」

「ああ。ポータルの接続はオールグリーンだ。……リオン君、君の慈愛は今、この銀河全体に広がるネットワークとなったぞ」

白銀の『アストラル・クルーザー・マキナ』が、深淵の特異点に向けて加速を開始する。

その背後には、同じ輝きを放つ数隻の艦影が、別の銀河へと向かって翼を広げていた。

**布石は打たれた。**

愛する者たちを背後に残し、リオンたちはついに、神話の深淵――世界の「設計図」が狂い始めた最終領域へと、その機首を向けるのである。


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