第90話:星屑の多重債務者と、銀河を巡る水銀の流体神
### 第90話:星屑の多重債務者と、銀河を巡る水銀の流体神
次なる目的地は、第八銀河のハブとなっていた巨大商業小惑星帯『スターダスト・マーケット』。
かつては数千の宇宙船が行き交い、銀河中の富が集まる黄金の港と呼ばれた場所だが、今はどす黒い瘴気に包囲され、静かに息絶えようとしていた。
「……マスター。前方、商業コロニー群を包囲する銀色の雲を確認。……アレは瘴気デハアリマセン。個体数、推定一億を超える金属生命体ノ群れデス」
メテオの電子音声が響き、メインモニターには「液体のようにうごめく銀色の海」が映し出された。
「お師匠様! あれがAランク魔物、**『流体水銀の機巧粘体》』**ですね! 一つ一つは小さなスライムなのに、群れ全体で一つの巨大な計算機を構成している……。錬金術的に見て、最高級の触媒ですわ!」
シズルが目を輝かせ、手帳に猛烈な勢いでメモを取る。
「うん、キラキラしてて綺麗だね! シズク(リオンの初期スライム)も『新しいお友達かな?』ってワクワクしてるよ!」
#### 1. 絶望の豪商:魂の貸借対照表
商業コロニーの中央司令室。
そこでは、一人の男が血で書かれた契約書を握りしめ、震えていた。
かつて異世界で「金こそすべて」と豪語し、この星を買い取った**豪商マルコ**である。
「……くっ、魔力の支払期限が来たか。……おい、悪魔! まだ私の『寿命』は残っているはずだ! それを担保に、もう一度だけ障壁の出力を上げろ!」
『ククク……。マルコよ、お前の寿命はあと数分。魂はすでにスカスカだ。……だが安心しろ。お前が死んだ後、このコロニーの民たちは、私がじっくりと絶望の糧にしてやろう』
マルコの背後に浮かぶ黒い影が嘲笑う。
マルコは強欲な商人だった。だが、彼が私財を投げ打ち、最後には自分の命(寿命)まで売ったのは、自分を信じて付いてきた何十万という従業員と、その家族を守るためだった。
(……笑えない冗談だ。最後に残った帳尻が、自分の死なんてな。……皆、すまない。私の経営は、失敗だった……)
その時、コロニーを覆っていた銀色のスライムの海が、突如として真っ二つに割れた。
#### 2. 強制買収:流体神の誕生
「ジンさん、カイトさん! あの悪魔さん、マルコさんをいじめてる! 返してもらわなきゃ!」
「了解だ。……カイト、あの悪魔の契約を物理的に破棄できるか?」
「簡単だ。悪魔の法など、俺の演算鏡の前では脆弱性の塊に過ぎん」
>
> **【System Message】**
> **不正な契約を検知。債務をリオンの慈愛エネルギーで一括返済。悪魔のログイン権限を永久追放(BAN)します。**
>
**ピシャァァァァァァンッ!!**
カイトの指先から放たれた論理の雷が、マルコの背後の悪魔を跡形もなく消し飛ばした。
同時に、コロニーに襲いかかっていた一億のスライム群のど真ん中に、リオンがシズクと共に舞い降りる。
「みんな、お腹が空いてこのコロニーの魔力を食べてたんだね。……マルコさんの命を食べちゃダメだよ。代わりに、俺の魔法をいっぱいあげるから!」
リオンが【神羅万象の絆】を解放した。
一億のスライムたちが、黄金の光に包まれ、一つに収束していく。
銀色の波がうねり、巨大なひとつの球体となった。
『ピコンッ!』
『流体水銀の機巧粘体(Aランク)のテイムに成功しました!』
「君はとってもサラサラしてて、鏡みたいにピカピカだから……名前は**『ミラー』**だよ!」
その瞬間、宇宙が鳴動した。
**ピカァァァァァァァァンッ!!!!**
一億の個体が完全同調し、個体それぞれの意志が「神の演算」へと統合される。
ただの水銀スライムだったミラーは、宇宙のあらゆる事象をシミュレートする「生きた水銀の鏡」へと変貌を遂げた。
『名付けによる超常進化を確認しました。』
『流体水銀の機巧粘体は、**【万象を映す流体神】(SSSランク)**へとランクアップしました!』
「……またSSSか。もはや驚く気力も失せたな」
ジンが肩をすくめ、カイトはミラーの演算能力を見て「これがあれば、俺のパソコンの処理速度が光速を超える……!」と狂喜の笑みを浮かべていた。
#### 3. 神の六度目の土下座と、宇宙規模のマネー・スローライフ
マルコとコロニーの民たちは、リヴァイ(天鯨)に丸呑みにされ、箱庭の「黄金の商業エリア」へと移設された。
そこは、アルトワール神が新設した、地面に金貨が実り、川からは黄金のリンゴが流れてくる、商人の楽園である。
命を吹き返したマルコが、呆然と黄金の川を見つめていると、空から光が降り注いだ。
**ズザァァァァァッ!!**
『本当に、本当に申し訳ありませんでしたぁぁッ!! 商売の才能がある者を、過酷なデフレ宇宙に放り込んで借金まみれにさせるなど、神として破産モノの罪!!』
輪廻神クロノアの、安定感すら感じるスライディング土下座(六回目)が芝生を焦がす。
『カッカッカッ! クロノアよ、もはやお前の土下座は箱庭の伝統芸能だな!』
アルトワールが、今回も贅沢にポップコーンをぶちまけながら現れた。
『よくぞ耐え抜いたマルコ! お前の「民のために自分の命を売る」という経営理念、神として感服したぞ! さあ、これからは借金に怯えぬ、最高のビジネス・ライフを楽しむがよい!』
> **【マルコへの付与:|神域の無限資本&全自動・黄金取引システム《エターナル・ゴールド・マーケット》】**
> **効果:** マルコが「これを売りたい」と思えば、神の力で全宇宙から需要がマッチングされ、秒速で売買が成立する。さらに、彼が発行する「マルコ・コイン」は、箱庭内の魔物や住人間での共通通貨となり、彼が寝ていても手数料で資産が無限に増え続ける不労所得システムを完備。
>
「……はは、はははは! なんだこれ、夢か!? 債務超過どころか、銀河一の富豪を通り越して、経済そのものになっちまったぞ!!」
マルコが黄金のリンゴをかじりながら、狂ったように笑い出した。
> **【従業員たちへの付与:|過労知らずのホワイト・ワーク・ブレス《マイナー・ハッピー・ワーカー》】**
> **効果:** どれだけ働いても疲労がたまらず、仕事が「趣味のパズル」のように楽しく感じられるようになる。さらに、福利厚生として「毎日必ず定時で帰らされ、神の給与が振り込まれる」強制ホワイトスキルを完備。
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「「「うわぁぁぁぁっ! ホワイト企業だぁぁ!! 定時退社バンザイ!!」」」
一万年(感覚的に)サービス残業を続けてきた従業員たちが、涙を流してオフィス(箱庭コテージ)へと走り去っていく。
「マルコさん、これからは無理しないで、みんなと一緒に美味しいものを売るお店を作ろうね!」
「……ああ。リオン様。貴方は、私の人生で出会った中で、最も素晴らしい『価値ある宝石』だ」
SSSランクの流体神ミラーを仲間に加え、箱庭はもはや「一国の経済」を飲み込んだ独立国家へと進化した。
残る目標は最後の一人、絶唱の歌姫カノンと、Sランクの凍星の不死鳥。
リオンたちの救出ツアーは、いよいよ宇宙を揺るがすフィナーレへと向かって加速していく。




