第89話:機巧廃棄星の老武闘家と、星を背負う巨亀(お引っ越し・オン・ザ・タートル)
### 第89話:機巧廃棄星の老武闘家と、星を背負う巨亀(お引っ越し・オン・ザ・タートル)
白銀の超弩級戦艦『アストラル・クルーザー・マキナ』が、空間の歪みを抜けて第五銀河へと実体化した。
メインモニターに映し出されたのは、無数の機械の残骸が土星の環のように取り巻く『機巧廃棄星』。そして、その星の軌道上をゆっくりと回遊する、あまりにも巨大な「生命体」の姿だった。
「……デカい。小惑星クラスなんてもんじゃないぞ。あれ自体が一つの『生態系』として独立している」
カイトが演算鏡を起動し、ホログラム上に巨大な数式を展開した。
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> ※岩石密度 \rho_{\text{rock}} と森林の質量 \rho_{\text{forest}}、および内包魔力 \Psi_{\text{mana}} の体積分。月と同等の質量を誇る超常の生物。
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「これがSSランク宇宙魔物……**『星殻の巨亀』**。背中に美しい森と湖の『大陸』を丸ごと背負って、宇宙を泳いでいるのか」
シンが、展望ガラスに張り付いて目を丸くする。
「お師匠様! あの亀さんの背中の土、おそらく数万年分の星の養分が濃縮されています! あそこでなら、どんな幻の魔物フードの素材も育て放題です!」
シズルが、錬金術師としての血を騒がせて鼻息を荒くした。
「うん! すっごく大きくてかっこいい! ……でも、その前に」
リオンの琥珀色の瞳が、巨亀から、眼下に広がる死の星(機巧廃棄星)へと向けられた。
「星の地表で、一人で頑張ってるおじいちゃんを助けに行こう!」
#### 1. 限界の武闘家:孤児たちを背に
機巧廃棄星の地表。
鉄屑の山に囲まれたドーム状のシェルター(孤児院)の前に、一人の老人が立っていた。
「……シィィィッ!! ――【絶空・崩拳】!!」
**ガガァァァァンッ!!**
老人の右腕から放たれた衝撃波が、迫り来る何十体もの「瘴気汚染ドローン」を粉々に吹き飛ばす。
彼の名は**ゲンショウ**。かつて地球(日本)で古武術を極め、この星に転生した後、瘴気に抗うために己の肉体の$90%$を「機械化(サイボーグ化)」した老武闘家である。
「ゲホッ……! ぐぅ……油圧シリンダーが、もうイカれとるか……」
ゲンショウは、黒いオイルを血のように吐き出しながら膝をついた。
右腕の義手は装甲が剥がれ落ち、火花を散らしている。内蔵された魔力炉心も限界を超え、いつ爆発してもおかしくない状態だった。
背後のシェルターからは、彼が数十年かけて拾い集め、守り抜いてきた孤児たちの泣き声が微かに聞こえる。
(……ワシの命など、とうに惜しくはない。だが、この子供たちだけは……! せめて、次の救助船が来るまで……!)
だが、無情にも空を覆うほどの新たなドローンの群れが、彼に狙いを定めた。
ゲンショウが己の魔力炉心を暴走させ、最後の「自爆攻撃」を仕掛けようとした、その時。
#### 2. 慈愛の強襲:サイボーグの強制オーバーホール
――**ドゴォォォォォォォンッ!!!!**
天から、黄金のプラズマを纏った巨大な獅子が隕石のように降り注ぎ、ドローンの群れを一瞬にして蒸発させた。
「なっ……!? ま、魔物……!? いや、神獣か!?」
ゲンショウが驚愕して目を見開く中、ノヴァの背から、一人の少年と少女が飛び降りてきた。
「間に合った! おじいちゃん、もう大丈夫だよ!」
「お師匠様、彼の機械化された身体、瘴気と金属疲労で完全に限界です! すぐに修復を!」
リオンがゲンショウの火花を散らす右腕に両手を添え、シズルが錬金術の回復陣を展開する。
「や、やめろ若者たちよ! ワシの体はすでに魔力炉心が融解寸前じゃ! 触れれば爆発に巻き込まれ……」
**カアァァァァァァッ!!!**
ゲンショウの警告は、リオンの手から溢れ出した【神羅万象の絆】の圧倒的な慈愛の光によって掻き消された。
爆発寸前だった魔力炉心が急速に冷却され、それどころか、ボロボロだった鉄屑の義手や人工骨格が、瞬く間に「未知の超合金(神輝鋼)」へと再構築されていく。
「……なん、じゃと……? ワシの体が、新品……いや、以前よりもはるかに軽く、力が漲って……」
ゲンショウが、ピカピカになった自分の両手を信じられないものを見るように見つめる。
「おじいちゃん、ずっと一人で子供たちを守ってたんだね。かっこいいよ! でも、もう戦わなくていいからね」
リオンの無邪気な笑顔に、武を極めた百戦錬磨の老人は、ポロポロとオイルではない「本物の涙」をこぼした。
#### 3. 規格外のお引っ越し:オン・ザ・タートル
ドローンの掃討が完了した空に、巨大な影が落ちる。
上空を回遊していたSSランクの『星殻の巨亀』が、激しい戦闘の気配を察知して降下してきたのだ。
「おっ、亀さんだ! ちょうどいいや!」
リオンが嬉しそうに飛び上がり、ハクヤ(神狼)の背に乗って、そのまま月ほどもある巨亀の鼻先へと飛んでいった。
『……ォォォォォ……(小さき者よ、何用か)』
星の重力すら歪めるような、深く古い声がリオンの脳内に響く。
「亀さん、背中の森、すっごく綺麗だね! あのね、この星、もうすぐ壊れちゃうから、下のおじいちゃんたちの家、君の背中に乗せてもいいかな? その代わり、俺の『箱庭』の海に招待するよ! そこなら、瘴気もないし、毎日シズルさんの美味しいご飯が出るよ!」
『……フム。我は数万年、孤独に星の海を漂ってきた。……賑やかな海も、悪くはない』
リオンの慈愛の波動が巨亀の心に触れ、あっさりとした同意が成立する。
『ピコンッ!』
『星殻の巨亀(SSランク)とのテイムが完了しました!』
「よし! 君はすっごく大きいから、名前は**『カメ吉』**ね!」
――そして、本日も平常運転で「それ」が起きる。
**ピカァァァァァァァァンッ!!!!**
月ほどもあったカメ吉の巨体が、超新星の如き光に包まれた。
背中の森が「神域の世界樹の森」へと劇的な進化を遂げ、亀の甲羅は星々の運行を操る黄金の星図へと変化した。
『名付けによる超常進化を確認しました。』
『星殻の巨亀は、**【星海の大陸亀】(SSSランク)**へとランクアップしました!』
「またSSS……」
艦橋でモニターを見ていたカイトとジンが、同時に遠い目をしながらお茶を飲んだ。
#### 4. 神々の土下座と、至高の老人ホーム
天鯨リヴァイと、超進化した大陸亀カメ吉の協力により、ゲンショウの守っていた孤児院は、カメ吉の背中の美しい森ごと、リオンの【無限の箱庭】の巨大な海エリアへと無事に移植された。
カメ吉の背中の大自然に降り立ち、「ここは天国か……?」と呆然とするゲンショウと孤児たち。
そこへ、空気を読まない黄金の光と共に、もはや「箱庭の風物詩」となった二柱の神が降臨した。
**ズザァァァァァッ!!**
『本当に、本当に申し訳ありませんでしたぁぁッ!! ご老体にサイボーグ化までさせて戦い続けさせるなど、神としてあるまじき老害ならぬ神害行為!!』
輪廻神クロノアの、息を吐くように滑らかなスライディング土下座(五回目)が炸裂する。
『カッカッカッ! 良いスライディングだクロノア!』
過保護神アルトワールが、今回も絶好調で扇子を広げた。
『よくぞ耐え抜いたゲンショウ! 子供たちを守るその武の心、見事なり! さあ、隠居生活を満喫するための、この過保護神からの最高のギフトを受け取るがよい!』
> **【ゲンショウへの付与:|武の極致・全自動メンテナンス道場】**
> **効果:** 限界を超えていた精神と機械部品を「永続的に絶好調」に保つ神具。道場で瞑想するだけで、体内の機械が全自動でオーバーホールされ、常に全盛期の武術のキレを維持できる。さらに、補給用の高級モーターオイルは「極上の玉露(緑茶)」の味がし、飲むだけで寿命が延びる。
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「……おおおっ! なんという清々しさ! 関節の軋みも皆無! しかもこのオイル、ワシが地球で愛飲しておった玉露の味そのままじゃ!!」
ゲンショウが、湯呑みに入ったオイルを啜りながら歓喜の涙を流す。
> **【孤児たちへの付与:|無敵のすくすく健康遊具】**
> **効果:** カメ吉の背中の森全体が「絶対に怪我をしない超安全な遊び場」に変化する。どれだけ高い木から落ちてもトランポリンのように跳ね返り、泥遊びをしても服が自動で浄化される、育児ストレス・ゼロの神環境。
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「「「わあぁぁぁっ! 森だ! お外で遊べる!!」」」
ずっとシェルターに閉じ込められていた子供たちが、歓声を上げてカメ吉の背中の森へと駆け出していく。
「おじいちゃん、これからはカメ吉の背中で、子供たちと一緒にゆっくり休んでね!」
「……おお。リオン殿、そして神様方。この御恩、生涯忘れませんぞ。……子供たちよ、ご飯の前には必ず手を洗うのじゃぞ!」
ゲンショウは深く頭を下げ、リオンの慈愛と神の過保護によって、死に場所を探していた老武闘家は、最高にハッピーな「隠居&育児ライフ」を手に入れた。
SSSランクの大陸亀カメ吉を、新たな「箱庭の動く島」として迎え入れたアストラル・クルーザー・マキナ。
次なる目標は、悪魔と契約した『星屑の豪商・マルコ』と、Aランクの『流体水銀の機巧粘体』。
救出とテイムのフルコースは、休むことなく次の星系へと続いていく。




